【BL二次小説】 炎の金メダル⑭
(記者)行方不明?5年前から?それはいったい?
(新開)彼の名前はAといいます。高校時代のチームメイトで、とても信頼のおけるエースアシストでした。今のオレがあるのも全てAのおかげなんです。
(記者)というと?
(新開)高校時代、オレは一度挫折してロードを辞めようとしていました。それがAのおかげで立ち直ることが出来たんです。
(記者)ほう、そんなことが。
(新開)Aはオレの恩人であり、仲間であり、親友であり、とても大切な存在です。
(記者)そのAさんが行方不明に?
(新開)はい。Aとは大学は別々になりましたが、お互いロードは続けていたので良きライバルとして認め合っていました。それが……大学2年のある日突然、Aが失踪したと連絡を受けたんです。
(記者)Aさんに何が起こったんです?
(新開)それが……わからないんです。勝手に中退届を出し、姿を消してしまった。ご家族も、友人達もみんな理由がわからない。オレ達高校時代の仲間にも何も告げず……。
(記者)大学で何かあったんでしょうか。
(新開)大学ではAI工学を専攻していて、成績はかなり良かったそうです。今後を期待する声も高かったと聞きました。Aは高校時代から人気者で、友人も多く後輩からも慕われていました。そんなAがなぜ……。
(記者)心配ですね。
(新開)それ以来オレはずっとAを捜しているんです。もちろん警察にも協力してもらいました。興信所も使いました。ネットでも呼び掛け、ビラ配りもしました。自分の足で出来る限りのことはしたんです。だけど、全く手掛かりが見付からない。ただ、出国した記録は無いので、きっと日本のどこかには居るはずなんです。
(記者)それを何年も?
(新開)はい。もうチャリ乗ってる場合じゃありません。脇目も振らずAを捜し回りました。Aの事で頭がいっぱいで、何も手につきませんから。オレにとってはチャリよりもAの方がずっと大事なんです。
(記者)自転車も活動を止めて……。
(新開)心配で心配でたまらないんです。何か困ってるんじゃないか。何か事件に巻き込まれてるんじゃないか。どこかに監禁されて今でも助けが来るのをずっと待ってるんじゃないか、と。これからもオレはAを捜し続けます。オレの残りの人生は全てAのために使うつもりです。
(記者)そんな貴方が、なぜオリンピックに?
(新開)奔走しているオレを見かねて、Fが言ったんです。あ、Fというのは昔から一緒にチャリをやっている仲間です。Aをロードの世界に引き入れた人物で、現在はオレのコーチです。そのFが「新開、Aを見付けたいならオリンピックに出ろ」と。
(記者)どういう事でしょうか。
(新開)オリンピックは世界的一大イベントです。世界中どこでも開催中は必ず何らかの媒体で目にする。しかも今回は開催国が日本です。たとえAが海外に居たとしても、きっと関心を持つ可能性が高い。そんな時、オレが出場していると知れば……!
(記者)そうか!Aさんの方から連絡が!
(新開)ええ。それが狙いです。Aから激励の電話が掛かって来るかもしれない。「よォ、驚いたぜ新開。まさかオメーが出てるとはなァ。すげェじゃねーか」って。
(記者)確かに効果的ですね!
(新開)捜索は出来る限りの事をやり尽くしました。ですから、Fのこのアイデアにオレは飛び付きました。それで、すぐに練習を再開し、代表選考大会に間に合わせたんです。
(記者)そして見事日本代表を獲得したわけですね。
(新開)必死でした。なんとしても代表にならなくては、と。オレの行動の源はAです。オレがオリンピックに出ることが出来たのは全てAのおかげなんです。オレはまた、Aに借りを作ってしまった。早くAを見付け出して……恩返しがしたい。
(記者)いやはや。まさかそんな目的でオリンピック出場を勝ち取るなんて、前代未聞ですよ。
(新開)今回この雑誌の取材を受けたのもそのためです。オレが表紙の雑誌が本屋に並んでいるのをAが目にすることを期待して。中を読んでもらって、オレがとても心配してること、連絡を待ってること、それがAに伝われば、と。
(記者)なんとかAさんから連絡が来ることを祈っております。あ、レースの方も是非ともメダル獲得を期待しております。本日はどうもありがとうございました。
(新開)ありがとうございました。
「……」
新開は読み終えても、青冷めたままずっと固まっていた。
「ねぇ、なんて書いてあったの?」
見上げる子供達の問いに、新開は答えた。
「新開隼人が……靖友を……捜してる……」
「……?」
「……?」