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宇喜多の捨て嫁 -読書note vol.2-

戦国の梟雄「宇喜多直家」に関わる人物の視点で描かれた6つの短編からなる作品。
前回は前半3話で思わぬ長さになってしまった。

今回は残りの後半3話について。
よければお付き合いください(^^)


ぐひんの鼻

ぐひんとは天狗のこと。
兄:浦上政宗からの独立を狙う宗景を、兄本人や市井の人々が天狗の鼻にかけて揶揄した。
また、宗景の居城である天神山城には古くからぐひんと呼ばれる天狗の守り神がすむと言われていた。

元服前の幼い日に、兄を使って宇喜多能家を暗殺させた宗景。
成長して兄と対立する様になり、自身の策謀の手駒として選んだのは奇しくも能家の孫:八郎(直家)だった。

自身の策謀の才に溺れる宗景の元で、手駒であったはずの八郎がいつの間にか自身の手に負えなくなり恐怖を抱いていく。

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3話目の「貝あわせ」で秀逸な胸糞悪さを演出した浦上宗景の話。
兄を愚物とし自らの策謀の才に疑いを持たない宗景が、母殺しの業を背負った八郎を自身の手駒として拾い上げてから、飲み込まれていく過程を描いている作品。

手駒が大きくなれば、次の手駒を使い前者を滅ぼしていくことを繰り返す宗景には、相変わらず胸糞悪さしかない。

才ある武将を自分の手駒として留めおくことに終始する主君の浦上家が、織田と毛利に挟まれたこの時期の播磨~備前あたりで生き残っていける訳がないよねと思わされるお話。

全体を通してこの文庫でフューチャーされる人物は、悪人と思われても別の視点からみればそうではないよね、と考えさせられる側面を持っていると思うのだけど、この宗景だけは救いようがどこにもないと個人的に思えてならない。(個人の好き嫌いの感性も関わっていると思うけど)

松之丞の一太刀

宗景の嫡男:松之丞は、宗景の宇喜多家を内側から割って乗っ取るという策謀のため、直家の三女:小梅(こうめ)を娶るはこびとなった。

直家には4人の娘がいたが、いまだに跡継ぎの息子には恵まれていない。
今では浦上家筆頭家老としてゆるぎない力を持つ宇喜多家だったが、その内側は一枚岩ではなかった。

直家に近い三家老と異母弟の忠家は犬猿の仲であり、そこに松之丞が婿養子として宇喜多へ下る。そうなれば跡継ぎを巡ってお家騒動が勃発するという策謀である。

松之丞は武家の嫡男というにはふさわしくないような、武芸の稽古より貝合わせを好むような弱々しい人物。

犬追物という弓馬の稽古の時、父:宗景に縄で繋がれた大きな犬の前に引き出された松之丞。
その犬に向かって矢を放てと言われるが、どうしても放てない。
そんな状況を見た宗景は犬を繋ぐ縄を切り松之丞を襲わせろという。
命の危機にさらされれば、いくら臆病な松之丞でも矢を放つだろうということだ。

縄を切られて凶暴な犬が松之丞目がけて襲い掛かる。
それでも矢をつがえた右手は硬直したまま動かない。
松之丞は思わず目を瞑った。

松之丞の身体に2つの物体がのしかかり、体中に温かい液体がとびかかる。
恐る恐る目を開けると、眼前には上半身にさらしをまいた一人の武士と、両断された犬が身体にのっていた。

後年、その時のことを回想し、直家は最後まで矢を放たなかった松之丞を褒める。
また、無想の抜刀術という呪われた技を持つ自身と、矢を放たなかった優しさと強さを持つ松之丞を銭の裏表だとも言う。

後日、直家に男児が生まれる。
これによって進行中であった策謀は意味をなさなくなったと共に、松之丞の身を案じたのは妻の小梅であった。
「直家を暗殺すること」が松之丞の頭をよぎる。

