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午前十時『妖星ゴラス』の見どころ(無料記事)

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 『午前十時の映画祭14』2025年1月テーマ「円谷英二 神様の特撮」上映作品のうちのひとつ『妖星ゴラス』の私的見どころを列挙。一般的な見どころとはかなり違うかも知れないのであらかじめお断りをしておきます。
 いまさら「VTOLのミニチュアが『ウルトラマン』に流用されて……」みたいな話なんて書きませんw そんなの書くぐらいなら「VTOLだけでなくスパイダーショットも出てくる」(しかも二挺! しかも一挺は二瓶正典が使う!)ぐらい書きましょう。


わずか88分しかない『妖星ゴラス』

 しかしあんなに内容てんこ盛りな映画である『妖星ゴラス』のランニングタイムはわずか88分しかないんだよな。ものすごいテンポで話が突き進むことで有名な『ゴジラ×メカゴジラ』(2003年正月映画)とほとんど同タイムとか信じられるか!? 『妖星ゴラス』とくらべたらどんな映画でもだいたい冗長に感じられちゃうものすごさ。
 そしてその中の物語構成のバランスも、開巻から南極基地建設が映画開始からだいたい45分つまり映画のちょうど半分。ジェットパイプ点火がほぼほぼ開始1時間ピッタリ。もっというと前半も開巻から隼号遭難までが第1巻(15分弱)。そこまでのボリュームがけっこうあって、そこから南極基地建設までがわずか30分というテンポがものすごい。そしてジェットパイプ点火から15分の間にお正月があってマグマが出て土星の輪がなくなって。そして最後、白川由美と水野久美の疎開準備からがラスト15分、という構成。
 いまリメイクしたら余分な冗長場面てんこ盛りのクッソトロいテンポの上に、わけわかんない惚れた腫れたとか入れて計3時間ぐらいになるんじゃなかろうかw
 1950年代、60年代ごろまでの東宝特撮映画は、一部例外を除いてだいたい開始45分ごろに一度大きなヤマ場が来るように設計されているんですよね。レーザーディスク全盛のころはちょうど45分のヤマ場が終わってA面終了、というパターンの盤が多かったような。

今回の「4K版」の“目玉”は……?

 『午前十時の映画祭12』の『ラドン』、『同13』の『地球防衛軍』あたりは1950年代の作品ということもあり、『ラドン』は三原色分離ネガを参考にした色彩の復元、『地球防衛軍』は無数の画面キズ修復&「パースペクタ立体音響」の復元など、主に“画面の修復、復元”が目玉商品でした。しかし1960年代作品の『妖星ゴラス』は、現行見ることができる商品や放送などにおいても、画面には1950年代作品ほどのダメージは感じられません。

 もちろん音声については『午前十時の映画祭11』の『モスラ』と同じく磁気4ch音声「パーフエクト ステレオフォニック サウンド(多元磁気立体音響)」が再現されるでしょうが、その音声そのものは一応いままでにも商品化されているので、一応それらの商品でもその効果をそれなりに感じることはできます。そして『モスラ』のときは、立体音響にくわえてさらに映画のアタマに“序曲”がつく、というトピックがありましたが、今回の『妖星ゴラス』ではそんなトピックもありません。
  ※参考:Vector記事「『モスラ』4K修復大作戦 !!
 万が一、アタマに「パーフエクト ステレオフォニック サウンド」を示すタイトルが発見されてそれが付随していればそれなりのトピックにはなるのですが、はたして……?

パーフエクト ステレオフォニック サウンド

 とはいえ、今回はその「パーフエクト ステレオフォニック サウンド(多元磁気立体音響)」を本来の使用環境である"映画館"で、さらにそれを目いっぱいのボリュームで楽しむことができるわけですから、「楽しみかどうか」と訊かれたらそりゃもちろん楽しみでしかたありません。
 自分が『妖星ゴラス』を劇場で観たのは40年くらい前のオールナイト1回きり。しかもそのときも立体音響だったようなそうじゃなかったような、あいまいな記憶しかありません。同じオールナイトで観た『世界大戦争』は間違いなく磁気4chだったはずですが……。

