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The Verve『Urban Hymns』A面
いくつかある、音楽が浮き出ている記憶のひとつ。
10月、友人、下北沢、trouble peach、The Verve。
断片がつながり、カタカタカタと古い8ミリフィルム映像のように頭の中でまわりはじめる。
***
99年10月の下北沢、わたしは小学校からの友人行きつけの小料理居酒屋で小腹を満たし、ほろ酔いになっていた。
(なんだこのセンスの良さは!)
と、友人を羨望の眼差しで見つめたくなる明るくこざっぱりとした店だったと思う。
その店を出て、終電までの時間をどう過ごすか。
学生のころから店の前を通るたび、気にはなるけど入る勇気が出ない、たたずまいからして独特な雰囲気を醸し出している、そんなバーに誘ってみた。
そこは、夜になるとピンク色のネオンが目印になる trouble peach(トラブルピーチ)という名前のロック・バー。
深く詮索する風でもなくOKしてくれた友人に感謝し、なかなか急な階段を上って2階の店内へと足を踏み入れた。
うす暗い店内、レコードの棚、海外アーティストのポスター、タバコの煙と匂い、先客の声。
カクテルのようなものを注文し、酒の肴をつまみながら、なにか楽しい会話をしていたはず。
でも覚えているのは、わたしの席から見えたマスターのレコードを交換する仕草や、ターンテーブルにのせられたレコードをめぐるあれこれ。
そのレコードがかかるまでは、Neil Young(ニール・ヤング)が流れていて。
彼の歌声やハーモニカが、タバコのしみ込んだ壁にスーッと吸い込まれていく。
店に流れる時間と70年代の音楽が共鳴しているような心地よい感覚。
次にマスターが手に取ったジャケットは『Urban Hymns』。
Blur(ブラー)でもOasis(オアシス)でもEmbrace(エンブレイス)でもOcean Colour Scene(オーシャン・カラー・シーン)でもなくThe Verve(ザ・ヴァーヴ )。
オーケストラのストリングスではじまる「Bitter Sweet Symphony」から
(こっちも店の雰囲気に合う! むしろこっちのほうが…)
ってなる。
(The Verveってこんなにカッコよかったっけ?)
(スキー場で異性が何割増しか素敵に見えてしまう ”ゲレンデマジック” みたいなものか? いや違う)
そうこうしている間、4曲目「The Drugs Don't Work」までの流れが素晴らしくて。
A面が終了すると、B面にひっくり返されることはなく次のレコードへ。
あとの記憶は、小田急線の終電が混んでいたこと。
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後日『Urban Hymns』のCDを購入し、聴いてみたのですが、やっぱりA面部分が好きだなぁと。
A面・B面って言葉は、死後のようになってしまっているけど、A面・B面それぞれ盛り上がりを意識して構成されてるメリハリの効いた作品をあらためてレコードで聴くのもいいかなと思ったりします。
EAGLES(イーグルス)『Hotel California』のような。
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友人とは今でも年1くらいのペースで会っていますが、音楽の話はまったく出てきません。
あのときもあれからも。
それでも、trouble peach、下北沢、友人、10月、の記憶が、The Verveの名盤『Urban Hymns』のA面につながるのです。