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【フランス映画入門】 あかるくたのしいフランス映画紹介 #02
こちらはフランス映画に馴染みのない読者の皆さんが、「フランス映画って楽しそう!観てみたい!」と感じていただけるよう、明るく楽しい作品を紹介していく試みだ。
今回はその第二弾である。
それではどんどんいきましょう。
これからは目次をつけておく。
#03 『夢を見ましょう』 Faisons un rêve (1936)
監督:サッシャ・ギトリ
出演:サッシャ・ギトリ、ジャクリーン・ドゥリュバック、ライム
あらすじ:〈彼〉は〈彼女〉に愛の告白をする。その夜、夜9時にアパルトマンで〈彼女〉を待つ〈彼〉。〈彼女〉がやって来る道順をあれこれ想像する〈彼〉のもとにようやく〈彼女〉が現れ、二人は一夜を過ごす。翌朝、〈彼女〉の〈夫〉が弁護士の事務所を訪れ、〈彼女〉は怯えるが、実は〈夫〉も昨晩外泊していたため、そのアリバイ作りをしようとしていた。恋する女性を待つサッシャ・ギトリの顔のみをとらえた長いモノローグのシーンはあまりにも有名。
https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema1606191500/
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モノクロ映画だしそもそも1936年製作とは?!ってドン引く読者もいらっしゃるかもしれないが、ご心配無用。
開始1分からずーっと面白い。
あらすじ的には普遍的な不倫ものなんだけど、そのいやらしさを全く感じさせないコミカルさがある。テンポも良い。テンポ良すぎて、もはやフランス語がわからなければ字幕を追うだけで精一杯の瞬間もある。
渋谷にある例の名画座で監督サッシャ・ギトリの特集をやっていて、けっこうな人気だった。軽快なコメディに何度も座席から「ふっ」と笑い声が漏れていた。
余談だが、わたしは何度通っても『シネマヴェーラ』と『ユーロスペース』がどっちがどっちか迷ってしまう(同じ建物にあるのにね)。
#04 『地下鉄のザジ』 Zazie dans le metro (1961)
監督:ルイ・マル
主演:カトリーヌ・ドモンジョ
あらすじ:レーモン・クノー原作、ルイ・マル監督のヌーヴェルヴァーグ運動が盛んな時期に作られた映画。田舎からパリへやってきた10歳の少女・ザジは楽しみにしていた地下鉄がストで町が混乱している中、パリを冒険するコメディ。
モノクロがきたからカラーいきましょうか。
これは以前、単発で記事にしたのでそちらをご覧いただけますよう。
何度も言うけどほんとに好き。
マセた子供とパリピな大人たちのコントラスト、60年代パリの景観とコミカルでたのしげな編集。
最の高。
#05 『フレンチ・ディスパッチ』 The French Dispatch/THE FRENCH DISPATCH OF THE LIBERTY, KANSAS EVENING SUN (2021)
監督:ウェス・アンダーソン
出演:オーウェン・ウィルソン、ティモシー・シャラメ、レア・セドゥ、マチュー・アマルリック etc.
あらすじ:物語の舞台は、20世紀フランスの架空の街にある「フレンチ・ディスパッチ」誌の編集部。米国新聞社の支社が発行する雑誌で、アメリカ生まれの名物編集長が集めた一癖も二癖もある才能豊かな記者たちが活躍。国際問題からアート、ファッションから美食に至るまで深く斬り込んだ唯一無二の記事で人気を獲得している。 ところが、編集長が仕事中に心臓まひで急死、彼の遺言によって廃刊が決まる。果たして、何が飛び出すか分からない編集長の追悼号にして最終号の、思いがけないほどおかしく、思いがけないほど泣ける、その全貌とは─?
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正しくはアメリカ映画だし、監督ウェス・アンダーソンはアメリカ人だ。
しかし本作の内容から、フランス映画史(特に60年代ヌーヴェル・ヴァーグおよびその周辺活動)にオマージュを捧げているとしか思えない、筆者としては感慨深すぎる作品なので本記事に混ぜさせていただくことにする。
あらすじにある通り架空の編集社を舞台にした作品で、初っ端からおしまいまでお馴染みの "ウェス・アンダーソンカラー" に彩られている。
刊行するごとにユーモラスな特集を取り上げ、創刊から人気を誇った『フレンチ・ディスパッチ』誌だったが、ある日編集長が社内で亡くなっているのが発見される。。という、ドタバタ感あるドラマだ。
映画の構成は刊行された特集ごとにいくつかのミニストーリーを描く形をとっていて、それをまとめて大オチに持っていく流れとなる。
特集はたとえば『自転車レポーター』とか、『獄中のアーティスト』といった具合に、たいへん個性豊かである。
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中でもわたしがフランス映画ファンとして感極まったのは、特集『宣言書の改訂』というストーリーであった。これはどこからどう見ても1968年パリ五月革命の混沌と、当時の学生たちの熱狂を再現していた。
ティモシー・シャラメが五月革命の牽引役、ダニエル・コーン=ベンディッドのごとく旗を振り回し、学生たちの作戦会議場であるカフェにはゴダールの映画に登場したシャンタル・ゴヤのシャンソンが流れる。
ウェスはティモシーに役作りの参考として『男性・女性』や『大人は判ってくれない』のDVDを送付したというエピソード等、ヌーヴェルヴァーグおよびパリ学生運動が大好物のわたしにはよだれものの話であった。
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またティモシーの相手役が、かの『パピチャ 未来へのランウェイ』というアルジェリア映画で散々な目に遭ったアルジェリア人女優・リナ・クードリというのがまたジンとくる。
(この相手役の存在は五月革命関連の文献で見たことがないのでフィクションだとは思う。)
忘れ去られるべきではない過去の伝説を、今をときめく若手俳優に演じさせ、現代風に昇華させた見事なオマージュ。
最高だ。
ただでさえ面白いのに、ヌーヴェルヴァーグにそこそこハマってから見るとその面白さが倍増すること間違いない。
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パリ革命のエピソードだけでなくレア・セドゥの美しさやお決まりの構図の面白さだけでも見もの。
映画を商業的に成功させつつも、映画史の一番の思いである「映画を愛する気持ち」を過去から引き継ぎ昇華させている。いちシネフィルとして感慨深いし、このような監督が来世もずっと輝いていてほしいと願ってやまない。
ちなみにちらっと紹介したアルジェリア映画はこちら。
名作だが、かなり精神にくる映画なので、ご覧になるなら元気なときに。
かなり熱量高めに一気に書き進めたところ、3,000字ほどになっていた。あまり長文だと読むほうも書き直すほうも大変だろうから、今後はコンパクトを目指すことにする。
フランス映画はいいぞ!
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Emoru