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[interview]#9 蓮沼執太さん/音楽家・アーティスト(東京都目黒区)※特別編
この連載は…
長野県の一人出版社・八燿堂によるポッドキャスト「sprout!」の文字起こし+番組未公開パート+解説コラムです。主に長野県東部=東信エリアで活動する人たちへインタビューする企画です。人、活動、街の魅力をたっぷりご紹介していきます
音楽家・アーティストの蓮沼執太さんとは、実は10年以上の付き合いで、これまで何度となくインタビューする機会に恵まれました。その間に私は長野県の小海町という地方に移住、蓮沼さんは東京をベースに活動していましたが、2022年、蓮沼さんが小海町に来るという驚きの知らせが舞い込みます。久々に再会した本人から「小海には何度か来ることになる」と聞き、せっかくなのでその滞在記を八燿堂が刊行する『mahora』第6号に綴ってもらうことにし、さらに「sprout!」にも登場いただくことに。さて、蓮沼さんは小海町で何をしていたのか、そして何を感じたのでしょうか?
編集・取材・構成=岡澤浩太郎/八燿堂
謝辞=信州アーツカウンシル、小海町高原美術館
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■プロフィール/蓮沼執太
音楽家、アーティスト。2010年、「蓮沼執太フィル」を結成。ソロ名義でも『unpeople』(23年)などリリース多数。主な個展に『蓮沼執太: 〜 ing』(同年、資生堂ギャラリー)など。19年、第69回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。自ら企画・構成をするコンサートシリーズ『ミュージック・トゥデイ』も主催する。
www.shutahasunuma.com
https://www.instagram.com/shuta_hasunuma/
※インタビューのダイジェスト+αはポッドキャストで公開しています
現代美術が来た
岡澤浩太郎(以下、岡澤) 2022年、長野県・小海町にある小海町高原美術館で現代美術作家・磯谷博史さんが個展『動詞を見つける Find Your Verb』を開催したとき、蓮沼さんは、期間中の5月4日に展示会場でサウンドパフォーマンスを行いましたよね。私も会場に見に行きましたが、このときのことをちょっと振り返ってもらえますか?
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蓮沼執太さん(以下、蓮沼さん) 僕と磯谷君とは友人で、以前にも磯谷君の展示にあわせたパフォーマンスを何度かしたことがあったんですけど、そのときも「何かパフォーマンスをしてくれないか」というオファーを受けて。
今回の展示タイトルが『動詞を見つける』だったので、オーディエンス自体が主体性を持って動く、「作品を観る」というより「美術館のなかを動く」という動的な要素をつくれないかと考えました。
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蓮沼さん それで、美術館に大きいスピーカーを用意して、大爆音でサウンドパフォーマンスをして、「オーディエンスに美術館から出て行ってもらう」というパフォーマンスをしたら面白いんじゃないかと考えまして(笑)。
しかも大爆音と言っても普通の音楽じゃないというか、ピアノを弾くわけではなく、鍵盤もついていないシンセサイザーでサイン波を、高音から低音、低音から高音と、音程をどんどん変えていくようなパフォーマンスをしたので、「オーディエンスは、ついてきてくれるかな?」と心配していたんですけど……。
岡澤 確かに、特に子どもたちは素直に好き勝手に動きまわっていましたよね。逆に大人のなかにはガマン強くじーっと聞いていた人もいたようですけど(笑)。
蓮沼さん ただ、最終的にはめちゃくちゃノリノリで。「こういうの大好きです!」という声が聞けて、やってよかったなと(笑)。
岡澤 そうでしたか、それはよかった(笑)。
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蓮沼さん その頃って、まだ実は新型コロナウイルスが流行していた頃なんですよね。だからライブやパフォーマンスをやる機会が多くはなかったんです。だけど、『mahora』第6号の原稿にも書かせてもらったんですけど、小海に向かう道中の東京駅が人の数ですごいことになっていて。
岡澤 このときは、いろいろな自粛がちょっと緩和されたんでしたっけ?
蓮沼さん ゴールデンウイークは外出していいという空気だったんですよ。僕は連休なんて用事がない限り家から出ないんですけど(笑)、軽井沢方面は結構にぎわっていて、「コロナのフェーズも変わってるな」と。パフォーマンスした日も、すごく多くの人に来ていただいて。
いまは「人であふれる」なんてもう普通になっちゃったけど、当時は美術館に人が来るだけでも面白いことだったので。それなのに、せっかく来た美術館から出ていく、という(笑)。
岡澤 ひどい(笑)。
蓮沼さん 別に嫌がらせをしたいわけじゃないんですけど(笑)、記憶に残る経験でした。
岡澤 小海町在住の地元民としては、こういうパフォーマンスをしていただくのは、とてもありがたかったですよ。
蓮沼さん 「現代美術が来た!」みたいな感じですか(笑)。
岡澤 そうそう、超ハイパーなアートがやって来たと(笑)。ざっと見た感じですが、町外からの来場者が多かった印象でしたけど、なにせ人口約4000人の小さな町なので、大勢の人が来ること自体が貴重な機会ですから。
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蓮沼さん でも、僕は小海町にはすぐに馴染んでいたので。
岡澤 そうなんですか?
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