チルボン2泊3日の旅 温泉、王宮、バティック、そしてグルメ【2024年5月】
チルボンはジャワ島の北岸に面し、ジャカルタから東に200キロあまり行ったところにある歴史とグルメとバティックの街だ。
Cirebonと書いてチルボンと読む。チレボンではない。
ここは丁度スンダ人エリアとジャワ人エリアの境になり、行政区はスンダ圏の西ジャワ州に入るが、文化的にはジャワ圏と言われている。民族的にはスンダとジャワが半々くらい、それに中国系やマレー系も混在する。チルボンという地名がジャワ語で「混在」を意味するCarubanから来ている説があるくらい混ざっていて、それが特有の文化を生み出している。
この地には、かつてチルボン王国というイスラム系の小国があり、華人との血縁関係があったため、中国文化の影響を色濃く受けているのが特徴。
さらに200キロ東へ行ったところにあるスマランの方が、街の歴史や港としての規模は大きいが、チルボンも同じように多様な民族が集まる貿易港として栄えていた。
わたしはこの街にちょうど20年前に来たことがある。ジャカルタで新婚生活を始めて最初の夫婦旅行の地だった。
ジャカルタから電車で気軽に来られる歴史と文化の町、というのが旅先に選んだ理由だ。
1.チルボンへの行き方
ジャカルタからであればちょっと高いが電車が便利と思われる。他にバスもある。
今はジャカルタから高速道路が通じているので、車移動がとても便利になった。
日本のゴールデンウィークを利用し家族がインドネシアに遊びにきてくれたので、スカルノハッタ空港に見送りに行ったついでに、空港からバスで直接チルボンに向かった。
夜行便だったため、見送りの日はターミナル3のクールなカプセルホテルに泊まり、翌朝9時のバスでチルボンに向かう。
バスの料金は280,000ルピア(2800円)。
空港から直接チルボンに向かうバスは1社しか出しておらず、Bhinekaというバス会社だ。
窓口があるのに、オンラインでしか予約できない。
翌朝トヨタのハイエースが時間より15分ほど遅れてやってきた。客はわたしだけのようだ。
車はすごい勢いで高速を飛ばし、たったの3時間でチルボンの街に着いてしまった。
チルボンからバンドンへの帰り道は、Harjamuktiバスターミナルからバスに乗った。
いろいろと大変だったが、字数もかさむので簡単に。
料金は交渉して80,000ルピア。トラベルと呼ばれるバンタイプの車でエアコンなし。下道を使い4時間半かかった。
たぶんもっと賢い移動手段があったはずだ。
2.チルボンの温泉
近郊にいくつか温泉がある。西に20キロ弱行ったところと、南に20キロ行ったところに固まっている。
(1)セメント会社の敷地内にある温泉(西の温泉)
インドセメントという業界2位のセメント会社の工場がチルボンの郊外にあり、その広大な敷地の中に温泉が湧き出ている。
インドネシアで社名にインドがつくのは、サリムグループ(華僑の財閥)と覚えておくと良い。インドネシア通と思われるだろう。インドフード、インドモービル、インドマートもそうだ。
セメントの原材料で最も多くを占めるのは石灰石で、石灰石は炭酸カルシウムの塊。インドセメントは主要な原材料の採掘所にセメント工場を建てているということだ。
石灰石が取れるということは、温泉の成分にもカルシウムが入っている可能性が高く、見た目から判断して間違いない。
地中から熱水が地表に上がってくる時に、石灰岩の地層を通り抜け、カルシウム成分を吸収しているのだろう。
① ゴアマチャン温泉
一つ目の温泉はひなびた雰囲気の露天風呂。小川をなすほどの大量の湯が、セメント会社の敷地から土管を通って流れてくる。
お湯の温度は40度くらいだろうか。とても気持ちの良い温度だ。析出物のこびりついた岩と白濁したにごり湯は、日本の名湯のようだ。
