レストランの誕生を描く、とってもお腹がすく映画|『デリシュ! 』
このnoteでは映画に登場するごはんをメモしていますが、先週は世界で初めてレストランを作ったという実話を元にした映画『デリシュ! 』を鑑賞しました!(ごはん映画のマガジンはこちら)
1789年、革命直前のフランス。貴族と庶民が一緒に食事を楽しむことなんて考えられなかった時代に、世界で初めてのレストラン開店を描く作品です。
ぷっくりした手の持ち主が、生地をこねるシーンからこの映画は始まります。だんだんとまとまりを見せる生地に、卵やミルクを加えながら、さらに練り上げていく。そこからカメラは厨房を映し、たくさんの料理人がせわしなく動く様子をとらえ、ここが公爵の住む城の厨房であることが分かります。
このシーンで「バターを惜しみなく使え!」「ハトはカリカリにしろ!」というセリフが印象に残ってます。(現代でもハトは養殖が難しく高級食材と読んだことがあります)
美食の国と言われるフランスですが、その美しさと豊かさを楽しめるのは貴族のみで、庶民は食を楽しむことすらできない時代がありました。
しかし映画の中で皮肉だと思ったのは、豪華絢爛な食事を楽しんでいるように見えた公爵でさえ、実は気持ちは退屈しており、深夜に一人で夜食を食べながら愚痴るシーンがあったこと。
映画後半では、庶民たちが同じ空間で一緒に食事をする様子が登場します。庶民たちの食事は豪華絢爛ではなくとも、公爵の一人ぼっちの夜食に比べるとずいぶんと華やかに見えてしまいます。高級でなくともいいんです。やはり料理や食事は楽しんでこそ、美味しさと美しさが増すのだと、改めて思えるシーンでした。
フランス田舎の美しい旅籠
宮廷料理人を解任されたマンスロンと息子は田舎の実家に戻りますが、飢餓のため農民が実家に押し入ったあとでボロボロ、マンスロン本人ももう料理はしないと気力を失ってボロボロの状態。
そんな中、料理を教えてほしいとルイーズという女性が訪ねてきます。最初は不審に思っていたマンスロンも、彼女の真っ直ぐな想いに触れるうちに料理への情熱を取り戻します。そしてここは旅籠の役割があるため、訪れた者に料理を提供するようになります。
庶民が食を楽しめないのと同じく、この時代は城の厨房で女性が料理をすることも禁じられていました。美食を作り出すのはあくまで男の仕事であるという格差が当たり前にあった。そんな時代でルイーズが料理を覚えていく様は、ひとつひとつ、時代を変えていくことになったと思う。
そういえばお客にバターを注文され、ルイーズが小さな樽のようなものを回してバターを作る姿になるほど、と思いました。
そして庶民が食事を楽しめる場=レストランを営むことになりますが、映画後半では、公爵がレストランの噂を聞きつけて使いをよこしたり、ルイーズが隠していたある事実が発覚したり。さまざまな苦労や不幸が一気に押し寄せてくるのですが、エンディングは階級なんて関係なく皆が美食を楽しむことができる自由さと、時代の終焉に、爽やかさを感じながら幕を閉じます。
デリシュを食べてみたい!
マンスロンが公爵や貴族たちから反感を買った創作料理は、本作のタイトルにもなっている「デリシュ」でした。
じゃがいもとトリュフ、チーズを薄くスライスして交互に重ね、生地で包んで焼いたもの。お菓子のように可愛い見た目が、食欲を刺激します。
しかし当時のフランスでは地中に近いものは悪魔の産物と考えられており、じゃがいもやトリュフ、根菜などは認められない食材だったため、マンスロンの創作料理は受け入れられません。貴族たちがデリシュを床に投げ捨てるシーンは本当に心が痛みました…。
しかし別のシーンでは、じゃがいも縦にスライスして揚げたもの=フライドポテトも誕生し、田舎で取れる食材をふんだんに使ったマンスロンの料理がたくさん登場します。じゃがいも万歳🙌
本作に登場する料理たち
いつもこのnoteでは、映画に登場するごはんについてメモをしていますが、本作は書ききれないほどの料理が登場します。(あと詳しく分からない料理もたくさん出てきました)
公爵と貴族が楽しむ料理はとにかく豪華で贅沢。権力を証明するかのように20〜30の料理で構成され、ずらっとテーブルに一度に並びます。
このやり方に対して、マンスロンのレストランでは、一皿ずつお客のペースに合わせて料理をサーブするという方法をとります。この対比も料理に対する考え方の違いが表れていて面白いですね。
公爵が旅籠を訪れる際には、シナモンのムースがリクエストに入っていました(冒頭、マンスロンは香辛料の使いすぎを料理人に注意するシーンがあり、シナモンを嫌がっていました)
肉や魚を生地で包んで焼いたもの、鴨やウサギのロースト、オムレツ、スープなども登場。
あと、ルイーズが作るゼリーが登場します。おそらく「パート・ドゥ・フリュイ」という果汁をペクチンで固めたフランス風グミなのでは?と思い、調べるとこのスイーツの歴史は古く、10世紀ごろフランスのオーベルニュ地方が発祥とされているらしいです。劇中と同じものかは分かりませんが、甘くて美味しそうです。
ちなみに本作で料理アドバイザーを務めたのは、パリのオルセー河岸にあるフランス外務省の厨房を率いるシェフのティエリー・シャリエと、シェフで写真家でもあるジャン・シャルル・カルマン。二人のインタビューもパンフに掲載されています。