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エンジニア採用難、コロナ禍、DX化の狭間でエンジニアリングマネージャー(VPoE/EM)職をどう考える?積極採用中の企業の傾向とは?

 本コンテンツでもよくEMという文字が登場するのですが、その後個別に「EMってなんですか?」とご質問頂くことが多々あります。

 Engineering Manager 。執筆にあたり調べてみましたが明確に業務を定義している文書はなさそうです。巷に散らばっている話を総合するとピープルマネージメントが大多数と言って良さそうです。採用・育成・チームビルディング・評価が中心になるかと思います。同様にEMの上位概念としてVice President of Engineering (VPoE)が存在します。今回はこれらの職種に対する需要や、不要なケース・必要なケースについてお話していきます。私自身もEMを念頭に活動・転職活動していたのでこのあたりの情報も折り込みながらお話します。

エンジニアリングマネージャー職の誕生と認知

 VPoEの日本国内での広がりについては2017年ころからメルカリ、スマートニュース、エムスリーを皮切りに新設する会社が増えてきました。

 一方でCTOが集まるTechCrunch Japan主催のCTO nightは2013年から開始。その直後にスタートアップブームが起き、CTO nightが混むという珍事を耳にしました。個人的な見解ですが、2010年代前半まではCTOが技術統括と共にエンジニアのピープルマネージメントを担当していましたが、2015年頃からのエンジニア売り手市場の本格化に伴い採用と社内での繋ぎ止め・メンタリングコストが爆上がりした結果、技術統括事業を圧迫してきたためにピープルマネージメント業務を分離したのだと捉えています。そしてVPoEを補佐する形でEMが登場したと認識しています。

 このVPoE・EM職ですが、それなりの規模のベンチャー企業経営者でも「なんですか、それは?」となる方が多々居られるのでCTOほどの浸透とはまでは行ってないのだろうなと思っています。なぜか?それはエンジニアの区分でありながら直接卵を産まない(ソースコードを書かない。設計も構築もしない。)というところにあるのではないかと考えています。

VPoE/EM職のリアルな役割

 実際にどのような役割を果たすかを触れてみたいと思います。

 まずは採用。これまでお話してきたようにITエンジニア採用の加熱具合は異常と言えます。採用プロセス、チャンネルは多様化を極めていますので、人事に任せっぱなしというわけには行きません。採用現場に出ることはもちろん、著名な方であればCTO/VPoEとして広告塔になるというのは1999年に小飼弾氏を採用したオン・ザ・エッヂからの伝統的手法です。


 採用プロセスも大変ですが、SNSが一般的な今ではITエンジニアはTwitterやソーシャルコミュニティを通して他社比較・他者比較が容易です。ちょっとスカウト媒体に登録すればおおよその年収提示だって受けられます。30代前半くらいまでは「隣の芝は青い問題」にずーーーーーっと晒され続けます。そして30代中盤に差し掛かる頃に「このままで良いのだろうか」「昔は35歳転職限界説とかあったし」と「最後の転職」を意識して動いたりもします。

 採用して終わりではなく、繋ぎ止めも頑張らないと他社に引き抜かれてしまいます。これを防ぐためには1on1なりサーベイなりを通して心象の変化を察知し、吸い上げ、解消しなければなりません。オススメの本としては下記です。1on1で進捗確認したり、サーベイ乱発したりするのは賛成しかねます。

 他者比較の機会が増えたということは、自身のキャリア設計などについても不安に晒される機会が増えるということです。同じく1on1などを通し、キャリアパスの助言が必要です。場合によっては希望するキャリアの実現後押しを配置転換で実施する必要もあるでしょう。極端な例では優秀なエンジニアを繋ぎ止めるための新規事業もあり得ます。また、定期的にメンバーを集めて開発組織の方針をプレゼンしたり、ミッション・ビジョンを再掲するなどしつつ、方向を整えていく必要があります。

 評価・昇格・昇給についても齟齬があると離職要因になります。不満があれば転職できるのが30代前半までの経験者ITエンジニアなので細心の注意を払う必要があります。何とか評価を数値化できないか頑張っている会社さんは私も含めて多いかと思いますが、先日のEMTalk3にてメルペイさん、Greeさん、コネヒトさんが「定性評価は多いです」と仰られていたのでこのメンツが言うなら無理かもなと思い始めました。お互いに納得することができればひとまずのゴールです。

