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そうだな…帰ろうか。お前の帰るべき場所に
チベット・インド旅行記
#47,リシュケシュ⑤
【前回までのあらすじ】まえだゆうきはインドの山奥で、遂に座禅のクラスを始める事になった。
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【座禅の作法】
みなさんこんにちは。
それでは、これから座禅のクラスを始めていきたいと思います。
まずは、皆さんが座る坐蒲(ざふ、座禅用のクッション)を選んで下さい。
選び終わったら、自分が座る場所にそっと坐蒲を置き一礼します。
一礼が終わったらくるりと体の向きを変え、今度は坐蒲を背にして一礼。
そのまま坐蒲に座りましょう。
座り方は、結跏趺坐(けっかふざ、両足の甲を太ももの上に乗せる座り方)が理想ですが、出来ない方はあぐらでも大丈夫です。
坐蒲の上にしっかりと腰を落ち着けたなら、上半身をゆっくりと、振り子のように左右にゆらりゆらりと揺らしましょう。
段々と振り子の揺れを緩やかにしていき、自然と動きが止まった所で姿勢を定めます。
同じように上半身を前後に揺らし、姿勢を定めます。
首をゆっくりと回します。
時計回り、続いて反時計回り。
最後に深く息を吸って吐きながら肩を回しましょう。
内から外へ、外から内へ。
さぁ、それでは座禅を始めます…。
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サーシャの手慣れたレクチャーに従って、数名の参加者が厳かな面持ちで座禅を組み始めた。
「座禅の最中は、何も考えず。姿勢を正し、呼吸を落ち着かせ、ただ座ってください。
両目は薄く開け、前方斜め前の床のあたりをぼんやりと見つめましょう。
今日は初めての方ばかりなので15分間の座禅を組みます」。
座禅のクラスが始まってから数日。欧米人のツーリストを中心に参加者の数は上々である。
うっすらと陽の光が差し込む室内に静寂が訪れる。
15分間の座禅は、短いようで実際にやってみると結構長い。
なかなか経過しない時間にもぞもぞしはじめる参加者もちらほら。
「座禅を組むという事は、つまりは何もしない。という事です。
何もせずにただ座る。何の為でもなくただ座る。
何かの為に何かをする事が当たり前の世の中で、15分間、何もせずに座るという静寂は、あなた方の人生にとってかけがえのない時間になるでしょう…。
さぁ、今日の座禅はここまでです。
姿勢を楽にしてください」。
終了の合図を聞き、ほっと足を崩しリラックスする参加者たち。
「皆様お疲れ様でした。
さぁ、それでは最後に日本からやってきた座禅のインストラクター、ユーキからも一言お願いします」。
参加者の好奇の眼差しが、さっと私に集まる。
サーシャからの仰々しい紹介を受け挨拶。
「おほん。ナマステ、日本から来たユーキです」。
インストラクター役は自分には荷が重いから無理だ。と散々断ったけれども、「言う事は全部こっちで用意するから頼む」と説得され、渋々引き受けた。
サーシャから借りた袈裟を着て、スピリチュアルな東洋人を装い、吹き込まれたセリフをさももっともらしく暗唱する。
「皆さん、これから座禅に置いて最も大切な教えを皆さんにお伝えしたいと思います。
それは…」。
ぐるりと参加者を見渡してから言葉を繋ぐ。
「ライフ イズ…(人生とは…)」
ごくり…。
参加者たちの視線が集まる。
この東洋人の口から、一体どんな深い真理が語られるのだろうか。
沈黙が続く。
答えをじっと待つ参加者。
「…ライフ。(人生である)」
「おぉ…」。
参加者からため息のような吐息が漏れる。
そうなのである。
「人生とは人生」なのである。
周りの反応をよくうかがってから、さらに続けてセリフを暗唱する。
「ザゼン イズ…(座禅とは…)」
もしや。
もしかして…。
まさか…。
参加者たちのさらなる視線を感じる。
たっぷりと溜めに溜めてから、次の言葉を繰り出す。
「…ザゼン。(座禅である)」
何だろう。
まるで、世の中の深い真理に触れてしまったかのような不思議な雰囲気が部屋を包み込む。
言葉の裏側に隠された深い意図を探して、頭の中で探求を始める参加者たち。
「…さぁ、これで座禅のクラスはおしまいです。
皆様によき仏縁がありますように」。
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そんなサーシャと私のでこぼこコンビによる座禅クラスは、無事好評の内に終わり、2週間の期間中には約30名以上の参加者があった。
ラジパレスのクリスからは、もっとクラスを続けないか?とも言われたが、サーシャは「ずっとクラスで教えてばかりで自分の修行が疎かになる」。と辞退し、私も同じ事をまた繰り返すのは面白みが無いような気がしたので断った。
2人でまた山の家にこもり、座禅を組み、食事を作り、焚き火を囲む日々を過ごした。
そんなある日、サーシャが「ガンジス河に沐浴に行こうか」。と誘ってきた。