泉質は舐めるとしょっぱいので、ナトリウム塩化物泉だろう。さらに、サルノコシカケ状の析出物が湯槽のへりに沿って形成されており、カルシウム炭酸水素塩泉の証拠だ。お湯の色は白濁しており、硫黄成分が入っているはずだ。
この温泉の香りは焦げ臭い、日本で嗅いだことのある温泉だと、八ッ場ダムの下に沈んだ川原湯温泉の香りにそっくり。さらには抹茶ミルク色の温泉でよくあるケミカル臭のする温泉でもある。
日本でも稀なほどの、かなり濃い温泉であることは間違いない。
道端のお店で1人10,000ルピア支払う。
温泉の名前にGoa(ゴア:洞窟の意味)とついているので、源泉は洞窟になっているかもしれない。伊豆山の走り湯や、土肥のマブ湯みたいな源泉であれば、ぜひ見てみたかった。
② バンユ温泉
2つ目の温泉は先ほどの温泉から1キロメートルくらい離れたところにある。
インドセメントの工場内にあるため、工場の正門で守衛に温泉行きたいと告げ入れてもらう。
右手に巨大なセメント工場を見ながら奥に進むと、温泉の入口が見えてくる。
ここで入場料20,000ルピアと駐車場代5,000ルピア支払う。
敷地内に大量の湯の華を含んだ湯の川が流れている。
そこでは、たくさんの人が足をつけたり、泥と湯の華を掬い取って体に塗りつけている光景が見られる。
下流になるに従って温度が低下し、上流はとても熱い。
わたしの感覚だと、下流でも48度弱くらい。
1番上流のお湯が湧き出ている場所は一瞬なら触れるくらいの温度なので60度近いと思われる。
わたしは入ろうと試みたが、水流の影響でより高温に感じ、また泥に沈み込む足が地熱によりやけどしそうに熱いので、断念した。代わりにお湯をタライすくって体や頭にかけた。
無茶苦茶熱くても、かけられるということは48度程度ということだと思う。
泉質はゴアマチャン温泉によく似ている。こっちの方が塩分が少し濃い気がするくらいだ。それと温度はこちらの方が高い。その分白濁度は低い。
源泉を見ることができるので行ってみた。
玉川温泉の大噴(おおぶけ)をおとなし目にした噴出ぶりで、大量のお湯が水面を盛り上げるほど勢いよく出ている。
このお湯が流れ出るところに、白く巨大な析出物ができている。
別名ウェディングケーキと呼ばれる長湯温泉「山の湯かずよ」さんの析出物に匹敵するレベルの大きさと色合いだ。
(2)クニンガン地区の温泉(南の温泉)
チルボンの南30キロほどのところに、チルマイ山という活火山があり、西ジャワ州の最高峰で国立公園になっている。標高は3,078m。
この火山で生まれる温泉をはるばる引湯してきているのが、クニンガン地区の温泉というわけだ。
クニンガン地区は、チルボンから緩やかな坂を登り続けるだけあって、かなり涼しい。オランダ人がいたら避暑地として開発していたと思われる。
① サンカヌリップ温泉
このエリアにはいくつかの高級そうなホテルがあり、ホテルに温泉を引いている。日本の温泉街のようだ。
わたしが行ったのは、公共プールに温泉を併設した施設で、個室風呂が付いている。
プールは冷たいので温泉ではないと思われる。その横に熱めの温泉を流し入れた小さなプールがある。
個室風呂は40分で30,000ルピア。栓が布なので、足で押さえていないとたまらない。
お湯は40度くらいあると思う。
味は少し塩味がする。いわゆる出汁の味系統の温泉だ。色も無色透明というよりは若干薄い黄緑色がついている。香りはあまりしない。
② チニル温泉
サンカヌリップ温泉からさらに4キロほど奥に進んだ場所にある。
ここのプールは改装中で閉まっていた。
お湯が枯れたので、新しい温泉を掘っているのかもしれない。
なんとなく他に温泉がありそうな予感がし、住民らしき人に聞いたら川沿いにあるというので行ってみた。
