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海外ノンフィクション書評#4「キッチンの悪魔 三つ星を越えた男/マルコ・ピエール・ホワイト、ジェームズ・スティーン著 千葉敏生訳」(2019)

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努力の果てに何が見えるか。一つの夢にその身を捧げ続けた先には、どんな未来が待っているのか。これは、ある男が前人未到の称号を手にするまでの記録である。

「キッチンの悪魔 三つ星を越えた男」は、イギリス人シェフであるマルコ・ピエール・ホワイトの半生を綴った自伝だ。10代半ばで料理人となったマルコは、本書執筆時点で、ミシュランの三つ星を獲得した唯一のイギリス人シェフである。

シェフの父親を持つマルコは、高校中退後、シェフ見習いとして調理場に立ち始めた。厳しい料理長たちの元で、料理の修行を始めた。高級店で料理の経験を積めたのは、才能があったのも理由の一つだが、環境にも恵まれていたのだと思う。

料理の道を極めるため、高級レストランを転々とする。関わった全ての店にドラマがあり、人との繋がりがあった。タダ働きも経験した。何度も叱責された。それら全てを糧にして、三つ星獲得という偉業へ、愚直に突き進んでいった。

1987年、マルコは自分の店をオープンさせた。印象的だったのが、従業員に厳しく当たる場面だ。自らを過酷な環境に身を置いていたこともあり、今の時代では考えられない傍若無人な振る舞いも行っていた。「キッチンの悪魔」と呼ばれる所以がそこにある。ただ、基本的に部下に対して容赦はしないマルコだが、「人は誰でも、失敗を犯す。多くの場合、失敗は成功の第一歩だ。」という信念も持ち合わせており、ただ理不尽な人間ではないことが伺える。

高級食材を調理する描写は、普段から高級料理と無縁の生活をしている私には、キラキラ輝いて見えた。食への興味がかきたてられて、美食家となって実際にその料理を味わっているかのような感覚に陥る。日常の食事に、一度で良いから大金をかけたくなった。

ミシュランの三つ星を目指すことが、マルコの人生の全てと言っても過言では無かった。そんな人間が、三つ星を獲得した末にどうなったのか。是非読んで確かめて欲しい。

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