全てのヒンドゥー教徒にとっての聖なる河ガンジス。
その河で沐浴すれば全ての罪が洗い流されると古くから信じられ、多くの巡礼者が河へと集まってくるのだそうだ。
本当は下流の街、バラナシが沐浴のメッカなのだが、上流だろうが下流だろうがガンジスはガンジス。
サーシャと吊り橋を渡り、川沿いの道をてくてくと歩いた。
谷川へと続く雑木林の道を抜け、川べりに降りると、そこは白い砂が集まって砂浜のようになった、静かな隠れ家のようなポイントがあった。
ざわざわと木々が揺れる音、河の流れる音が人気のない山奥に響き渡っている。
サンダルのまま水に足を浸す。
ひんやりと冷たい感触が伝わってくる。
えいやとTシャツを脱ぎ、サーシャと水に飛び込んだ。
頭のてっぺんから爪先まで、ガンジスの清水がキーンと染み渡る。
全ての罪を洗い流す暇もないほど冷たい谷川の水に、あわてて砂浜に上がり体を乾かした。
キラキラと水面がきらめき、目には青葉が美しい。
サーシャと2人、のんびりと河のほとりで過ごすうちに、自然と、これから先の旅の話になった。
日本、韓国、中国、ウイグル、チベット、ネパール、そしてインド。
気がつけば遠く、遠くまでやって来た。
バラナシの街で心を病みかけた事も、今となっては遠い思い出だ。
リシュケシュの街にやって来てから約2ヶ月。
座禅のクラスも終わり、今、一つの旅の節目を感じている。
私は、かねてから考えていたアイデアを、恐る恐るサーシャにぶつけてみる事にした。
「ねぇ、サーシャ…。
せっかくこうやって座禅の修行を続けて、一緒にクラスも開いた事だし、自分は日本に帰ったら、出家して(僧侶になって)座禅の修行を続けるのも良いかなと思っているんだけど…。
どうかな?」
サーシャは私のこれからのアイデアを聞くと、ニヤリと笑ってこう答えた。
「ユーキ。
それはお前が決める事ではない。
きっと今は、俺と一緒に修行の旅をしているからそう思うのかもしれないが、人生というものはいつも、好むと好まざるとにかかわらず、あるべき所にお前を運んでいく。
そういうものだ。
だから、別に無理して修行を続けようとか、出家しようとか思わなくてもいい。
もちろん、ユーキが仏道を歩み続けてくれたらそれはそれで嬉しいけどな。
ただ、本当に大切な事は、ユーキがいつも、サムライの心を持っているかどうかだ」。
「サムライ?」
「そうだ。世の中のほとんどの人間は、生まれてから死ぬまでの間、この人生をよりよくしよう、より美しくしようという道を歩んでいく。
お金を稼ぐ事。出世をする事。美女と結婚する事。勝負に勝つ事。有名になる事。人から羨ましがられる事。
別にそういった事を悪く言うつもりはないが、それらは全て、
『美しい人生』を作る為の道だ。
人間の欲望に際限が無いように、美しい人生を作ろうとする行為には際限が無い。
しかし、悲しいかなそうやって苦労して築き上げた美しい人生は、時と共に衰え、枯れ、終わりを迎えるものばかりだ。
だが、真のサムライの歩む道は違う。
真のサムライの道、それは、
『人生とは美しいものだ』と気付く為の道。
今、ここ、この瞬間に、あるがままの人生を生きる為。
その為に俺たちは生涯をかけて修行を続けるのだ。
ユーキ、お前ならば分かるはずだ」。
「…」。
人生とは美しいものだと気付く為の道…か。
清らかなガンジス河の流れも。
生い茂る緑も。
いま、サーシャといる、この瞬間も。
良いことも。
悪いことも。
正しい事も。
間違えた事も。(本当にそんなものがあるとすればだけど)
ここも。
あそこも。
インドでも。
ロシアでも。
日本でも。
どこにいても、何をしていても、美しさを感じる心。
うまく言えないけれども、それはまさに、『旅をするという事』そのものなのではないだろうか。
そんな気がする。
旅はいつも。
(嬉しい時も、寂しい時も、辛い時も)
その時の私に一番必要な景色を、一番必要な形で見せてくれる。
そして私を、今ここに連れてきた。
きっとこれからも、私をどこかに運んでいくのだろう。
だとしたら、
私はきっとこれから先、どこにいても、何をしていても、たとえどんな自分であったとしても大丈夫。
旅を感じる心を一つだけ胸の中に持っていれば、そこはいつだって旅の途中に変わる。
そんな事を今は強く思う。
「…サーシャ、分かった。
自分、そろそろ次の街に行こうと思う」。
私は、今思いついたばかりのアイデアを、少し胸を張ってサーシャにぶつけた。
「サーシャ…、俺、帰るよ、日本に」。
サーシャは黙って、満足そうに頷いた。
「そうだな…。
帰ろうか。
お前の帰るべき場所に」。
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→チベット・インド旅行記、最終回に続く
【チベット・インド旅行記】#最終回,エピローグはこちら!
【チベット・インド旅行記】#46,リシュケシュ④はこちら!
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