How to 護身術②~ナイフを持った相手~
2018年も終わろうとしていますが、今年、極めて残忍で凶悪なナイフを使った犯罪が発生したことは記憶に新しいかもしれません。日本では縁が無いと思っていた事件が、多くの人にとって身近な場所で起きたことで、護身術についての関心が急速に高まった年でした。
事件後、今回のような鋭利な凶器をもった犯人に万が一出くわした場合どう対処したらいいのかについて、マガジムに対してメディアから取材依頼があったり、また、会員の方から多くの質問を頂きました。
■絶対に助かる方法など存在しない!
戦場を想定して開発されたクラヴマガには、敵がナイフを持っている状況を想定したテクニックは数々あるのは事実です。しかしだからといって、テクニックを使えば無傷で逃れられるかといえば、トレーニングを積んだエキスパートでさえも現実的には困難です。
いうまでも無くナイフは殺傷能力が極めて高く、本当に危険です。
ナイフに対する護身テクニックは存在しますが、こうすれば自分の身を守ることができるという保証などはどこにもありません。
■犯人と対峙する前にとり得る行動!
万が一そんな状況に出くわしてしまった場合は、とにかく逃げて下さい。犯人から少しでも遠くに離れて安全を確保し、通報して下さい。犯人がナイフを露出して持っているという事実だけで異常性は極めて高く、関りを持つこと自体が命に係わる重大なリスクです。
しかし逃げ場が無かったり、または自分の大切な人が被害に合いそうな場合など、どうしても犯人に立ち向かわなければならないのであれば、まず真っ先に、周囲に使えるものが無いかを探してください。カバンや椅子、または長い棒状のもの(鉄製のゴルフクラブやバットなど)はシールド(盾)として使えますし、硬いものであれば打撃を加える対抗手段にもなりえます。
そして単独行動をせず、周囲の人と結託して集団で臨んで下さい。仮に一人が被害を被りそうになっても背後に協力者がいれば、犯人に有効打を与えられ、そこから状況が打開できる可能性があります。
■ナイフを突き刺してきた犯人への護身!
これから扱うのは、それでもナイフを持った犯人に対峙しなければならない状況に陥った場合のクラヴマガの護身テクニックの一つです。(単独で何も防具が無い想定です。)
逃げる隙も空間も無く、協力者を求める時間も無く、またとっさに探せるモノも周囲にないかもしれません。そんな絶体絶命な状況であっても、身を守るための適切な護身トレーニングを重ねていれば、傷を負うことがあったとしても、致命傷を避けられる可能性が高まります。
そういう前提で、クラヴマガの「敵がナイフで突き刺してきた場合のテクニック」をご覧ください。
※技術解説では、「犯人」ではなく「敵」という表現を使用します。
●パッシブスタンスを構える
パッシブスタンス(護身における基本の構え)をとります。両肘が下を向き、脇が開かないことを注意します。
敵がナイフでまっすぐ刺してくる場合、最もターゲットになりうるのは、胸を中心とした胴体部分が中心でしょう。
従って、前腕で顔を守るというよりもやや低く構え、ちょうどターゲットの胴体エリアを前腕でカバーするイメージです。両手の指先はまっすぐ伸ばし、両肘は地面を向くように構えます。
●自分の上腕を相手の腕にスライド
敵がまっすぐナイフを刺してきたら、自分の左手から上腕を使ってナイフの軌道をそらします。(=リダイレクト)
左手首から前腕が敵の手の甲に触れたと同時に、左手首を鋭く内側へローテーションさせることで、ナイフが自分の身体からそれる(離れる)のを助長します。
敵の方向(=前)へ飛び込むことで、左前腕はナイフを持った敵の手の甲から上腕にかけてスライドし、ナイフの軌道はターゲット(=自分の胴体)から更にそれます。
スライドさせた前腕に自分の体重をしっかりのせ、決して後ろに引くこと無く、前へしっかり飛び込みます(バーストイン)。
●相手の腕をコントロールして打撃を加える
敵の腕をキャッチして(キャッチできなくても、しっかり自分の体重を上腕を通じて敵の方向へ乗せて)敵の腕をコントロールし、パンチを加えます。パンチを受けた敵がよろめき後退したとしても、自分のプレッシャーを敵にあびせ続けられるよう、前進し続けます。
このとき左ひじは必ず下に(地面に)向けて、自分の体重を敵にしっかり乗せ続けます。