その決を委ねたのは、「探し籤」と言われるものだった。
2択の選択肢を決め、探しものが見つかれば甲、見つからなければ乙を採択するというもの。
探しものは小梅の貝合わせで1つ無くなっていた絵柄。
結果、松之丞は直家を暗殺することを決意する。

小梅に扮して直家に近づくことに成功した松之丞。
袖のうちに隠した抜き身の脇差を振りかざしたその時・・・。

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宗景の嫡男のお話。

幼少期に狂犬から命を救ってくれた恩人でありながら、不気味さを感じざるを得ない直家に、小梅を媒介として接近していく松之丞。

直家はそんな松之丞と対話し、普段見せないような弱気な一面も見せる。

松之丞のむやみやたらに刀を抜かないことを強さと優しさと称した直家。
対する松之丞は、強さではなくただの弱さだという。
そんな二人を銭の裏表と表現した直家。

待っていた結末は悲しい。
何かが一つ違っていたらこの二人はこんな悲しい結末にはなっていなかったのかもしれない。

五逆の鼓

室津浦上家(宗景と敵対する兄)の重臣:江見河原家の源五郎は、鼓の名人である父の影響を色濃く受けて育った。

そんな父は武も文にも見るべきところなく、家では従者にまで陰口を叩かれる始末だったが、唯一、鼓の腕だけは他国に聞こえるほどだった。

源五郎はそんな父をたしなめながらも、鼓の魅力に取りつかれていた。

そんな頼りない父は流行り病であっけなく他界し、浦上家重臣として振るった祖父も時を同じくして亡くなる。
源五郎の肩に重臣:江見河原家の名が重くのしかかるが、残念ながら父の血を受け継いだ源五郎にも、武も文も才はなかった。

ある日、宇喜多家からの使者が来る。
用件は室津浦上家を離れ、天神山浦上家へ寝返れというもの。
源五郎は取り合う気はなく断ったものの、足労のもてなしとして使者に鼓を披露する。

もてなしというのは、実のところは鼓に興じることを戒める母への口実であった。
宇喜多家使者の岡剛介は源五郎の鼓を聞き、本心を見抜く。
その本心とは、俸禄や功名などより鼓を奏でる楽士になりたいというものだった。
岡は源五郎に吹き込む。
「主君の首をもってくれば、宇喜多家はその楽士の身分を保証しよう」と。

本領安堵に対しては見向きもしなかった源五郎は、楽士という言葉に見事にやられ主君の首を土産に寝返った。

その罪で母親は凄惨な拷問の後に磔にされ、国では源五郎のことを五逆(母殺し)の鼓打ちとなじる唄が流行った程。

そんな五逆の業を背負った源五郎が宇喜多家で送った生活とは。

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この時代の家督を継ぐことの大変さが思われる。
出来の良し悪しよりも嫡男という要因がまず重要視されることは、場合によって苦痛や重荷と感じる人物には大変なことだと思う。

今作の主人公も、まさにそれを地でいくような人物だ。
五逆のレッテルを貼られた源五郎が、同じく五逆の罪を隠し持つ直家の楽士になり、尻はすという奇病に侵されながら死に向かう直家を間近で見つめる。

奇病によって血膿にまみれた直家の寝衣は、城下の川に捨てられる。
その川の先で、流れ着いた寝衣をすすり洗って売り物にするという「腹割きの山姥」と呼ばれる老女。
その老女から、寝衣を買い取る一人の老僧。

それぞれがお互いを知らぬ間に繋がっている。
母と直家と娘。

そして、6つの短編が見事に繋がって直家の死が描かれる。

読み終わった後には、決まりきった「戦国の梟雄」という宇喜多直家とは違ったイメージが浮かび上がると思う。

まとめ

著者の木下さんはこれがデビュー作ということだから、相当なもんだなと思う。
6つの短編が絶妙に絡み合う今作ですが、幾度となく登場する「貝合わせの貝」は、直家の嫡男:秀家の物語を描いた「宇喜多の楽土」へとさらに繋がっていくのも見逃せない。
この「宇喜多の楽土」も後日記事にしたいと思います。

今回も長文のお付き合いありがとうございました(^^)

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