[日日月月]5月25日、冷たい雨と遅霜の多い2023年春の読書ノート
5月も下旬になったが、春雨には冷たい雨が何度かあり、また今年は遅霜が3回も降り、庭仕事に難儀している。晴耕雨読とはよく言ったものだが、(土を耕すことには議論があるにせよ)雨が降ると部屋にこもる時間が増えざるを得ず、したがって読書も進む。
最近はこんな本を読んだ。
オーガニック、地産地消などなど、SDGsが流行するいまとなっては聞き飽きた言葉を、1970年代から命懸けで取り組んできた、西海岸のレストラン「シェ・パニース」のオーナー、アリス・ウォータースの著書。
命を粗末に扱うあり方が食のずさんさ(ファストフード文化)に結びついた現代社会から、生き生きとした人間らしさを祝福する社会(スローフード文化)へ、楽しく、美味しく、美しく、移行することを謳う。目次を抜粋するだけでも真意は伝わると思う。
・ファストフード文化
便利、いつでも同じ、あるのが当たり前、広告、安さ、多さ、スピード
・スローフード文化
美しさ、生物多様絵師、季節、喜び、シンプル、生かしあう
うなずくポイントが非常に多い。食の本だが出版や編集に照らし合わせて読んだ。例えばこうある。
何かを足していくことで、費やすリソースやかかわる人々が増え、価格をが上げるのが、経済規模を大きくする秘訣ではある。が、経済を追求するあまり、経由するモノや人が増えすぎ、かつそれ自体が目的化し、そもそもの始まりである、「元のもの」の存在が薄れていく。
これは出版や編集のやり方も同じではないか?
「編集ってどんな仕事?」とよく聞かれるが、だいたいの場合、料理に例えて答えている。食材=著者(ライター、写真家、イラストレーターなど)、料理人=編集者、店構えや食器やサーブの仕方など目に見える要素=デザイナー、という感じ。
料理人にはいろいろなタイプがいて、誰も食べたことのない独創的な料理がとても得意な人もいれば、味付けは超シンプルで素材勝負――塩振っただけだけど塩加減が絶妙、みたいなのが得意な人もいる。
私は食べるのも編集するのも後者のタイプ。『mahora』の場合は、こう言ってよければ、書き手や取材対象が決まった以降は、ほとんど編集していない(というレベル)。
だけどやっぱり、それがいいと思うんだよな。
というのを、背中を押された思いだ。
ちなみに刊行元の「海士の風」は島根の離島にある小さな出版社で、ほかにもNVC(非暴力コミュニケーション)の創始者、マーシャル・ローゼンバーグの単著も刊行していて、八燿堂とアンテナが近い。
『スローフード宣言』の訳者の小野寺愛さんは、パーマカルチャー界隈のイベントの通訳でお名前を目にすることが多かった。和訳のスキルが上がっていてとても読みやすかった。
続いて2冊目。
資本主義に疑問を投げかけ、その突破口を「つくる喜び」に見出し、あるべき像を「新百姓(=paradigmshifter/パラダイムシフター)」として提示する、という編集方針。
編集の方々は存じ上げないが、中沢新一さんが巻頭言を寄せているあたり、なんとなく想像はできる。ちなみに限定888部刊行とのことだが、この号は売り切れているようだ(ちなみに発酵日(発行日ではない)が私の誕生日と同じで妙な親近感がわいたことを、余談として記しておく)。
テクノロジーとの距離感や、発想のベースに多国籍の感覚があること、アカデミックな知や情報の「組み方」に、若い感性を感じる。もっとも心を打ったのは編集後記だ。例えばこんな風にある。
ああ、愛から始まるのだな。あらゆる文明は愛から生まれたこと、そして否定のうえに何かを成立させるのはとても難しいことを、よく知っている。いいね。
こういう試みは、ブレずに続けることと、どうやって続けるかが、とても問われると思う。次号第1号の刊行も決まっているようで、あたたかく見守っていきたい。
読んだ本、買った本はまだあるが、長くなったのでこの辺で。
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