敵はナイフが一度刺さらなかったとしても、二度、三度と繰り返し連続で刺してきたり、スラッシュ(刺すのではなく、刃で切り付けるモーション)をしてくる可能性があります。前進してプレッシャーを与え続けることで敵からそのような自由を奪い、ナイフを引き戻させません。
●両手でナイフをもつ犯人の拳をホールド
パンチを打った右手を戻すやいなや、右手で敵のナイフを持つ拳をカバーします。(上から覆い被せます。)
重心はこの時も前よりで、敵の方向に体重がかかっていることが重要です。
●ナイフを奪う必然性
事件の現場が見通しのいい屋外で、自分以外に配慮すべき人がいないなら、ここでナイフを持った敵ごと遠くへ押して距離を作り、即座に逃げるのが得策でしょう。
敵に少々ダメージがあれば、すぐに追いかけることもできず逃げ切れる可能性があります。安全を確保したうえで通報して下さい。
しかし今回紹介している危険のシナリオの前提は、冒頭に記載したとおり「逃げる隙も空間も無い」状況です。
つまり、公共の交通機関や閉所などの、密室における犯行を想定しています。
そんな中、ナイフが相手の手中にあったままでは、結局同じことがまた繰り返されるだけです。
物理的に逃げ場が無かったり、このまま放っておけば結局周囲の人が犠牲になるだけだったりする場合は、ナイフを敵から奪い取らないと安全は確保できないかもしれません。
そんな場合はナイフを敵から奪います。
●ナイフの奪取方法
(1)左手で敵の右手首を掴んだまま、パンチを打った右手を戻したら、敵の右手の上に覆いかぶせます(カバー)。
(2)左手を手前に引きながら右手を押す(押さえつける)と敵の手首に痛みが走ります。(敵の手首を極め[きめ]ます。)
(3)腕の力だけではなく、下半身からくる全身のパワーを使って行うと大変効果的に極まります。
(4)敵の手首をしっかり極められれば、敵は痛みからナイフを握り続けられないため、もぎり取ることが可能です。
それでも敵が粘り、立っている状態ではナイフが奪えきれない場合、無理に奪おうとしてもみ合いになると、その拍子でナイフが自分に刺さる可能性があるため危険です。
そこでは奪取に執着せず、地面に倒した(テイクダウンした)あとに奪取を試みます。
[テイクダウン方法]
(5)右足を軸にして回転しながら敵の腕を押し下げると、敵は手首が極められているので、痛みから地面に倒れます。
(6)腕を鋭く逆にねじり、左のスネからひざを相手の首にあててプレッシャーを与えます。
(7)完全に地面でコントロールされた状態であれば、敵は限りなく抵抗ができませんので、ナイフをもぎり取ります。
右手を押しながら左手を引くことで再度敵の手首を極め、そこから右手で相手の指を剥がしとるようにナイフを奪います。
●ナイフを奪ったら
その後の対応は、状況によって大きく異なりますが、まず大切なのは再びナイフを敵の手に渡らないようにすることです。
遠くに投げ捨てる、周囲に人がいれば、ナイフを持っていてもらったり遠ざけてもらうことが必要です。また協力者が見つかれば、警察への通報をすぐにお願いしましょう。
敵は、ナイフが奪われたからといっておとなしくなるとは限りません。丸腰であっても激しく抵抗したり、更なる攻撃を加えてくる可能性がありますので、この段階で逃げることができないのであれば、さらなる対応が必要になります。
※それ以降はまたテーマが異なるため、今回は割愛します。
■最後に
ご覧頂き、いかがでしたでしょうか。
最後に以下は今回のシナリオを想定した動画です。
現実の生活の中ではほぼ起こりえないことかもしれませんが、今年、ナイフを使った事件がニュースで大きく取り上げられたのは、まぎれもない事実です。それ以外であっても、ナイフが関わる事件は、日本でもいくつも発生しています。
万が一かもしれませんが、そんな危険に遭遇することがあった場合に助かる可能性を少しでも高めたいとお考えのようであれば、これらのテクニックや考え方を参考にしてトレーニングしてみてください。
ただ、ナイフへの対応は数あるクラヴマガの護身テクニックの中でも本当に難易度が高いものです。
繰り返しになりますが、クラヴマガのエキスパートでさえも事件に直面すれば傷を負う可能性の方が高いと言えます。
本格的にトレーニングを積みたいとお考えのようであれば、是非マガジムにお越しの上、インストラクターから正しいトレーニングを受け、繰り返し練習されることを強くお勧めいたします。