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書を捨て走れ(運動脳/アンデシュ・ハンセン)

『スマホ脳』を書いたスウェーデンの精神科医による新刊。

『スマホ脳』はショッキングな内容が多すぎて、私はたくさんの人にこれは読むべきと吹聴して回ったくらいだが、対して本作は「とにかく運動しろ」というとてもシンプルな内容だった。

・運動はストレス反応を鎮める

30分サイクリングをしたグループと、心拍数が増えない軽い運動をしたグループでは、前者の方がストレスの原因となるコルチゾールの濃度が低かった。運動はストレス反応のブレーキペダルである海馬と前頭葉も強化し、不安の引き金である偏桃体の活動も抑え、さらには脳内の興奮を鎮めるGABAの作用も活発にする。

思春期がイライラしやすいのは、偏桃体のようなストレスを生み出す部位は17歳で完成する一方、前頭葉や前頭前皮質などストレスを抑える部位は25歳くらいで完成するから。運動は思春期の子供にも効果抜群である。

・運動は集中力と自制心を高める

注意散漫になることは誰にでもあるように、ADHDは鬱と同じく診断が難しい病気である。しかし、わずか5分体を動かすだけで、集中力は改善され、ADHDの症状も緩和される。

ちなみに、ADHDの遺伝子は、新しい環境を求めて旅に出る「探検家の遺伝子」であり、人類の歴史のほとんどでは恩恵だった。ところが未開の土地がなくなり、狩りをする必要のない現代では、ADHDの特性を役立てられる場があまりない。危険を冒したり、思いつきで行動したりといったことは、避けるべき行動と見做される。
一つの遺伝子が環境によって有利にも不利にもなるように、ある種の社会的状況や職場ではトラブルとなりがちな特性も、別の場所では好ましい特性になることがある

・ランナーズハイをおこせ!

走ると高揚感がもたらされる効果は、祖先がサバンナで暮らしていた時代の名残だといわれている。狩猟のとき長距離を走らなければならなかったからだ。
本書で一貫して主張される「運動せよ」の運動の内容はウォーキングでも効果はあるが、ランニングやサイクリングなど、心拍数の上がる有酸素運動の方が効果はより上がる。30~40分のランニングを週3回、これがベストである。また、筋トレよりも有酸素運動の方がよい。

・運動すればピアノが上達する

前述の通り、運動すれば海馬の働きが活発化する。海馬は記憶に関わる部位であり、動作の習得にも効果がある。運動してから練習をすれば、ピアノやゴルフのスイングなどの上達も早くなる。

・運動すればクリエイティブになる

クリエイティブテストを座って受けた場合と歩きながら受けた場合、後者の方が好成績を上げる。歩いた場所は関係なく、環境の変化よりも歩くことそのものに意味がある創造性を高める効果は運動後1時間~数時間で消えるので、継続する必要がある。

村上春樹も執筆期間は朝4時に起床、午前10時まで仕事、昼食のあとは10キロのランニング、水泳。そのあとは音楽を聴いたり読書をしたりして、21時に就寝する生活を毎日送っているらしい。(知らなかった…)
ベートーヴェンもダーウィンも散歩を習慣にしていたし、スティーブジョブズは歩きながら会議を行ったことで知られる。
大事なのは、疲れすぎるまで走らないこと。無理すると、逆にそのあと数時間は創造力が落ちる。

・所感

先日、遺伝子って残酷!という本を読んだばかりだが、

本作はうって変わって、「将来は遺伝子では決まらない」という結論が最後に書かれていた。
なんでも遺伝子の数は2万3000個なのに対し、脳の細胞は1000億個、細胞同士のつながりの数は100兆にもなる。その数を遺伝子が支配できるわけないでしょ?という話らしい。

私は通期時の自転車を除いてほとんど運動をしないので、「脳は年を取るごとに縮んでいるが、運動の習慣をつくれば縮まないしむしろ拡大することも可能」といった内容にはゾッとさせられた。
せめて電車の中で本を読むときは、極力立っていようと決めたのであった。

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