 この「パーフエクト ステレオフォニック サウンド」は、当時の通常の映画に用いられていた「光学録音」の音ではなく、それより圧倒的に高音質な「磁気録音」を用いて、光学録音ではできなかった4chによる立体音響の上映方式です。現在の5.1chの下位互換のような形で、前側(フロント)に左(LEFT)、中央(CENTER)、右(RIGHT)の3ch、そしてうしろ、あるいは両サイドの壁にもう1ch(リアch)を配置しています。
 1960年代という新時代を迎えた日本映画界において画期的な立体音響システムですが、だからといってやたらめったら使いまくるみたいな「下品」な使い方をしないのが当時の映画人の矜恃といいますか。じつにひかえめに、そしてそれだけ効果的になるように、この新システムを使っています。
 『キングコング対ゴジラ』などでも、ゴジラが暴れていても「ここぞ!」という場面でしかリアchは使われていません。それよりも場面全体を包み込むファロ島の音楽におけるリアchの利用が目立ちます。
 『世界大戦争』でもリアchはかなりひかえめ。まあその分使われるときは存分に使ってますけどね。4chで響きわたる終末のうちわ太鼓が怖ぇ!
 黒澤明がはじめて多元磁気立体音響を使った『天国と地獄』などでは、ものすごく緊迫したところに、その緊迫感をさらに高めるためにめっちゃ限定的な使い方をしていてびっくりしました。酒匂川の身代金受け渡しシーンなど「うわこんな使い方するかあ!」みたいなリアchの使い方をしています。

『妖星ゴラス』の“聴きどころ”

 『妖星ゴラス』でも、その立体音響のリアchは乱用せず「ここぞ!」という効果的な場面にしぼって使用されています。その着目(耳?)ポイントを列挙してみましょう。
 まず冒頭のメインタイトルの爆発音をはじめ、観客をびっくりさせようとする「爆発」にはリアchがいくつか使われています。
 そして映画中盤の壮大なスケールの南極基地建設シークエンスでは縦横無尽に飛び交うヘリコプターやVTOLのSEがリアchに割り当てられていたりします。その後もカプセル1号が体験するゴラスの恐怖や、マグマ対VTOL機の場面でも部分的に、そして効果的にリアchを鳴らしています。
 また猛烈な推進力をあらわすジェットパイプの猛火のショットではかならずリアchからもすごい音が聞こえているはず。さらにクライマックスの大洪水やゴラス最接近などでは、映画館全体を包み込む大迫力の立体音響が楽しめるはずです。
 また空間の広がりを感じさせるために台詞がリアchに降られているところもあり、ジェットパイプ点火直前の「臨界量5000!」などもうしろから聞こえてきます。
 そんなリアch以外の「立体音響」版のチェックポイントとしては、派遣が決まった鳳号パイロットたちがキャバレーで歌い踊る「俺ら宇宙のパイロット」。まだモノラル版しか確認できなかったころに出たサントラ盤では、おっさんのソロボーカルバージョンは「未使用」とされていたのですが、立体音響版をよーく聴いてみると、うっすらと聞こえています。

 そんな「多元磁気立体音響」で聴く、というより体感する、ということが今回の『妖星ゴラス』いちばんの見どころ(聴きどころ)でしょうかね。

4K画質での注目点

 1950年代の『ラドン』『地球防衛軍』ほどには画面のダメージは少ないはずだとはいえ、『モスラ』や『キングコング対ゴジラ』(4K復元版)ぐらいの感じの画面になるならば、それはいままでのフィルムやDVD、BD、HD放送とは格段に違うきれいさになるのでしょうね。でもそれは予想の範囲内。
 ただし『妖星ゴラス』には“世界初の六重合成”(パンフレットより。ほんとうに“世界初”かどうかは不明)と謳われたショットがあり、それとおぼしきショットはたしかにフィルムを何重にも重ねたことで発生する“合成キズ”がものすごく目立ちます。なのであのショットの合成キズが『地球防衛軍』みたいにきれいになっていたらいいなあ、とは思います。5秒にも満たないショットなので、劇場で見逃さないようにしないと。
 ……しかし、1963年東宝導入の3ヘッド「オックスベリー1900シリーズ」や翌年にTBSが買った4ヘッド「同1200シリーズ」ならともかく、それ以前のオプチカルプリンターしかない状態で六重合成にチャレンジするとか、いったいなに考えてるんだろうな。アタマおかしすぎる。

