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読後寸評

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読んだ本で感じたことを綴っています。 好きな作家はラディゲですが、最近よく読むのはジェンダー論。A4用紙1枚程度で、800〜1000字程の感想文です。
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2022年10月の記事一覧

終戦を宣言した玉音放送を巡る葛藤「日本のいちばん長い日」

終戦を宣言した玉音放送を巡る葛藤「日本のいちばん長い日」

本(日本のいちばん長い日)

昨年死去した半藤一利さんの代表作です。太平洋戦争の敗戦を、天皇が全国民に宣言した1945年8月15日の玉音放送から逆算して、14日正午からの丸1日の動きを克明に記録した筆者渾身の作品です。
映画化も2度され、私も2作品とも観ましたが、第2作目の昭和天皇を演じた本木雅弘さんの演技が天皇の人間性を出しており、印象に残っていました。

本書は1965年に刊行され、その後19

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マニピュレーションの危険性を説いた本「会話を哲学する」

マニピュレーションの危険性を説いた本「会話を哲学する」

本(会話を哲学する)(長文失礼します)

多くの小説や漫画などの作品を引用しながら、会話を哲学的観点から考察した本です。筆者の三木那由他さんは、言葉とコミュニケーションを研究する大阪大学大学院講師の哲学者で、実は先日同じ筆者の「言葉の展望台」を読んだばかりでしたが、この本が某書店での新書売上1位との新聞書評欄での記事を読み、また買って読んでみました。

副題が「コミュニケーションとマニピュレーショ

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作家今村夏子の新作短編集「とんこつQ&A」

作家今村夏子の新作短編集「とんこつQ&A」

本(とんこつQ&A)

「むらさきのスカートの女」で芥川賞を受賞した今村夏子さんの新作です。表題作も含めた4作の短編集となっています。
帯に「人間の取り返しのつかない刹那を描いた4篇」と書いてありますが、1つの嘘や偏見が、思いがけない結末をもたらすことを暗示しています。

表題作は、中華料理店の「とんこつ」で働き出した主人公が、接客がうまくできず、その打開策にと接客Q&Aのマニュアルを自分で作って

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