大切な自分に気づかされた大切なこと
母の介護と旅立ち、そして向こうの世界とこちらの世界の架け橋⑱
母と二人の生活をしている時にあった、ある出来事です。
ある日私は歯磨き後に、鏡に口の中を映していました。
歯医者さんにお世話になりっぱなしの私の、歯磨き時の大切なチェック。
・・・あれ・・・口内炎?
ふと、右頬の内側にある、できものに気が付きました。
口内炎にしては痛くないし・・・
何だろうと思いながらも、きっとすぐに治るだろうな・・・と、そのまま様子を見ることにしました。
普通に口を開けただけでは見えにくい場所にできていた為、意識して見てみないとついつい忘れてしまう、そのできもの。
しかも痛みもなかったので、そのままにしてしまっていました。
でも半年くらい経過した頃
えっ・・・まだある・・・何で・・・?
さすがに不安になってきたので、同じような症状についてネット検索してみました。
そこにずらっとでてきたのは、一気に不安を盛り上げてしまうようなことばかり・・・
えっ・・・・・
そこに出てきた画像も説明文も、そのほとんどが、
がん、または、がん化前段階というものばかり。
まさか・・・
それらを見ているうちに、どんどん身体がこわばり、心臓の音がやけに高く響き、足先や手のひらが急に汗ばんできて、呼吸が浅くなってくるのがわかりました。
えっ・・・いや、違うよね・・・でも、当てはまる・・・かも・・・
いやいや、それは困る、うん、そんなこと絶対に困る。
私に何かあったら、母はどうなるの?
母を一人になんて、絶対にできない!
心の中で必死に不安を打ち消そうとしても、次々沸き起こってくるネガティブな発想。
病院へ行ったほうがいいかも・・・でも、何科?
誰かに聞いてみる勇気もなく、どうしようどうしようと悩んでいたら、タイミング良く?歯医者さんに行かなくちゃいけないことが発生。
どうして行くことになったかなんてもうすっかり忘れてしまったけれど、歯医者さんで聞ける、と思ったことははっきりと覚えています。
診察予約の日、先生に歯の状況を説明した後、口の中のできものについても質問してみました。
先生はしばらく口の内側にできたその何かをじっくりと見た後、私に告げました。
それ、すぐに調べてもらって。こちらの治療は後回しでいいから。
紹介状書くから、それ持って専門科ですぐに診てもらって。
・・・えっ?どういうこと?
私は恐る恐る質問してみました。
これってもしかして、腫瘍とかの可能性が・・・?
う~ん・・・そうだねぇ・・・否定はできないかな・・・
いつもははっきりとした口調でしか話さない先生が、こんな歯切れの悪い、中途半端で、しかも控えめな言い方をするなんて初めてでした。
そのことがますます私の胸を締め付けて、頭の中に次から次へと浮かんでくるマイナス感情を消し去ることに必死でした。
次の週末まで待って、この紹介状を持って病院受診しなくちゃ・・・
・・・もしこれが癌だったら・・・
癌って、自分の細胞なんだよね、元々ある自分の細胞が変異してしまったものなんだよね・・・
だったら、元の、本来の細胞に戻ってくれたらいいんだよね・・・
うん、これも大切な私の一部なんだから、嫌いになるんじゃなくて、大切に向き合ってみたら、わかってくれるのかも・・・
だって、私の一部なんだもの!
その時、私は本気でこんなことを考えていました。
これは大切な私の一部。母を一人にはできないのだから、元の細胞に戻ってもらえるようにお願いしたらわかってくれるはず。
その時から本気でそう信じて、ずっとずっと自分に言い聞かせていました。
鏡の前に立ったら、口を大きく開けて、その小さな何かに、本気でお願いを繰り返し続けました。
歯医者さんに行ってからの1週間、ただただひたすら同じことを語りかけていました。
あなたは私の大切な細胞だから、これからも仲良くしてほしいの。
だから、お願いだから、元の姿に戻ってね。
これからはもっとあなたを大切にするから、あなたの声に耳を傾けるから。
そして病院へ行く前日の夜、いつものように鏡の前に立ち、口の中をのぞきこんでみました。
・・・あれ・・・なんだか、小さくなってる・・・?
いや、気のせい?
いやいや、やっぱり小さくなってる・・・よね・・・
ずっとずっと変わらなかった口の中のできもの、それが確かに小さくなっていたんです。
えっ、ホントに?
期待と不安が入り混じったまま、翌朝をむかえました。
睡眠時間が短い上に眠りも浅くて眠たいけど、なんか落ち着かなくて朝早くから起きてしまいました。
起きてすぐに向かったのは鏡の前。
鏡の前で大きく口を開けた時、胸の鼓動が一気に高鳴りました。
ない!
消えてる!
本当に?本当に?本当に、消えた?
そうなんです!半年以上ずっとあったはずの私の細胞の一部でもある”何か”が、突然きれいに消えたんです!
いえ、消えたのではなく、本来の状態に戻っていたんです。
もうただただびっくり!
私のお願い聞いてくれたのかも!
それでも朝一で紹介状を手に、どきどきしながら病院へ向かいました。
病院の先生は私の口の中と、受け取った紹介状を何度か見比べながらじっくりと診察した後、
特に異常は見られませんね。
本当に消えたんだ!じゃなくって、元に戻ってくれたんだ!!!
驚きと嬉しさで思わず声を上げそうになってしまいました。
理由はわかりませんが、とにかく今は何も問題なさそうですので、診察結果はこちらからこの先生に報告しておきますね。
先生の言葉に安心して、体の力が抜けてしまいそうでした。
そこにあったのは、言葉にできないくらいの深い感謝と安堵です。
何よりも、一番心配だったことがとりあえず今は手放せたんです。
これで母を不安にさせたり、母をひとりぼっちにさせてしまうことはないんだ。
その後、その何かは静かに突然消えたまま、ではなくって、本来の姿のままでいてくれます。
結局何だったのかはわかりません。
本当に腫瘍のようなものだったのか、それとも特に問題のないできものが半年以上口の中に居座ってただけなのか。
あるいは、私への何か大切なメッセージだったのかもしれません。
命には必ず期限があること、今を生きることの大切さや、母のことで必死になってて自分の身体のことを後回しにしてしまっていたことを気づかせ、自分のこともちゃんと労わってあげる大切さを思い出させようとしてくれたのかもしれません。
今振り返ってみても、やっぱりわかりません。
わかっているのは、とにかく大切なことを伝え、気付かせてくれたということだけです。