「ユリイカ 円谷英二特集号」の駄文

 あとやっぱり『妖星ゴラス』特撮の最大の見どころである「南極基地建設」シークエンスについては、「ユリイカ 2021年10月号 特集◎円谷英二 ―特撮の映画史・生誕120年―」にダラダラと書いちゃったからなあ。でもあの文章、まわりのすごい執筆者のみなさまに圧倒されてか、なんかよくわかんない文章になっちゃったから……。
 あれで言いたかったのはようするに「南極基地建設は“広大なパノラマセット”なんて組んでなくて、いちばん効果的に利用できる部分的な特撮セットをいくつか組んでいるだけで、それを“広大なパノラマ”に見えるように作り上げている円谷英二のコンテと編集テクニックがすごい」ということなんだけど、それがぜんぜん伝わってないヒドい文章で草。
 でもとにかく『妖星ゴラス』の解説などで「とてつもなく広大な南極基地の特撮セットが云々」とか書いてあるのはみんなウソ、とか思っておけばいいんじゃないかと(暴言)。
 そりゃ部分的なひとつひとつのセットそのものが現在の常識から考えたらおそろしくデカいものばっかりなんだけど、それらをうまく使ってうまく編集して、あたかもひとつの広大な南極基地(のセット)のように感じさせてしまうのが「円谷英二の技術」(特に編集技術)なんですよね。

1978年末のテレビ放送

 『午前十時』とは関係ありませんが、昔テレビで放送されたときのカット箇所で憶えているところを、ついでにここでメモしておきます。
 1980年代くらいまで、こういう映画がテレビ放送されるときには、放送枠の1時間半枠や2時間枠に合わせて内容を大幅にカットして放送するのが常でした。CMが挿入される長さはだいたい決まっていて、それをのぞいた映画の正味は1時間半枠で72分前後、2時間枠で90分前後というのが相場だったと記憶しています。
 自分の『妖星ゴラス』初見は1978年12月25日(月)にフジテレビで放送されたものを録画したものでした。同年夏の再放送時に未放送だった『ウルトラマン まぼろしの雪山』と抱き合わせで2時間枠での放送でしたので、内容は72分程度だったと思われます。
 テレビ放送用に短縮&トリミングした16㎜フィルムなので「秘密はいかん! 公開すべきだ!」とかの字幕が焼き込みでチリチリ焼けてるやつw あのテロップで「米田仁士さんのマンガの元ネタはコレか!」と知って感動したものでした。

 明確に憶えているカット箇所としては以下の部分があります。
①隼号がゴラスに突入するまでの第1巻はノーカット。そこでCMが入って、CM明けは「隼号-ゴラス調査報告書」のアップから。その間のクリスマス~園田艇長の葬儀~小沢栄太郎のイチャモンあたりまでの約4分半がまるまるカット。
②科学センター、もとい川崎長沢浄水場、もとい富士山麓宇宙港から鳳号乗員たちがヘリで宇宙省へ向かうまでの2分半がカット。ここの「俺ら宇宙のパイロット」がバッサリなくなっていました。
③各国の宇宙ステーションが総動員されているさまを見ての平田昭彦と佐原健二の会話のあとがすぐに南極基地建設になっていました。池部良による南極施設ご案内1分半がカット。

 ほかにも細かいところがいくつか切られていたと思うのですが、マグマ関連のシークエンスはノーカットだったと思います。
 このテレビ放送版はあとからノーカット版を見ても不自然なところがほとんどなく感じられた、とてもうまく作られた短縮版だったと思っています。

海外版にのみ存在するカット

 「海外版ではマグマが出ない」みたいなことが昔から言われていましたが、結局海外版にも出てるんじゃなかったでしたっけ? 海外版なんてもう何十年も見てないからよく憶えてないw いまなら米国Amazonからの輸入とか簡単にできるのかな? 「もともと脚本第一稿にはマグマが出なかったのをあとで書き加えられた」というエピソードが海外版の話とどこかで混じっちゃったりすると、ちょっとした勘違いからそういう話が生まれてもおかしくはないのかも。ちゃんともう一度海外版も確認しなきゃなあ。

