終戦を宣言した玉音放送を巡る葛藤「日本のいちばん長い日」
本(日本のいちばん長い日)
昨年死去した半藤一利さんの代表作です。太平洋戦争の敗戦を、天皇が全国民に宣言した1945年8月15日の玉音放送から逆算して、14日正午からの丸1日の動きを克明に記録した筆者渾身の作品です。
映画化も2度され、私も2作品とも観ましたが、第2作目の昭和天皇を演じた本木雅弘さんの演技が天皇の人間性を出しており、印象に残っていました。
本書は1965年に刊行され、その後1995年に筆者による史実などの訂正を経て決定版として出版された文庫版を読みました。
ポツダム宣言の提示、広島・長崎への原爆投下、ソ連の参戦などの状況を鑑みながら、8月14日正午から1時間単位で終戦までの経路が詳細に描かれています。
軸となるのは3つの項目で、天皇のポツダム宣言による敗戦の受諾と終戦への決断、内閣の敗戦に対する国の決定、そして降伏せずに本土決戦を主張する軍部の反乱です。
天皇は日本民族を滅亡させないためにも敗戦を受け入れて終戦に導き、平和な日常を取り戻すことが肝要であるという主張は一貫しており、内閣も天皇の勅令であればその意思を最大限に尊重するというのが、天皇を主権とする大日本帝国における行政府の立場です。
やはり最大の難点は、徹底抗戦を主張する軍部の反論であり、閣議でも阿南陸相が鈴木首相を始めとするほかの閣僚と対立する場面が繰り返され、いたずらに会議が長引いて結論が先送りにされる事態が続きます。
そこに青年将校を中心とした反乱軍が決起することになり、増々混迷の度を増していきます。こうした攻防は夜を徹して続きますが、結果的に言えば、予定通り前夜2度に渡って天皇が読み上げた詔書を録音した玉音放送が全国に放送されます。
その陰には、首相を始めとする政治家や官僚、事務官、さらに録音のために皇居に派遣された放送局の職員、軍部においても天皇の勅令を絶対とする一部指揮官などが、機転を利かせて軍部の暴走を押し止めようとした経過がありました。
折しも現在放送中のNHKBS「本日も晴天なり」での玉音放送の場面では、敗戦を信じない者がこれは陰謀だと叫びながらも、なぜもっと早く終戦にしなかったのか、そうすれば死なないですんだ人がいたのにと絶句する場面がありました。
戦争は始めるよりも終わらせることが、何十倍も難しいと言われます。太平洋戦争でも戦死者の9割が最後の1年半で死亡したとの数字が残っています。
文中に「昭和6年の満州事変より14年間も続いてきた戦争は終わるのである。」という文言がありましたが、これが当時終戦直前の国の総意だったのではなかったかと思います。