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【BL二次小説】 炎の金メダル⑤



「とんでもないモノ……?」


松井はティーカップを置き、全身を荒北の方へ向けて聞き返した。


「……世界中の科学者が挑戦しているが、2020年の今でもまだ誰も成功させたことの無いモノ……。それをオレぁ……サクッと完成させちまったんス」


「……!」


「だがそれは……」

荒北は窓の外を睨み付けるように見据えながら語る。


「……とてつもなく危険なモノだった。こんなモノの開発に成功したなんて世間に知られたら……世界の軍事バランスを崩しかねねェ程の……!」


「そんなに……」

松井は青冷め、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「……オレぁ自分の能力が恐ろしくなって……逃げ出したんス。大学から、家族から、友人から……」


「それでこの森へ……」

松井は納得した。


「発明家ってのァ、ダメなんス。どうしても自分の能力の限界を試したくなる。その欲に襲われる。……だから、オレぁ出来るだけ一切の情報を遮断した生き方を選択したんス」


「……そうだったんですか。それでテレビも置かず、誰とも接触もせず……」

松井はハーブティーを一気に飲み干した。



そして心を落ち着かせ、重要なことを尋ねた。



「それで……そのとんでもないモノというのは……今……?」





荒北は窓の外を睨んだまま答えた。



「……処分しました。設計図も全て」



それを聞いて、松井はホッと胸を撫で下ろす。

そしてニッコリと微笑みかけて言った。


「ビアンキ博士。……貴方は意思の強いお方だ。益々ファンになりましたよ。今後も応援しております」


「……」



荒北は、黙ったままだった ──。







音も無く、松井の車は静かに帰って行った。


「……」

新開は2階のカーテンの隙間から、去って行くクラリディを眺める。


そして1階へ降り、応接室へ。


「お疲れ様」

カチャカチャとティーカップを片付け始める新開。


荒北はずっと窓の外を立ったまま眺めている。


「次の仕事は?」

「……超高速遠隔メタル3Dプリンティングシステム」

「ヒュウ!航空機用じゃないか。靖友に任せれば海外のベンチャーより早いぜ」

ワクワクして喜んでいる新開。



「お茶、全部飲んでくれたんだ」

空になったティーポットを見て新開は嬉しそうに言った。


「あァ……前回と違う香りで美味しいって言ってたナ」

新開の方に向き直り、思い出したように伝える。


「違いに気付いてくれたんだ。さすが松井さん。靖友は全然わかんないんだからな」

「ハーブティーなんかみんな同じじゃねェか」

「違うよ」

ティーセットを乗せたトレイを持ち上げながらふてくされる新開。


「庭も褒めてた。おとぎ話みてェに見事だって。造園屋にやらせてンのかって」

「ホントかい?嬉しいなあ。ガーデニングの腕も上がってきてるんだオレ」

新開は喜んで、満面の笑みを荒北に向ける。


「……」

その笑顔を見ていたらたまらなくなり、荒北は新開に歩み寄って背中からギュッと抱き付いた。


「……靖友?」

新開の白衣の肩に顔を埋める。


「……松井サンに……また……嘘ついちまった……」


「嘘?」



「……処分なんかしてねェ」





……あるんだ……ココに。


このことを、誰にも知られるわけにはいかねェ。



オレは……この秘密を、墓場まで持って行くんだ……!




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