 しかし海外版には、現在の日本版には存在しないカットがあります。ジェットパイプ点火120秒前、「地球の運命は かかってこの南極計画にある!」というJ・ファーネス弁護人のダミ声の直後に、ゴラスと地球の軌道が示されて「このままだと地球とゴラスがこのようにぶつかるので、逃げ切るには地球の軌道をこれだけズラさなければいけない」ということを説明してくれる1カットが海外版に存在します。
 たった1カットですがこの図による説明がものすごくわかりやすい(地球の軌道を従来より内側になるように移動させることもわかる)ので、完成品ではなんで切っちゃったんだろう? でもだからといって4Kで復元したら、それはそれで完成品とは違うものになっちゃうから、それはマズいけど。
 ……ただ、その1カットは決定稿にもなく、役者たちが映っているわけでもなく、ただイラストでその軌道が示されているだけのものなので、もしかしたら海外版用に(もしかして勝手に?)あとから撮り足している可能性が微レ存……?

 もしかしてほかにも国内版にはない海外版のみのカットとかあるのかなあ? あ、そういえば海外版のエンドクレジットとエンドマークって音楽が『世界大戦争』のエンディングなんだよな。せっかく地球が助かったのにまるで壊滅しちゃったみたいじゃんw

名優3人による怪獣退治

 まぁしかしアレだ、「日本映画史における『妖星ゴラス』の見どころ」としては、やはり「日本映画史上の名優3人、池部良、上原謙、志村喬による怪獣退治」に尽きるんだろうけどな。「あそこをカットした方がいい」とかあり得ない。
 こんな日本映画史上の名優3人に、『ウルトラマン』より4年も早い超兵器で、キングギドラを2年も先取りする地走り光線で焼き殺される怪獣なんて、マグマをおいてほかにおらんぞ。しかもすげえブルーバックでその名優3人の背景に合成されるシーンまであるんだぜw 食い入るように前のめりになる志村のおじちゃん最高。

「こういう映画を見るのは好きだけど、自分ではやりたくない」
「どうしても特撮に比重がかかるからね。そうかといって人物の方がガッチリしまらなきゃどうにもならない。実際むずかしいよ」

『妖星ゴラス』パンフレットより 池部良のコメント

 池部良が「特撮映画はキライ」と言っていた、みたいな記述を読んだりしたことがあるけど、実際は当時のパンフレットにもある上記の文章を曲解したとしか思えない。ちゃんと「こういう映画」を役者の側から的確に評価した上で「やりたくないぐらいむずかしい」と言ってるだけじゃんねえ。
 『妖星ゴラス』でも『宇宙大戦争』でも、溜めに溜めた演技で「……発射ッ!」とかやってくれるんだぜw ノリノリやん。もしホントにきらいだったら『惑星大戦争』とか断るだろ普通。

 この3人や藤田進あたりの重鎮たちももちろんだけど、いまと違って当時は芸術映画より二段も三段も低く見られて貶まれていたであろうこの手の映画に白川由美や水野久美などがよろこんで(?)出てくれていたことが、どれだけわれわれにとってありがたかったか。その価値は計り知れないものがありますな。

おわりに

 ちなみに、自分はかろうじてゴラス地球最接近の日である1982年2月13日(土)(劇中で確認可)より前に『妖星ゴラス』テレビ放映版のビデオを手に入れることができたので、ゴラス最接近の当日はまわりにオタ友はいなかったのでひとり興奮してワクワクしながら高校で授業を受けていた記憶があります。いやべつにその日は特に変わったこともなかったはずですけど。

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【12/27追記】
 「東宝創立30周年記念作品」は、『キングコング対ゴジラ』(8/11公開)『放浪記』(9/29)『忠臣蔵』(11/3)『河のほとりで』(11/23)『憂愁平野』(S38.1/15)『天国と地獄』(S38.3/1)の計6作品。『妖星ゴラス』は該当しません。
 上記6作品のタイトルを読みながら脳内で『隠し砦』マーチが流れる人は仲間。(『キングコング対ゴジラ』各種メディアの特典映像参照)

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