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【BL二次小説】 炎の金メダル④


翌日。


キッ。


洋館の前にシルバーのFCV、クラリディが停まる。


アタッシュケースを提げ、降りて来た男性は……。


中肉中背。
年齢40代後半程。
落ち着いたダークスーツ。
細い銀縁の丸眼鏡。
白髪混じり。
上品で温厚そうな顔立ちをした紳士だ。



「ドーモ。松井サン」

白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、玄関で出迎える荒北。




松井は弁理士だ。

荒北の特許申請の代行から、発明に関する国や企業の依頼の仲介も請け負っている。

荒北が他人と関わるのを好まない事を理解した上で、親切に世話を焼いてくれる。
まだ25歳の荒北に対しても敬語で接する礼節を示し、口の堅い信用出来る人物だった。

職業柄、発明家や研究者や科学者とはよく接する。
とかくそういう人種は変わり者が多いため、荒北がこんな森の奥でひっそりと暮らしている事にも疑問は抱かなかった。



「こんにちはビアンキ博士。いつもお世話になります」

荒北に笑顔で会釈する松井。




“ビアンキ博士”とは荒北の事だ。

荒北は仕事ではこの偽名を使用していた。
本名は松井にも明かしていない。

松井はそれについても、特に詮索はしなかった。






「── では、今回の依頼も宜しくお願い致します」


「了解ス」


1階の応接室で、一通り仕事の打ち合わせを終える。



書類をアタッシュケースに仕舞ったあと、松井は出されたハーブティーを一口すすった。


「ああ。今日のは前回とはまた香りが違うんですねぇ。とても美味しいです」

松井はニッコリ微笑んでお茶の感想を述べた。


「……そうスか」

荒北はボソボソと答えた。


「このハーブ、庭で採れたものでしょう?うん、いつ見ても見事な庭だ。まるでおとぎ話や絵本に出てきそうですね」

松井はティーカップを持ったまま窓の外の庭を眺め、惚れ惚れとしている。


「ドモ……」

荒北は首の後ろを掻いている。


「管理は造園屋に頼んでるんですか?それともご自身で?」

「……オレです。……ここへは松井サンしか来ないし……」


荒北は一呼吸置いてからこう言った。



「オレはずっと独り暮らしスから」



松井はそれを聞いて、庭から荒北へ視線を戻す。

「それは寂しいでしょう。ビアンキ博士まだお若いのに」

ティーカップをソーサーに置き、笑顔で言った。

「実は私、二十歳になる姪っ子がおりましてね。おとなしくて優しい素直な娘で……」

「松井サン」

松井の言葉を遮る荒北。


「気持ちは有難いスけど……オレ、嫁サンもらう気は全くありません。一生、結婚はしません」

荒北の目は本気だった。

「そうですか……」

松井は残念そうだったが、それ以上は薦めなかった。


そしてすぐにニッコリと微笑み、話題を変える。

「ビアンキ博士の発明、いつもクライアントからかなり評判良いんですよ。仕事も早いし、要望以上の機能も備わった仕上がりで」


「……松井サンのチョイスがイイんじゃないスかね」

荒北は目を逸らして答えた。


「ははは、ご謙遜を。私はね、ビアンキ博士の発明のファンなんですよ」

松井は前のめりになった。


「ファン?」


「ええ。貴方の発明は、他の発明家とは違う……発想は特異ですが実用的ですし、それに、なんと言いますか……思いやりや暖かみを感じます」

「……」


「私が今乗ってるクラリディだって、エコなのにコスト高だった水素FCVを、貴方の発明で量産化に成功し、インフラ整備も一気に進み、おかげで誰でも手に入れ易い価格まで下げることが出来ました。感謝しております」

「そりゃ、良かった……」

首の後ろを掻く荒北。



「大学では何を専攻されてたんです?」

松井は再びハーブティーを数口飲んでから尋ねた。


荒北は一瞬、間を置き……。


「……AI工学ス」

と、正直に答えた。


「ほう!最先端ですね。……大学は中退されたと以前お聞きしましたが、ビアンキ博士ほどの実力なら院まで行けたのではありませんか?勿体ない」


「……」

荒北はソファから立ち上がった。


両手を白衣のポケットに突っ込み、窓の外を眺める。



その視線は庭ではなく、もっと遠くを見ていた。



そして、暫く沈黙の後、口を開いた。




「……オレぁ……大学ン時……とんでもねェモンを作っちまったんス」




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