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海外ノンフィクション書評#5「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?/トレバー・ノア著・齋藤慎子訳」(2018)
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本作の主人公は、自信の置かれた境遇を跳ね返すことも、笑い飛ばすこともしない。ただ強く生きていく。その姿に、生きる希望が湧いてくる。
「トレバー・ノア 生まれたことが犯罪⁉」は、アメリカを拠点に活動するコメディアン、トレバー・ノアの自伝である。幼少期から高校卒業後、人気コメディアンになる以前の出来事が描かれている。
1984年の南アフリカで、黒人の母・パトリシアと白人の父・ロバートの元に生まれたトレバー・ノア。当時の南アフリカはアパルトヘイト体制下で、人種差別が制度として定着していた。それも突如始まった制度ではなく、何世紀もかけて出来上がったものである。アパルトヘイト下では、異なる人種の間で性的関係を持つのは重大な犯罪だった。トレバーが生まれたことは罪だった。その環境においては。
何世代にもわたって続いてきたアパルトヘイトは、トレバーが6~7歳の時に終わりを迎えるのだが、パトリシアが妊娠した時は、そんなことは予測出来なかった。それでもパトリシアはトレバーを産んだ。とにかくパトリシアは強かった。逆境を跳ね返すだけの高い向上心と、それを実行する行動力を備えていた。「わたしがあんたを選んで、この世界に連れてきた。だから、わたしにできなかったことは全部させてあげる」というのが子育ての方針だった。パトリシアはトレバーを多くの場所に連れていき、様々な経験を積ませた。トレバーにとって母親は、とても大きな存在だった。
人種というものを子供の目線から見た本作を読んで、強烈に印象的だったのが「人は肌の色以上にことばで、相手が何者かを判断する」という一文だ。差別をしている側は、何か強い意志の元、「差別をするぞ」と意気込んで差別を行うのではない。そこには自らが定めた厳格なルールも存在せず、ただ無意識のうちに行っている。
トレバーの歩んできた人生は、普通じゃないけど普通かもしれない。誰しもが経験するであろうトレバーの、友達や恋愛にまつわるエピソードを特別扱いすることは、私にはどうしても出来なかった。
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