見出し画像

科学が示す「幸せへの3つのルート」

多くの人が幸せになりたいと願うのに、不思議なことに、幸せになる方法は学校では教えてくれません。

一方、世の中を見渡せば「幸せ」にまつわる情報があふれています。Amazonを叩けば、「幸せを呼ぶ〇〇習慣」とか「幸せを引き寄せる×××」といった本がずらりと出てくるように…

正直、どこか胡散臭いと思ったことはありませんか。

個人的に、「幸せ」という言葉を見ると無意識のうちに警戒してしまいます。直感的に、嘘くさいと思ってしまうからです。


「しあわせ」には、根拠がないから嘘くさかった

長い間、「幸福」は哲学が担う領域でした。哲学とは思想ですから、絶対正解はありません。正解がないとされてきたからこそ、たとえ著者の主観による主張だとしても「幸せを呼ぶ商品」には値札がつくのです。実際、ある編集者の方が「幸せはお金になる」と言っていたそうです。

私はポジティブ心理学を学んでいます。ポジティブ心理学の詳細は割愛しますが、これまでの心理学が「心のマイナス状態をゼロに戻す」ことに注力していたのに対し、「ゼロの状態をよりプラスの方向に持っていく」ことを研究する学問です。日本では聞き馴染みがないかもしれませんが、オーストラリアの初等教育や、アメリカ軍など、欧米を中心に多くの分野で実践的に活用されています。

ポジティブ心理学の世界では、「幸せ」というものを科学的に、しかもある程度体系だてて研究しています。幸せについて多くのことが明らかになっているのに、大人になるまでその知識に触れられなかったのは、惜しいことです。

これから、ポジティブ心理学者たちが明かした「幸せへの3つのルート」についてご紹介します。


悦び(Pleasure)の追求 ヘドイズム

ひとつめのルートは「ヘドイズム(Hedoism)」。日本語に訳すなら「快楽主義」とでも言いあらわせるでしょうか。

ヘドイズムとは、悦びを最大限に追い求め、反対に苦しみや痛みを最小限に追いやることを追求します。例えば、好きなものを食べると幸せな気持ちになりますし、疲れた身体を暖かいお風呂でほぐすのはとても気持ちが良いものです。このように、訓練等を必要とせず、自分が選択した結果として快がもたらされるという側面では、もっとも手に入りやすい身近な幸福のあり方と言えるでしょう。

一見すると、快楽主義は退廃的に思えるかもしれません。しかし、人は誰しも自分で自分を幸せにする責任を負っています。この手の幸福は、例えるなら「ご機嫌スイッチ」その持続時間は短くとも、最も手っ取く自分の気持ちを良い方向へ向かわせることができる方法の一つです。気持ちを穏やかにする術を知らず不機嫌を垂れ流して生きる人生より、多少太るリスクがあったとしても、ひとかけのチョコレートで朗らかな気持ちに浸れるひとの方が幸せそうであることに疑いはありません。

ちなみに、ヘドイズムを主張した人物で有名なのがエピクロスです。彼は、人間の根本的な義務は喜びを生じさせる機会を最大化することであり、そういった機会や体験こそ善い行いとする倫理学上の立場をとりました。


忘我の没頭 フロー

ふたつめの幸福のへのルートは「フロー(Flow)」に至ること。
何らかの活動に極度に集中している時にフローは起こります。皆さんも、何かに夢中になって取り組んでいるうちにあっという間に時間が過ぎ、空腹に気づかず食事を取ることも忘れていた、という体験はないでしょうか。

フローを体験している間、時間はまるで溶けるかのごとく一瞬で経過します。その間、自我や周囲への関心は消え去り、目の前の活動だけに全意識が集中します。何よりも特徴的なのは、活動を終えて振り返った時はじめて、いかに自分が楽しんでいたかを認識するという体験です。体験の最中は忘我の集中状態で、「楽しいなあ」などの感想すら思い浮かばないほど目の前の活動にのめり込んでいるのです。その意味で、活動の過程そのものを楽しむこと(ジョイ/Joy)とは全く性質が異なります。

例えば、バスケットボール選手が試合開始のホイッスルを聞いた瞬間から試合終了までの間、ピアノの演奏家が鍛錬を重ねた曲の演奏に没入している間、役者が演技の中に入り込んでいる間など、彼らはフローの状態であることが多いといわれています。まるで水が流れ続けるように身体の動きは止まることなく、直感的な感覚が、思考というクッションを挟まずに身体に染み付いた動きをダイレクトにコントロールしている状態、と言えるでしょうか。


あなたの徳に根ざす行い ユーダイモニア

最後の幸福へのルートは「ユーダイモニア(Eudimonia)」

本当の意味での幸せとは、個々人それぞれの”徳(Virtune)”を育み、その指針に沿って生きていくことで得られるという考え方です。人々の中には、独自の”良い素質”というものが眠っています。それは強靭な正義感かもしれないし、溢れるような慈愛かもしれません。この自分の中にある”良い素質”を発展させ、そのスキルや才能をより良いことの実現のために活用していくことが幸福に繋がるという考え方です。

非常に抽象的なので、もう少し噛み砕きます。
例えば、臆病な人がいたとします。その臆病さは、元を辿れば卓越した分析力と先見性に由来しているのかもしれません。今は「分析力」「先見性」といった良いはずの資質が、絶えず不安の芽を探し自分を縮こませるネガティブな方向に働いてしまっています。この良い資質を、より良いことの実現にベクトルを向けて鍛えていきます。すると、様々な状況のリスクや問題解決の糸口を見つける戦略家として機能させることができるかもしれません。しかも戦略家としてのスキルは、あなたが持って生まれた資質に基づいているので、その発揮はあなたにとってごく自然な行動となるのです。

自分が持っている資質を鍛え、人生の折々で発揮することで幸せに到達できるという考え方は、まさに自分の人生をフルに活かして生きる「人生の意味=Meaning」を追求する概念といってもいいかもしれません。


3つのルート、結局どれが良いのか

ポジティブサイコロジーでは、創造的な活動を可能にする「Flow」や、自身の徳を認め育んで行く「Strength Character」といった概念を中心に様々な研究が花開いています。これらは刹那的な悦びではなく、もっと本質的で永続的な喜びをもたらすための術であり、私たちがよりよく生きるためのヒントをもたらしてくれます。

しかし、どの幸せのあり方も、最終的には人生への満足度にひも付いているといいます。その意味では、それぞれの幸せの形に優劣はないといって良いでしょう。

「幸せ」とは漠然としたものですが、幸せへの性質の異なるルートごとに名前がつけられることで、もう少し具体的で、語りやすいものになると思います。科学者によって、人生の満足を高める幸せへのルートが明らかにされました。しかし、自分にとってどれが本質的な幸せに至る道なのかは、各々が探し続けなければいけないのかもしれません。


参考
「Strengths of character, orientations to happiness, and life satisfaction」Christopher Peterson , Willibald Ruch , Ursula Beermann , Nansook Park & Martin E. P. Seligman

#幸福 #幸せ #しあわせ #心理学   #生き方   #考え方   #メンタル   #ポジティブサイコロジー #ヘドイズム #フロー #Flow #ユーダイモニア


お読みいただき、ありがとうございました。 この文章があなたの心に響いたら、嬉しいです。