温泉はチョロチョロしか出てないが、下から湧いているのではなく山から引いているとのこと。
味と香りがかすかにする。日本で味わったことのある風味と香りだが、どの温泉だったか思い出せない。
サンカヌリップ温泉と同じ源泉のはずなのに、色も香りも異なるのでおもしろい。
わたしは足湯をした。湯口に近い場所に足を入れていたら、地元の方から足は下流に入れるんだと注意を受けた。
薬湯として地元の方に大切にされているようだ。いろいろな病気に効くらしい。
タライで掬って浴びるのが、この温泉の入り方になる。
黒い集金箱があり、好きな金額を入れるように言われたので15,000ルピア入れた。
3.王宮3か所の見学
チルボンは3つの王宮がある街として有名だが、実際には4つある。そして見学できる王宮は3つだけと地球の歩き方にある。今回は見学できないとされる王宮にも行ってみた。
いずれの王宮も今に至るまで王家の子孫たちがすんでいて、どことなく生活感がある。
(1)カスプハン宮殿
1番大きく観光地らしい感じのする王宮。
チルボンに来ると、バリ島のようなレンガ作りの割れ門を多く見かけると思う。
これはバリの真似をしているのではなく、チルボンこそがオリジナルという気概で彼らは建てている。
バリの王朝は、ジャワ中部と東部を中心に栄えたマジャパヒト王国が、イスラム勢力に敗れてバリに逃げてスタートしている。
なので、割れ門はジャワ島が先というわけ。
ヒンズーからイスラムに変わったのに割れ門だけがなぜ残ったのか、チルボンは中心地ではなく支配されていた小さな地域でしかなかったのになぜという気はしないではないが、彼らが確立したアイデンティティーなのでうるさいことは言わないでおく。
この宮殿は庭にある壁に、貿易で入手したと思われる磁器の小皿を埋め込んでいる。
多分昔からこうしていたのだろう。普通は室内の壁にはめ込むのに、盗まれやすい外にはめ込むのはどうしてなのか。住民たちに富を見せつけるつもりだったのだろうか。
案の定ぬすまれたのか、皿がなくなってくぼみだけになっている箇所がある。
(2)カプラボナン宮殿
カノマン宮殿に行く途中で偶然見つけて入ってみた。王家の家来たちの家が所狭しと立ち並ぶ中に王家の家もある。
家の中を見ることはできなかったが、何に使われている建物か説明を聞くことができた。
日本から来たというととても喜んでくれ、一緒に記念撮影することに。
宮殿の案内冊子もくれた。インドネシア語で由来が書いてある。
(3)カノマン宮殿
そこそこ大きな宮殿で、目の前がカノマン市場という大きな公共の市場になっている。
普通は治安や静かさを考慮し、市場のような喧騒から離れたところに王宮を置くはずなのに、こんな庶民の生活の場と密接したところに住むとは、名君だったのかもしれない。
ここも王族がまだ住んでいるので生活感を感じる場所だ。
生活の場には入れなかったが、宮殿の一部に入らせてもらった。
(4)クチルボナン宮殿
観光客が入れる宮殿らしいが、王宮めぐりに飽きてしまい行くのをやめた。
バンドンから来た人間にとって、チルボンは本当に暑く、熱中症になりそうな気がした。
王宮が集まっているエリアにあるのでアクセスはしやすい。王宮にご興味のある方はぜひどうぞ。
4. バティックを買いにトゥルスミへ
チルボンはバティックで有名な街で、トゥルスミというエリアにバティック屋が集積している。
チルボンのダウンタウンから6キロくらい西に行ったところにあるため行きやすい。
チルボンのバティックは、中国の影響を受けているというが、わたしにはよくわからない。わかるのはMega Mendungと呼ばれる「雲柄」だけだ。新幹線Whooshのエコノミー座席の布地の柄に使われている。
サルン(腰巻)と長袖のバティックシャツを買った。いずれも雲柄にした。
