【読書】 「大人のいない国 」(文春文庫)
「読むだけで頭が良くなる本」というものが存在すると思う。
大人のいない国 (文春文庫) 鷲田 清一 (著), 内田 樹 (著)
たとえばこれ。知的にエッジが効いているというだけではなく、文体そのものに意識を変える力があると、私は思っています。
美しい文章、優れた文章には、人の意識を変える力がある
内田樹先生、鷲田清一先生は間違いなく、そのような文章の書き手です。
内田先生ご自身も、ご著書『若者よマルクスを読もう』の中で、そのような意味でマルクスを読むべきだ、と述べていた記憶が。
p41「ぼくがマルクスを愛する最大の理由は、マルクスが世の中の仕組みをさくさくと解明してくれたことでも、どうやって階級のない社会を構築するか、その筋道を指し示してくれたことでもなく、マルクスを読むと自分の頭がよくなったような気になるからなんです。」(内田樹「若者よマルクスを読もう」)
「頭がよくなったような気になる」。内田先生の方が表現が謙虚って、どういうこと?(そういうこと)
『大人のいない国』 第4章「呪いと言論」
『大人のいない国』4章「呪いと言論」で、言論の自由について内田先生はこう書かれています。
P89「あらゆる言葉はそれが誰かに聞き届けられるためのものである限り口にされる権利がある。これが「言論の自由」の根本原理と私の信じるものである。およそ人間の脳裏に生じたすべての言葉は、それが人間の脳裏に生じたという一事を以て、何らかの人間的真理を表示している。」(太字は真木によるもの)
だから、どんなにその「真理」が邪悪であり愚かであっても、沈黙には勝る、と内田先生は言われます。ただし、発信者には受信者に対する「敬意」がなくてはすまされない。私の言葉を吟味し査定するのは「他者」であるのだから。自分の言葉は誰にも同意も承認もされなくていい、というのは「言論の自由」ではなく「教化、洗脳、封殺の自由」だ、とも。
人間の脳裏に生じた全ての言葉は人間的真理である
私をハッとさせたのは、この一文でした。話者「個人」の真理ではなく、「人間的真理」という表現をしていたからです。
もしかしたら内田先生は、人間の「思考」がどこからやってくるかを直感的に知っているのではないか、と思ったのです。
思考はどこからやってくるのか
人間の脳は受信機で、思考はクラウドからやってくる。そこでは全てのデータが共有されており、「これはあなたの思考、あれは私の思考」という区別がない―。
ここで私の思考は、はじめに遡る。
もしかしたら「読むだけで頭が良くなる本」というのは、読む人の意識を「思考のクラウド」にアクセスさせてくれるのかもしれない。
美しく整った文章は、独特のリズムを持っており、それがシャーマンの儀式のように、人間の意識を変性させるのではないかー。
レヴィ・ストロースが文章を書く前にマルクスの本を書棚から取り出して広げたように、「この人の文章を読むと頭がよくなった気がする」人の本を読むことで、思考の源に意識を飛躍させることができるのかもしれません。
福岡伸一先生、丸山俊一先生の文章も、読むと頭が良くなった気になります。どちらも高度なのに読みやすく、美しい文章です。