学生の放つ「魚はうまい!」
先日、記事にした学生達による期間限定のレストラン。
chefs for the blueという団体が開催している、海の生態系について教え、次世代を育てるプログラムだ。
ただ教えるだけではない。
プログラムの集大成はポップアップレストランを運営すること。
学びをアウトプットする場も提供される。
若者が何かに一生懸命取り組むことも、魚も大好きな私は喜び勇んで出かけてきた。
■味・学び、すべてが心尽くし
レストランに入ると、壁にはレストランを運営する学生達の名前が貼られていた。
ひとりひとりの名前だけでなく、それぞれの“強み・特技”が赤字で記されている。
デカデカと書かれている上に、100%という揺らぎのなさ。学生達の元気が伝わってきて、これだけで胸がいっぱいになる。
■レストランのコンセプトは「あおのいま」
提供されたのは、魚づくしのコース料理。
一品一品を学生達で話し合って決定し、試作を重ねたという。正にゼロからのスタート。
学生達の生み出した、コース料理が始まる。
前菜は鰯の冷製油煮トマトだれ
夏らしく涼し気な器に、トマトの赤が美しい。
参加者には取材目的の方もいて「なぜ、鰯を選んだのか」等々、素人の思いつかない質問が飛ぶ。
プロの気迫に「場違いなとこへ来てしまったか…」と不安になったが料理の味に集中することにした。
テーブルには担当の学生さんが座っていて、料理の説明や海や魚の現状を教えてくれた。
真鯛ではなく敢えて黒鯛
お次は揚げ物。こちらも彩りが美しい。
一品一品が提供されると、取材陣は質問に走ろうとする。確かに学生達の提供する料理はユニークで、「知りたい」欲を掻き立てる。
「まずはひと口お召し上がり下さい」。
温かいものは温かいうちに、質問はそれからと促す学生さん。落ち着いた物腰に大人達は頭を掻くしかない。
話題に上がったのが「なぜ、真鯛ではなく黒鯛なのか」。
いやぁ…おいしいし、いいじゃないですか。と私は思ったのだが、敢えて黒鯛を選んだ学生さんは「よくぞ、突っ込んでくれました!」とばかりに破顔した。
黒鯛は香りが強い。人によっては魚臭いから苦手と言う人もいる。
だが、身のは圧倒的に黒鯛の方が濃厚でおいしい。
今回、学生さん達は「黒鯛のおいしさ」を知ってもらうためにこの一品をコースに入れたそうだ。
ここで黒鯛のおいしさを知って、近所のお店で売ってたら食べてみてくださいねという狙いだ。
丁寧に擦られた生姜と優しい出汁のきいた餡が黒鯛を包み込む
臭みは全く気にならないし、餡とのハーモニーが絶妙だった。
夏色野菜が見た目の美しさを引き立たせる。
餡にも試行錯誤したそうだ。
出汁の濃淡はもちろん、餡の濃さにまでこだわり、何度も試作したと教えてくれた。
魚マニアを唸らせたマグロ膳
魚市場でマグロがズラリと並ぶ光景をテレビで見たことがある。
マグロの良し悪しを仲買人は尾の身で判断する。
以前から尾の身を食べてみたいと思っていた。
マグロの良し悪しを物語れる部位だ。
絶対うまいに決まっている!
つみれ汁は尾の身で作られていた。
なんと、市場では捨てられることも多いのだとか。
確かにマグロの尻尾はデカく、持ち帰りに苦労しそうだ。
つみれ汁はすり身だけでなく、細切れにされた尾の身がいっしょに混ぜ込まれていて、食感が最高。
参加者のひとりが「どんなに元気なくてもこれだけは食える気がする」と呟く。大人達、静かにうなづく。
「みなさん、血合いってご存知ですか?」と始まった血合いの煮付けについての説明。
アラを買うと必ず入っている、濃い赤色の身だ。
血合いはレバーにあたる部位。
食感が劣り、臭みもあるため人気がない。
だけども鉄分などの栄養をたっぷり含んでいる。
捨ててしまうのはもったいないが、食べるには臭みを消す手間がかかる。
栄養があっても血合いがなかなか商品化しない理由がここにある。
「血合い」という呼び方も印象が良くないのでは、という意見もあるようで、新しい名称を三浦商工会議所で募集中とのこと。
選ばれるとお食事券がもらえるらしい。
ネーミングセンスのある方、血合いに活路を拓いてくれ!
学生さんは、どんな質問にも一旦考え、頭の中で整理しながら答えてくれた。
魚や海の生態系を学び、自分なりの意見を持っていることが伝わってくる。
真摯な姿勢に大人達は魂を揺さぶられっぱなしだった。
デザートを海藻が彩る!
ところてんは比較的よく知られた海藻食品だが、まさか海藻がそのまま水羊羹に乗って出てくるとは思わなかった。
大人達にどよめきが走る。
海藻をそのままデザートに使うセンス。
こんなに予想外で楽しいコース料理は初めて。
海藻はコリコリとした歯ごたえでおいしかった。
食材選び・調理法のアイデアが柔軟でおもしろく、説明を聞く度にワクワクする。
思いがけない楽しさ、おいしさは喜びを生む。
いい経験をさせてもらえてるな、と感謝の気持ちでいっぱいになった。
■身近から海を守る
食事の後は学生達の自己紹介と、海のお勉強。
高校1年生から大学生のチームで、学校も専攻している学科も違っていた。
ひとりひとりが身近な人に海を守る・魚を守るための働きかけをすることで、海の未来は変わるかもしれない、という語りが印象的だった。
当たり前に店頭に並ぶ魚たち。
実は食卓から消えていった魚も多くいると学んだ。
母から聞いていた瀬戸内で獲れた魚のおいしさは幻になりつつある。
養殖が次々と成功し、レベルアップしていく側で天然物の魚は激減。
次の世代に豊かな海をつなげたい。
私はシュノーケリングが大好きで、海の中を眺める幸せを知っている。
一方、この20年間でどんどん沖へ行かなくては、色とりどりの魚や珊瑚を見られなくなったことも知っている。
大きな事は出来なくても、出来ることはたくさんある。
・珊瑚にやさしい日焼け止めを使う
・プラごみを減らす
・海を守りたいと周りに話す
・積極的に魚を食べる
毎日できなくても、心がけていれば行動は変わる。
学生達の溌剌とした姿が心を動かしてくれた。
■守さんの記事とTHE BLUE CAMPのご紹介
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