〜故郷を求めて〜映画『イン・ザ・ハイツ』を移民の歴史から読み解く
7月30日公開の映画『インザハイツ』。
うだるような暑さ、増え続けるコロナ、終わりのない緊急事態、旅行にも行けない閉塞感…
そんな時こそ、この映画で思いっきり夏を感じて鬱憤を晴らしてほしい!!
ミュージカル界の天才的な異端児、リン=マニュエル・ミランダによる大ヒット作が待望の映画化。
500人超の大迫力ダンスとノリノリのビートでボルテージ最高潮!
ラテンのリズムに溺れ、ヒップホップに体を揺らし、眩しい太陽の元でクールな水を浴びながら歌って踊り狂う!
まずは何も考えず、エネルギッシュな若者たちに身を委ねてみよう。
これを読めばさらに映画が楽しめるポイントを2点紹介する。
前半は一般的な観客向け、後半はコアなミュージカルファン向けである。ぜひ合わせて楽しんでほしい。
①喜びあふれる故郷への賛歌
舞台はマンハッタン北部のワシントンハイツ。
blockと親しみを込めて呼ばれるその地区に暮らすのは、ドミニカ共和国、プエルトリコ、キューバ等からやってきた移民の若者達だ。
古き良き町並みは都市開発によってその姿を変えつつあるが、彼らは苦しい生活の中でも互いに助け合い、故郷へ想いを馳せながらポジティブに人生を謳歌している。
キーワードとなるのは、
夢とはなんなのか。
故郷とはどこなのか。
アイデンティティはどこにあるのか。
主人公達は、親がアメリカンドリームを夢見てニューヨークに移り住んだため、自国で生まれニューヨークで育った。
必死の思いで生活の基盤を作り上げた移民1世よりも視野が広く、昔に比べてチャンスは広がり、英語もある程度は話せる。
しかし完全に"アメリカ人"になることはできず、低所得や差別に苦しめられながらも新たなアイデンティティを探し求めている。
日々忙しく働く彼らには夢がある。
故郷に帰り両親のバーを再建すること。
名門大学を卒業して成功すること。
町を出てファッションデザイナーになること。
トランプのような実業家になること。
彼らは毎朝小さな夢を見て、ウスナビが営むコンビニで宝くじを買う。
お金さえ稼げれば全て手に入ると思っていたが、そうではなかった。
夢とは磨き上げられたダイアモンドではなく、もっとゴツゴツした、一見取るに足らない小さなものーー「スエニート」なのだった。
出身国は様々だが、このblock内の公用語はスペイン語だ。ヒスパニック系のコミュニティとして、ご近所さんを互いに家族のように大切に思っている。
ここには、夢を応援してくれる人も、夢を見失った時に寄り添ってくれる人もいる。
そして、共に夢を叶えてくれる人も。
生まれた国ではなくとも、皆が温かく迎えてくれるこの場所こそがホームであり宝なのだと、最後に彼らは気づくのだ。
ワシントンハイツの暑い夏が過ぎていく。
少しずつ変わりゆく町の中で何度でも立ち上がり今日をたくましく生きていく若者たちの姿に、きっと大きなパワーをもらえるはずだ。
②ミュージカルマニアの考察
〜IN THE HIGHTSはWEST SIDE STORYの後日談だった〜
ここからは、作品の背景を深く掘り下げた上で既存のミュージカルとの共通点を見出していく、マニアックな視点でお届けする。
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