【BL二次小説】 炎の金メダル①
── 人里離れた深い深い森の奥。
一見、廃墟かと見紛うほどにひっそりと建つ洋館。
昭和初期に建てられたのであろう、蔦の絡む2階建の古いデザインだ。
しかし広い庭は、色鮮やかな花々と青く眩しい芝がイングリッシュガーデンのように綺麗に手入れされている。
荒北と新開は、この洋館に二人で暮らしていた ──。
「フンフン~」
天気の良い日曜日。
鼻唄を歌いながら花壇に水を撒いているのは、白衣を着た新開だ。
ガサッ!
「!」
音のした方を振り向くと、子供が二人、茂みの中からニョキッと姿を現した。
「こんにちは!ジョシュ!」
ツインテールを弾ませ、おしゃまな女の子が元気良く挨拶した。
「こんにちは、華ちゃん」
新開はニッコリと微笑む。
「ハカセは?」
野球帽をかぶった、坊主頭で活発そうな男の子がキョロキョロして尋ねる。
「買い物に出掛けてるよ、健くん」
「ジョシュはお留守番?」
「ああ。オレはお留守番」
健と華は、森の外の集落に住んでいる兄妹だ。
小学校の低学年ぐらいだろうか。
森を探検していて、先日偶然この洋館に辿り着いたと言っていた。
ここには滅多に人が来ない。
そういう場所を選んだからだ。
だから、子供達が突然現れた時は新開も荒北もかなり驚いた。
ここへ近付いてはダメだと強く言ったのだが……。
なにせこの古い洋館は、まるでお化け屋敷のようでもあり、隠れ家のようでもあり、秘密基地のようでもあった。
子供達から見れば神秘的で謎だらけ。
魅力的に映るのは仕方のないことだ。
「ここのことは絶対誰にも喋らないから!絶対秘密にするから!」
と、兄妹は主張した。
新開と荒北は根負けし、日曜日だけなら、そして庭だけならOK、と許可した。
兄妹はそれから毎週日曜日になると、ここの庭に遊びに来るようになったのだ。
「今ハカセは何作ってるの?」
健は目を輝かせて聞いた。
「秘密だって言ったろ?」
笑顔ではぐらかす新開。
子供達に「何者なのか」と聞かれた時 ──。
二人は本名を明かすわけにはいかなかった。
仕方なく荒北は“博士”、新開は“助手”、と自己紹介したのだ。
博士と助手。
子供達にとって、それは益々興味の湧く設定だった。
「お花、キレイね」
花壇を眺めて華が言う。
「華ちゃんも大きくなったらここの花達のようにキレイになるよ」
新開は散水ホースを片付けながら言った。
「本当?」
「本当さ」
「ジョシュもキレイ」
「ええ?」
華は新開の顔を下から覗き込んだ。
「ジョシュはハンサムね」
「ハンサム?ハンサムってなんだい?」
「イケメンのことよ。昔はイケメンのことをハンサムって言ったんだって。おばあちゃんが教えてくれたの」
「ははっ。そうなんだ?ありがとう」
キキーッ!
「まァた来てンのかガキ共が!」
そこへ白衣姿のまま自転車に乗った荒北が、買い物袋をいっぱい下げて帰って来た。
「ハカセだハカセだー!」
健が喜んで荒北に走り寄って行く。
「お帰り。華ちゃんがね、オレのことハンサムだって」
買い物袋を荒北から受け取りながら新開が報告する。
「アァ?つまんねェ死語言ってンじゃねーよバァカ」
罵倒する荒北。
「ねーハカセハカセ!巨大ロボ作って巨大ロボ!」
健が荒北の足にしがみついて頼む。
「ハァ?巨大ロボなんか作ってどーすんだ」
「どーするって……えーと、えーと」
しばらく考え込んだ健は……。
「敵の巨大ロボと戦うんだ!」
と叫んだ。
「ヨーシ。わかった」
「作ってくれるの!?」
パアッと顔を輝かせ、荒北を見上げる。
「敵の巨大ロボが攻めてきたらすぐにオレに知らせろ。そしたら作ってやんよ」
「うんわかった!やったー!」
飛び上がって喜ぶ健。
「早く攻めて来ないかなー!」
ワクワクしていつまでも空を見上げていた。
その晩。
コンコン。
「夕食が出来たよ靖友」
研究室にこもる荒北を呼びに来た新開。
「……」
荒北は作業机に顔を伏せていた。
肩が震えている。
「靖友……」
「……ウ、ウウ」
嗚咽している。
新開は荒北に歩み寄り、背後からそっと抱き締めた。
「泣かないで靖友……」
「ウウゥ……」
荒北は夜になると時々、こうして泣いた。
その度に、新開は優しく抱き締め慰めるのであった。
「オレがついてるから。オレがずっとおめさんの傍にいるから」
「新開……」
涙が止まらない荒北。
「愛してるよ靖友。ずっと一緒だ。死ぬまで一緒だ……」
新開は荒北の頭を優しく撫で続けた。
2023-09-11
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