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短編

6
書いた短編をまとめていきます。
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station

station

鳩が座ったまま死んでいた。
首を丁寧に折りたたんで、
何色とも言えない羽根に押し沈めていた。
そこにだけ朝日が当たって、
辺りの寒々しい空気を溶かしていた。

美しい生の終わりを見た。
真っ白な空に
今にも飛び出しそうだった。

その隣には
シュレッダー済みの紙が詰められた袋が
何十と山になって積み上げられている。
さっきまで重要の判を押されていた紙が、
裁断されてゴミとなっていく、あのさま。

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耳心

耳心

恥の多い人生でしたって太宰は書いてるけど、私だって現在進行形で恥じながら生きてる。

人間失格、だって。
ねえ、そんなのあんただけじゃないんだけど。
と思いながらショッキングピンクのカバーの文庫を閉じた。でも私は、太宰のそういう、普遍性を自分だけのものみたいにしちゃうところとかが、やっぱり好き。
私のピカピカの長い爪も、カバーと同じショッキングピンク。でもそれは、私がただピンクが好きってだけ。

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意識の旅

意識の旅

東京駅だった。

周りの人達は行き先があるようで、ある人は早足に、またある人は浮かれ気味に、またある人は疲れた様子で、私の横を通り過ぎていく。

皆、私のことなど見えていないのだった。

1番近くにある電光掲示板をみると
仙台•山形、郡山、青森、新潟、金沢
と、天気予報でしか見ない地名が当たり前の顔をして羅列されていて、むず痒い気持ちになる。

手のなかにある切符には、東京⇔新青森、とある。

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アブラザメの夢

アブラザメの夢

アブラザメの夢を見た。

港の近くの道路を歩いていたら、黒くて大きい何かが向こうからやってきた。

真っ黒い肌で、目は明るい青色で、口が大きく開いていて、鋭い歯の隙間から白い涎のようなものを垂らしてた。
サメの形をしていた。

2tトラックぐらいの大きさで、空中2メートルくらいのところを飛んでいた。

車道の上をスーッと飛んで、車と同じように、曲がり角をゆっくり曲がってやってきた。
信号は青だった

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落日

落日

日の光が濃い橙色に変ってきた。窓から斜めに日が入ってきて、私は反射的に目を閉じる。目の奥に残像が揺れる。
信号が変わり 、バスは年老いた人々を乗せて緩やかに発進する。

辺鄙な場所にある私の家と街とを繋ぐバス。もう何百回、何千回この青い座席に座り、独特の鈍いエンジン音に揺られた。
平凡な小学生だった私は、平凡な会社員になった。

バスが花屋を通り過ぎた頃、あの大げさに重厚な建物が見えてくる。豪奢な

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羽化する

羽化する

 玄関のドアノブは昨日より冷たかった。ドアを開けた瞬間にひやりとした風が頬に絡んだので、ああ、また季節が変わったなと思う。マンションの錆びついたドアを出ると冷気が濃くなった。息を吸うと鼻の奥がツンとして、僕はジャンパーのファスナーを首元まで あげる。僕は右手に持ったデジタル一眼レフカメラを弄びながら、歩きなれた道をぶらぶらと歩いた。左手はポケットの中にある。

 この街に来てもう5年が経つ。小さな

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