5.チルボン名物を味わう
チルボンはご当地料理がたくさんあることで有名な街だ。いろいろと食べてみたのでレポートする。
① Empal Gentong(ウンパルグントゥン)
ココナッツベースのスープに牛肉が入っている。家庭によってレシピは様々らしいが、わたしの食べたものは脂身の多い牛肉でリブ肉っぽかった。野菜はほとんど入っていない。
味はなんとなくソトバタウィを思い起こさせる風味で、まあまあうまい。
なぜソトチルボンと命名しなかったのだろう。完全にソトと呼ばれるジャンルの料理なのに。
② Nasi Jambrang(ナシジャンブラン)
バンドンやジャカルタでいうナシ チャンプルーで、ご飯に好きなトッピングをする。
特徴としてはチークの葉っぱで包んで防腐剤にしていること、おかずの種類が多岐にわたることと言われている。ただし、多岐にわたると言っても、この飽食の時代から見れば普通に見える。あくまでも昔の話だ。
わたしは名店と名高く地球の歩き方にも載っている「Mang Dul」に行った。ここは朝早くからやっていて売り切れると閉まるらしいので、朝7時に行った。
味は想像できる普通においしい味。ただしとても安い。
Nasi Jamblangは屋台でもよく見かける。庶民の食事なのだろう。
地元民にはそれぞれ贔屓のナシジャンブラン屋があるらしく、オジェックの運転手は「マンドゥル」よりこっちの店の方がずっとうまいぞと別の店を紹介してくれた。
③ Nasi Lengko(ナシレンコ)
ナシジャンブランに似たコンセプトの料理で、こちらのほうが庶民の料理っぽいごちゃ混ぜ感がある。
わたしが食べたのは、ガドガドというインドネシアのサラダをご飯の上にかけた感じの料理で、サテが2本乗ってクルプックがついていた。
わたしはこっちの方が好きな味だ。
④ Tahu Gejrot(タフグジュロット)
厚揚げを甘辛くグジュグジュに煮込み、上に甘辛酸っぱいバワンメラ(赤分葱)の酢漬けをスライスして乗っけている。
日本でもありそうな味付けで、バワンメラのアクセントが効いていてとても美味しい。日本だとミョウガの酢漬けなんかが合いそうだ。
ナシジャンブランを食べた時にトッピングした厚揚げ豆腐の甘辛煮は、もしかしたらこの料理かもしれない。
⑤ Docang(ドチャン)
ロントン(ご飯を棒状に固めてもの)のスライスに、もやしと青菜、鶏のささみの細切れ少々、そこに砕いたクルプックを乗せて、上から辛めのスープをかけた料理だ。
少し辛いがいける。
こういう料理を考える人はプロの料理人ではなく、素人がそこら辺にあるものを入れて適当に作ったら偶然に美味しかったというパターンだろう。
小腹が空いた時のおやつっぽい食べ物なので、屋台料理に向いている。
⑤ Es Duren
ドリアンアイスがなぜチルボン名物なのかはわからない。
下記のCNNのサイトでは名物に挙げられていた。
ドリアンアイスを食べるのは約20年振りで、味はよく覚えていない。
屋台で食べたが、ドリアンはしっかり入っていた。
⑥ Sate Kambing(サテカンビン)
名物料理か確信が持てないのだが、Sate Kambing Muda(若やぎの串焼き)という看板をよく見るので、名物なんだろうと思う。
わたしは串の盛り合わせにした。要は色々な部位を混ぜているということだ。脂身が多いとか、コリコリしてるとか、血生臭い味とか、色々あった。
ここまで美味しいというか、ヤギの肉がしっかりあり、ヤギを食べている感覚がするサテは最近食べた記憶がない。
値段は50,000ルピア。いつもの3倍近くした。どうりで肉の量も多かったし美味しいわけだ。
以上となります。
ジャカルタやバンドン在住の方は週末を使って1泊2日旅行をされてはいかがでしょうか。