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「困ったとき」

お母さんの写真を見る
眠っているような
死に顔
病院のベッドの上で
亡くなった
ぼくはそれを背景に入れ
自撮りをした

享年89
年に不足はなく
死に際にも立ち合い
穏やかな
旅立ちだった

それは誰にでも
訪れること


お母さんの死に顔の写真
パソコンの中の画像
それに向かい
ぼくは祈る

困っています
助けてください

困ったことがあれば
いつでも言っておいで

お母さんは
いつもそう言っていた
ずっとずっと
言い続けていた

ぼくも
それなりに年を重ね
何度か 何度も
そして今も
困ったことを抱えてきた

だがしかし
一度もお母さんに
それを言ったことはない

いや
初めて働いた会社を
辞める前は
困った困った

言ったかな
ずいぶん前
40年近く前になる

あれも これも
言わずにおくよ

すべての
ものごとは
自分と時間 それが流れるまま
そこで解決される

そう思うから
お母さんを心配させることは
言わないでいた
言ったところで
困ったね 困ったね 本当に
そう言うだけだったろね

だから
昔も黙り
今も黙っておく
お母さんには

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