【小説】坂道で贈られたXmasプレゼント #2000字
渋谷の坂道を上りきるあたりに有名なパスタ店がある。
そこで食事をしている2人の男女は大学生のようだった。
男性は長い足を投げ出して片手をポケットに入れたまま、食事を口に運んでいた。
そんな格好でも育ちの良さが漂っていた。
ふたりの会話がきこえてきた。
とても面白い幸せな会話だったのでそのままお伝えしたい。
「びっくりしたわホント。もし質問に答えていたら全国に私たち、放送されたのかな?」
女性は少し興奮して言った。
「かもね。とつぜんテレビクルーに囲まれたなんて」
「NHKだよ、近いからあそこで拾うのかな。でもさ、あんなにたくさんで大げさに撮影するんだねえ。ライトや反射板でグルリと囲まれちゃったね。」
「ビルの物陰から囲むようにパッと。驚いた驚いた。」
「狙われていたかな? ほかにもたくさんカップルはいたのに。 俺たち目立ってた?変わった格好してないのに」
あの街頭インタビューの撮影は案外大掛かりなのか。
「答えても良かったんじゃない? 好きなクリスマスソングは? というあの質問」
「一瞬そう思って答えかけたんだけど。。。」
彼は困った顔になり言葉が途切れた。
「だけどなに?」
「ダサい曲を言いかけてだまっちゃった。下手すると俺たちそれが全国に流れるわけだ」
「なに?」
「ママがサンタにキスをした。『I saw mammy kissing Santa Clause』」
「ダサいっていうか知らないよ」
「慌てて言い直そうとして思いついたのが ビングクロスビーの
「ホワイトクリスマス」」
「やめてよ」
吹き出すように遮った。
「あと、たとえ仮にだよ? 無難なことを答えたとしても学校の奴らはいいよ、近所とか親戚とか、なんかなあ。。」
「なんで突然物陰からぐるりと囲まれて。。ほかにも人はあんなにいたのにあの人たちは無視したんだろ?」
「知らねえよそんなの」
髪の毛をいじりながら面倒くさそうに彼女の話は続いた。
「私聞いたんだよね、テレビに行った人から。快の原則、美の鉄則と言って、視聴率のためには綺麗なものを映像にしないといけないルールがプロにはあるんだって!」
「おお、言いたいことは分かった」
彼は鼻で笑い、そして目でも笑った。
「私たちって似ているのかな?」
「さあ? 似てねえよたぶん」
「3年前にみんなにばれたとき、みんなにお似合いって言われたけど、それって似ているのとは違うの?」
2人はお互いを見つめあったまま静かにほほ笑んだ。
「同じことをNHKも思ったのかな?」
***
「邪魔が入ったけど話の続き。どうしようか? 別れる?」
別れ話をしながら坂道を登っていたのか!
「私はクリスマスに誘われているのよ。東大の津島君。ラグビーの人、覚えている?」
「あ! あいつな。サークルだろう? 体が大きいだけで接触もしていないのによく転ぶあいつ?」
「なにその言い方、面白い。嫌いなの?」
2人にしばしの沈黙が流れた。
「じつはおれも予定作りかけていたんだ。浅井有里さん、可愛いよな」
「そんなことしていたのか! あ~~。あの人可愛いんだよねー。私と歩いていると自分が周りの人に馬鹿にされた気がして頭にくるってにらんでくるの。可愛いでしょ?」
「浅井さんを嫌いなのかい? なんか面白いぞ?」
にやにやと笑っている。
有里さんはね、と彼女の話は続いた。
「私は別に恥ずかしい服ではないし可愛くないわけではない、と、あなたが変なんだよ異常なんだよ、可愛すぎる! って、冗談で言っているのかと思ったら真顔で怒っているの! 怖かったけど可愛かった! なんでこんな目にあうんだ、とかブツブツ言ってて」
「おやおや、きみは浅井さんをバカにしたな? はいはいわかった。嫌いなんだね」
「バッグを右手でつかんで振り上げてね 投げるのか?と思ったら、投げるのをやめて その代わりに横目でにらんできた」
2人の雰囲気が楽しそうになってきた。
「話の続きだけどどうする? 別れる?」
「似ているんだろ? おれたち。お似合い?」
あらら、2人はお互いをニコニコと見つめだした。
やがて楽しそうに腕を組んで店を出て行った。
窓から2人を追うと、2人で何かを指さしながら笑いあっていた。
* * *
今日から数えて2週間後、今年も渋谷の街にクリスマスがやってくる。
予報によるとその日、強い寒気団に低気圧がかかる。
雪が降るのだろうか。
その日、2人は坂道で早めにとつぜん配られたサンタの贈り物を開き、楽しいクリスマスを過ごすだろう。
ジングルベルの鐘の音がやさしく聴こえてきた気がした。
満田票
【小説】姉弟 ~ある夏の日~ 1000字|Blog副代理|note
ちなみに
全国にある洋麺屋五右衛門はNHK近くが始まりでしたよね?
ひとつだけのこすならこれ
綺麗に書けたしこんなものを書きたいと思っていてかけなかった大学時代でした。脚本家やテレビのドラマ制作をやりたかったのですが才能なく落ちた経験。