『モラル・ハラスメントが人も会社もダメにする』 マリー=フランスイルゴイエンヌ著
「その日から私に対する上司の嫌がらせが始まり、私は地獄の日々を送ることになったのです」
リストラで自主退職を拒んだ中年社員が、電話もパソコンも書棚もない机に隔離される。古株のキャリア・ウーマンが新しい上司に、同じコピーを百回取りに行かされる。
官公庁の首長の職務についた議員が組織を改革しようとして、職員たちに総スカンを食らう。
ごく身近にありそうな職場でのささいな人間関係の齟齬や、感情的な対立が、深刻ないじめにまで発展してしまうという恐ろしい実例が、本書には数多く報告されている。
モラル・ハラスメントを訳せば「精神的な嫌がらせ」の意味になる。前著『モラル・ハラスメント―人を傷つけずにはいられない』がフランスでベストセラーになると、にわかに家庭や職場における精神的な暴力の問題が注目を集めるようになった。
同類の行為は昔からあったのだが、適当な言葉で名づけられたために被害の実態が浮かび上がってきたのだ。続編にあたる本書では、特に「職場におけるいじめ」に話がしぼられている。
被害にあえば、不眠、頭痛、食欲不振などの機能障害にはじまり、悪ければ心的外傷後ストレス障害になり、長い間傷を抱えつづけることになるので深刻だ。
企業も経営管理を徹底するなどして予防措置を取るべきだが、できれば本書の「被害者になるのはどんな人々か」と「特有の症状」の箇所を読んで、事前に個人的にも備えておきたい。
著者は精神科の開業医で、現場からの実例と被害者の手紙をまじえて話を進めるので、読んでいてもあきない。たまに自分の事ではないかという症例に当たってドキッとさせられる。
また「敵意ある言動のリスト」にある項目(「メモや手紙、メールなど、書いたものだけで意志を伝える」など)を参照して、社内にモラル・ハラスメントをしている人がいないかどうかチェックしてみるのも本書の活用法の一つだ。