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これからも一緒にいたいからぶつかりたい

自分の意見を喧嘩してでもぶつけられる相手ってどれだけいるんだろう。
喧嘩に発展せずとも怒りをぶつけられる相手は、案外限られている。

家族やパートナーは、自分のプライベートに入り込む部分が多いから、どうしても自分の意見をぶつける機会は多い。
けど、友人はそれに比べて少ない。知り合いはさらに少なくなる。
それに大人になると、わざわざ空気を悪くしてまで自分の意見を伝えるよりも、その場の雰囲気を維持するためにあえて何も言わずその場をやり過ごすことが増える。
意見が合わなければ、わざわざ付き合う必要もない。そういう人もいるよねと頷きながらも、どんどん疎遠になっていく。

そうやって振る舞う方が精神的にも体力的にも楽。
楽だけど、それだけで終わらせたくない。
そんな友人もいる。

自分の意見とまったく違うのに加えて、黙って許容するにはモヤモヤしてしまうことがあった。
その友人と直接会って話せるのは数年に一度あればいい方だ。黙っていればぶつかることもない。これまでもそうしてやり過ごしてきた。けれど、このモヤモヤを抱えたまま接するのも嫌だった。

「〇〇されるのは嫌だから、今後はもう少し気をつけてほしい」

嫌なことをされて泣きじゃくる小さな子どもには、そう言ってごらんと迷いなく促すのに、自分にはなかなかそう言えない。
これで疎遠になってしまったらどうしようという不安がまとわりついて離れなかった。
これからも仲良くしたいから、正直に言うか、言わないか。
数日悩み続けた。こんなに悩んでしまうものかと自分でもびっくりするくらい悩んだ。
疎遠になるかもしれないという不安がありながらも、あの子ならきっと私の気持ちにも向き合ってくれると信じた。もし、そうでなかったなら、仕方がない。気持ちがぶつかったら、後悔しないように出し惜しみなく自分の気持ちをとことん伝えようと決めた。
言うと決めてからも、どうやって伝えれば納得してもらえそうか、必要以上に嫌な気持ちにさせないか考えた。
伝えるのには思った以上に時間がかかった。
考え抜いた言葉を綴って、まるで告白でもするのかというくらいの緊張感で、LINEの送信ボタンをタップした。

友人からは、すぐに「ごめんね!気をつける!」と返信があった。
何をこんなに悩んでしまっていたんだろうと思うくらいあっさりしていた。
そこでやっと緊張が解けて、「これからも仲良くしたいから、どうしても自分の気持ちを伝えたかったんだ」と正直に伝えた。
そのことがあってから数週間後、直接再会を果たした友人とは、これまでと変わらず、涙が出るほど笑い合えた。

そういう価値観だから。
この人はこうだから。
忖度して行動することはいいことだと思う。けれど、忖度しすぎることで、自分の価値観を伝えることを諦めて自分の気持ちを押し殺したり、相手と疎遠になったりもする。
いろんな人とうまく付き合ううえでは、持っていた方がいいスキルかもしれないけど、それですべての人間関係を推し進めようとは思わない。

こういう価値観だけど。
こういう人だけど。
ありのままの自分をさらけ出して、これからも一緒に過ごしたいから、自分の気持ちを正直にぶつけてみる。
ぶつかることはとてもエネルギーがいる。スマートではないかもしれない。
けど、大切な人だからこそ、スマートではなくても、ドッと疲れることでも、勇気を出してぶつかっていきたい。

そう思わせてくれる友人に出会えて、私は幸せ者だな。

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屈橋毬花 | 【紙に月】
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。 自分の記録やこんなことがあったかもしれない物語をこれからもどんどん紡いでいきます。 サポートも嬉しいですが、アナタの「スキ」が励みになります。 ……いや、サポートとってもうれしいです!!!!