 年収改定や賞与査定も厄介です。「他社でn万円の提示を受けたので私はn万円の価値があります」と言われても「はい、そうですか」と言えない辛さがそこにはあります。利益率の高い新規事業を彼ら自身が作るのが良いと思います。

 1on1やサーベイで吸い上げた意見は内部改善に反映させる必要があります。生き急ぐ若手は内部調整とか他部署との軋轢とか無視して「遅い」となじりながら退職するのでレポート責任も発生します。

 これらのモヤモヤを集中的に扱うヒトに興味があるヒトこそがエンジニアリングマネージャーとなれます。

現職で経営層がエンジニアリングマネージャー職をどう思っているか診断する

 現職の経営層がエンジニアリングマネージャーをどう思っているかのジャッジは簡単です。経営層に向けて「VPoE」についての話題を振ってみてのリアクションでまず分かります。「何それ?」と返ってきたら解説してみましょう。「いらないですね」と返ってきたら脈なしですが、とりあえずソフトウェアファーストをそっと差し出してみて更にリアクションを待ってみるのも手かと思います。その上で読もうとしなかったり、「いらないですね」と返ってきたらそういうことです。

VPoE/EM職が不要な現場はあるのか?

 私自身、EMの片隅に居るので自身の職種を不要 な場合があるというのは胸が痛みますが、何社さんもお会いする中でいくつかあるのではないかと考えています。

 1つ目は終身雇用が約束できる企業です。ないしは勝手に終身雇用だと思われる企業です。どう考えても需要が消えなさそうな業界で、圧倒的シェアやデータ量を持ち、「ここを離れるのは得策ではない」と大多数のエンジニアに自然と思わせることができれば不要でしょう。

 2つ目は以前お話した下記コンテンツで言うところの消極的安定志向を集めることです。「今のままで良い」「転職怖い」という方を集めるのです。

 3つ目は物分りの良いオトナを集めることです。今回の転職活動で何社か存在を確認しました。著名自社メディアやゲーム開発現場を退役(敢えての表現)した酸いも甘いも経験した方を集めると、メンタリングコストが下がります。

 4つ目はフリーランス、副業を含めた業務委託で固めること。ただし日銭を稼ぐことが目的の方が集められれば問題ありませんが、スキルアップや+αの経験を求める方が集まると、事業の意義や身につくスキルを唱えたりプレゼンしなければならないので難しいです。

 5つ目は受託に出すこと。現実解だと思います。更に確実性を増すためには前回コンテンツでも触れた下記の体制が手堅いと考えています。

採用はしたい、内製化もしたいがそんな余裕がないという場合もあると思います。一人あたりの紹介料はそれなりに掛かりますが、種まき・声掛けのコストがほぼ不要で結果的に安く済む可能性の高い紹介会社あたりで手堅くPjMを採用しその方を起点にSIerに開発を依頼されたり、やや割高ですがフリーランスに依頼するというのは戦略としてはアリだと考えています。 

 これらに加え、副次的な要素として地理位置的に明確な派手な待遇の他社が居ないことも重要です。具体的には六本木・渋谷駅近エリアは厳しいです。加えて、今はリモートワークも増えてきたので、SNS上でのマウント合戦で負けないことも重要になってきているように思います。リモートワーク時のベランダ写真でマウント取られることをもあるので難しいですね。

 エンジニア発信で構造改革をしたい、事業改革をしたい、元気な自走する若手が好きという会社さんであればVPoE/EM職は置かざるを得ないと考えます。

2020年夏でもVPoE/EM職を積極採用していた会社の傾向

 既にIT企業として頭角を表している企業であれば、概ねVPoE/EMは充足している傾向です。中には2019年までの好景気時代に勢いで採用したものの持て余している企業さんも見受けられました。気まずい。

 追加募集というのは私が知り得た範囲では少ないです。IT部門に対してしっかりとしたコスト意識や採用シーンに対する理解がある企業であれば、エンジニア20名に対して1名のEMが必要と考えられているところはありました。

 多くの場合、VPoE・EMで採用するけども当面はDevOpsという企業です。数は減りますが当面はPjMという募集も確認できました。

 一方で、本腰を入れて採用されている企業もあります。これから採用組織を作る、コロナ禍の今敢えてエンジニア組織を拡充したい、内製化したいというニーズです。また、DX化を図りたい製造業もあります。なかなかタフではありますが、知人の会社で一社EMを探している製造業がありますので興味がありましたらお声がけください。





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