肩や肘が痛い野球選手へ ~②~ 筋肉の弾性要素を使うべし
筋肉の弾性要素とは、直列弾性要素と並列弾性要素に分かれますが、簡単にいうと、「筋肉が元に戻る力」です。
例えるならば、輪ゴムを引っ張ってから放すと元に戻るあれです。輪ゴムの伸びと比較すれば微々たるものですが、筋肉にも備わるゴムと同様の機能を「弾性要素」といいます。
筋肉の長さに対して、腱がメインで2~3%で、それ以外を合わせても4%ほどしか伸びません。カンガルーはアキレス腱が長いため、最大限に弾性要素を使うことができるのです。
このゴム同様の戻る力を使えば、消費エネルギーを必要とせず運動エネルギーを発生させるため、疲労しにくいうえに、とても速い力として使うことができます。
投球動作でも、この力を最大限に使うことが重要であるといえますし、実はこの力は誰もが大なり小なり使っているのです。
イメージを膨らますために、投球において弾性要素がどのように使われているか、いくつかの動作で紹介します。
まず、
「力を溜めるため胸を張れ。」といいます。
弾性要素を主に言いかえるなら、
「弾性要素を引き出すために、大胸筋を伸ばせ」です。
大胸筋は有数の力を発揮する大きな筋肉です。その大胸筋の太いゴムを使おうね。ということです。
次に、
「投げる勢いをつけるためにしっかり前に体重移動する。」といいます。
弾性要素を主に言いかえるなら、
「大胸筋を伸びた復元力が消えないように、投げるところまで持っていけ」です。
引っ張った弾性要素はデリケートです。少し状態が変わってしまうだけで消えてなくなります。正確に、移動しなければなりません。
そして、
「力が抜けるから、体を開くな。」といいます。
弾性要素を主に言いかえるなら、
「体重移動を一気に止めて、弾性要素の復元力に”慣性の力”もプラスしろ!!」です。
ゴムが戻る力はイメージしやすいと思います。慣性の力とは、電車で急ブレーキがかかったら、勢いよく進行方向に飛ばされます。弾性要素が腕を引っ張るとき、腕の付け根が一気に止まれば、慣性の力が腕全体を前に飛び出させます。
その先は、肘、手首と続きます。
胸を張って前に体重移動すれば、持ったボールがその場に残ろうとする慣性により手が残ることで、上腕が外旋され、上腕二頭筋や円回内筋などに弾性要素が生まれる。
その後、急なブレーキによって肩が止まり、上腕が前に飛び出す段階になると、肘の弾性要素が最大になると同様に、手首が背屈することで、深指屈筋などの手首の屈筋群に弾性要素が働き始めます。
さらに、上腕が前に出て止まると、最大になった肘の弾性要素の効果が発揮され、前腕が前に出る。
同様に、最大になった手首の弾性要素が手首を掌屈して、スナップが効き始める。
最後に、指の反りによる弾性要素が発揮されてボールを前に押し出してリリースしていく。
お気づきでしょうか。この一連の投球の動きにおいて、肩・腕周辺で筋肉の収縮の力を使うことはないのです。しかも、関節の回転運動が、関節が先に行くたびに小さくなって、まるで鞭のように使われていくのです。
一般的にいう、筋力で腕を振った場合の一番速さの出る手が視界に入るあたりから顔の前にかけてでは、すでにボールはリリースされていて、フォーロースルーでしかありません。
実は、こうした筋力で腕を振って投げている人でも、無意識に弾性要素は使われています。しかし、投げる仕組みの理解と意識の差は、タイミングのずれが生じて、大きな無駄な力と無駄な動作を生みます。これが故障の原因ではないでしょうか。
そこにさらに、「ボールを持つ時間を長くする」といった内容を絡めて、リリースポイントを前にさせ、最大の腕のスピードが得られる、本来ならフォロースルー部分でリリースする意識を植え付けられます。体重移動も終わり、体の重心から遠く離れた、もっとも体の力が伝わりにくいところで、力を込めてボールに力を伝えなければならず、結果として、頭を振ることにつながります。5㎏ほどある頭のスイングによる遠心力の負荷が首周辺の筋肉にかかります。本来、首周辺の筋肉は、腕を上げるための役割を担います。首の筋肉に過剰な疲労が重なり、疲労から腕を上げにくくなることで、長いイニングを投げられなくなり、連投も効かなくなります。
ケガと表裏一体の捨て身の投球です。
今回は、投球の肩や腕周辺の弾性要素の使われ方を紹介しました。
次回は、肩や肘が痛い野球選手へ③において、弾性要素にプラスする要素をもうひとつ紹介します。