時評2024年12月号
「届けたいものがあるなら」
今年の秋に第九回文学フリマ札幌が開催され、出店者として参加した。文学フリマとは作り手が「自らが〈文学〉と信じるもの」を自らの手で作品を販売する、文学作品展示即売会である(公式サイトより)。小説や短詩系、エッセイ、ZINEなど幅広く集まり、商業同人誌関係なく十代から九十代まで、全国各地で定期的に開催されている。
文学フリマ札幌は普段は会議や学会会場などとして使用されているコンベンションセンターにて行われたが、広々としたホールに会議用のテーブルが列をなしそれぞれに人が座って本を販売している、という文化祭ともフリーマーケットともいえるような空間。どのテーブルにも本が並んでいて、それぞれ開かれるのを待っていて、その作者がその前に座っている。若干の緊張感と、同じものを愛する同志という共感が場の空気を独特なものに変えている。ちなみに今年の文学フリマ札幌の入場者数は一四二八(うち出展者三五六)人と発表されている。こんなに大勢の人間が文学に興味を持ち、触れるためにわざわざ足を運んでいるのかと思うと不思議な気もしてくる。日常生活で本を読んでいる人と出会うことはとても少なく、さらに短歌を好きという人に出会うことはまずない。世は短歌ブームと言うが、いったいどこで巻き起こっているのだろう。私が察知できないコミュニティがあるのかもしれない。実際、文学フリマという空間に出向かなければこんなにいろいろなひとが文学を好んでいるということに気が付かなかった。自分の視界は想定以上に狭く知らない世界はたぶんすぐ隣にある。
文学フリマは誰でも出店できる。作った歌がたまってきた、けれど歌集を編むのはまだ勇気が出ない、そんなときに個人歌集を同人誌の形で出すという方法もある。誰かと一緒に合同誌とする方法もある。発表することはイコール読者を期待している場合が少なくないだろうから、違った場で違った層に自分の作品が届く可能性が広がる。また一冊を作り上げるというまでの果てない労力に思いをはせるいい機会にもなる。結社誌が出来上がって届くまで、編集の皆さんが様々なことを考え手を尽くして作り上げているということを、実際に追体験するのもまた面白い。
自分の作品を届けたい、伝えたいというとき、様々な方法がある。SNS、結社誌、新聞歌壇や雑誌、NHK短歌などへの投稿。そのひとつに、文学フリマ出店や同人誌作成を提案したい。時間を割いてその場に座ることで、文学好きな人との交流ができるかもしれないし、実際に作った作品を手に取ってもらえるかもしれないという貴重な機会が生まれる。わたしたちはひとりで生きて一人で死んでいくよりなく、ひとりひとりの言葉は他者に届いているのかなんて確かめようがない。自分の作った作品が誰にも届かないかもしれない。いてもいなくても同じかもしれない。そんな孤独感に苛まれることは創作者であれば誰しも同じで、だからこそ、文学フリマという会場はどこか親しみやすさと緊張感で包まれている。ぜひ一度、文学フリマに遊びに行ってみませんか。あるいは出店者として本を出しませんか。
(塚田千束)