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素晴らしきこの世界【掌編小説】
今日、俺は二十歳の誕生日を迎えた。昨日、同じ大学に通う俺の恋人がスマホに動画を送信してきた。その動画には彼女の姿が映っていた。彼女の隣には俺の知らない男がいた。知らない男と彼女は俺がよく知る彼女の家のベッドに二人で座っていた。男がこちらを見て微笑んだような気がした。長い動画だった。俺は最後まで見ていた。彼女は延々と男の下にいた。男の背中に腕を回し何かを探すようにしながらやがて動きを止めた。聞いたこ
もっとみるホワイトイルミネーションのクリスマス
さようならと
言う代わりに
この街を
彩る
ホワイトイルミネーションが
あなたの
長い
髪に投げかけた光と
明かりを
僕は
覚えたままに
生きたままで
生きて
生きて
生きて
生きて生きて生きて
生きたまま
ただ
生きた
ままで
あなたを
見かけましたよ
同じ場所で
この街の
東と西を区切るイルミネーションの
3丁目の交差点で
あなたは
とても幸せそうで
とても嬉しそうで
とても無邪気で
とて
パパ【超ショートショート】
恋人が、僕に送ってくれたスマホ動画。一所懸命、苦手な料理をする動画。僕のために、頑張ってくれたらしい。「パパ、ちゃんと撮ってね!」と、彼女は撮影している人に、そう言った。パパは、「分かったよ」と。実に爽やかな光景だった。彼女の料理を、早く、食べたくなった。僕は間違いなく、世界で一番、幸せだった。パパが、そういう意味じゃないと、気づくまで。彼女には、父親がいないのだ。
雨【詩のようなもの】
静かな気配に
祈りを捧げています今も
雨が
いつまでも降り続いて
雨は
いつの間にかやんでしまって
雨も
わたしの心の片隅で
静かに
固まっているのです
どしゃぶりの雨が
悲しい雨が
冷たい雨が
切ない雨が
きっと雪に変わるまで
この街を
黒く染めてしまうので
わたしの心は
静かに
固まっているのです今も
恋【詩のようなもの】
冷たいあなたの歪んだ顔に
そっと手を当て
考えてみる
わたしはなぜ
あなたを愛していたのか
愛してる?
と
聞いたとき
無言だったあなたを
何もない時間の中で
深夜にひとり
考えている
もう二度と
呼吸しないあなたを
生きる【詩のようなもの】
どうしようもないこの人生の
何もない生き方の
向こうの闇を見つめ
わたしは
首を傾げてうずくまる
もう少し生きてみようかと
思いながら朝までの
距離感におびえている
今日も夜が怖かった
だけど夜になった
今日も昼が怖かった
だけど昼になった
きっと明日も朝が来るのだろう
きっと明後日も昼が来るのだろう
きっと三年後も
夜が来るのだろう
わたしが生きている限り
わたしが死んだところで
時間は