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五丈原の詩 〜星落秋風五丈原〜

九條です。

今日の大阪はよく晴れて、空が高く青く輝いていました。大阪平野を吹き抜けるそよ風も涼しくて、秋の到来を感じます。

少しずつ秋めいて参りましたね。

今夜は、私が好きな詩をご紹介したいと思います。たまに、ゆっくりとしたテンポで口ずさみます(以下 約1,200文字)。

その詩とは、土井晩翠 作『星落秋風五丈原』(ほしおつしゅうふうごじょうげん)です。『三国志』で有名な諸葛孔明を歌った七五調の新体詩。

この詩は発表されるや否や評判となり、明治期には多くの人に暗誦されました。またその後、少し早めの節がつけられて軍歌にも採用されました。

この詩は全篇で七章349行というたいへん長い詩なのですが、ここではその一部分をご紹介いたします。

もし興味がおありの方は、インターネット上(青空文庫など)でも全篇が公開されていますので読んでみてくださいね。^_^

『星落秋風五丈原』
土井晩翠 作/1899(明治32)年 発表

祁山きざん悲秋の風けて
陣雲暗し五丈原
零露れいろあやは繁くして
草枯れ馬は肥ゆれども
蜀軍の旗光無く
鼓角の音も今しづか
丞相病篤かりき

清渭せいいの流れ水やせて
むせぶ非情の秋の声
夜は関山の風泣いて
暗に迷ふかかりがねは
令風霜れいふうそうの威もすごく
守るとりでの垣の外
丞相病篤かりき

帳中ねむりかすかにて
短檠たんけい光薄ければ
こゝにも見ゆる秋の色
銀甲堅くよろへども
見よや侍衛じえいの面かげに
無限の愁溢るるを
丞相病篤かりき

風塵遠し三尺の
剣は光曇らねど
秋に傷めば松柏しょうはく
色もおのづとうつろふを
漢騎十万今さらに
見るや故郷の夢いかに
丞相病篤かりき

夢寐むびに忘れぬ君王の
いまはのこと畏みて
心を焦がし身をつくす
暴露のつとめ幾とせか
今落葉の雨の音
大樹ひとたび倒れなば
漢室の運はたいかに
丞相病篤かりき

四海の波瀾収まらで
民はくるしみ天は泣き
いつかは見なん太平の
心のどけき春の夢
群雄立ちてことごとく
中原鹿を争ふも
たれか王者の師を学ぶ
丞相病篤かりき

末は黄河の水濁る
三代の源遠くして
伊周の跡は今いづこ
道は衰へ文ぶれ
管仲去りて九百年
楽毅滅びて四百年
誰か王者の治を思ふ
丞相病篤かりき

(中略)

嗚呼五丈原秋の夜半よは
あらしは叫び露は泣き
銀漢清く星高く
神秘の色につつまれて
天地微かに光るとき
無量の思もたらして
「無限の淵」に立てる見よ
功名いづれ夢のあと
消えざるものはたゞ誠
心を尽し身を致し
成否を天に委ねては
魂遠く離れゆく

高き尊きたぐいなき
「悲運」を君よ天に謝せ
青史の照らし見るところ
管仲楽毅たそや彼
伊呂の伯仲眺むれば
万古ばんこそらの一羽毛」
千仭せんじんかくる鳳の影
草廬にありて龍と臥し
四海に出でゝ龍と飛ぶ
千載の末今も尚
名はかんばしき諸葛亮

(土井晩翠 詩集『天地有情』より抜粋)
諸葛菜(オオアラセイトウ)


では皆さま。穏やかな秋の日の休日をお過ごしくださいね。^_^


©2024 九條正博(Masahiro Kujoh)
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