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戦略と戦術 〜思考力の歴史的背景〜

九條です。^_^

1.はじめに
日本人は昔から「戦略を練るのが苦手」だと言われてまいりました。

そして「日本人が言う戦略とは、その中身を分析してみれば大抵は戦術にしか過ぎない」とも。

では、戦略とは何か、戦術とは何か。そしてなぜ日本人は戦略を練るのが苦手だと言われているのか。その歴史的背景などを少し考察してみたいと思います(以下、本文約2,500文字)。


2.戦略とは
戦略とは、ある出発点からひとつの目標を見据えて、その目標に至るまでのプロセスにおいて起こりうる事象を想定し、その想定を連鎖的・効率的・効果的に運用して行くという考え方です。

出発点から目標に至るまでには、数年から数十年という長い時間的経過を想定しておきます。

【戦略の例】
出発点=A
目標=Z
AからZに至るまでの間に、パターン1の事象が発生する場合にはBの対応を想定しその事象を未然に防ぐ。パターン2の事象が発生する場合にはCの対応を想定しその事象を回避する…

パターン10の事象が発生する場合にはA+Bの対応を想定し、パターン11の場合にはパターン10とは逆にB+Aの対応を想定し…

パターン50の事象が発生する場合にはE+F+Gの対応を想定し、パターン100の事象が発生する場合にはW+X+Yの対応を…

などと、想定できうる範囲の対応策を「出発点A」の時点で想定し、これら対応策(B〜Yまで)をときには柔軟に組み合わせて連鎖的に運用し、事象の発生を未然に防いだり回避したり被害を最小限に抑えたり、また逆にその戦略的効果を最大限に発揮するように工夫したりして行くというものの考え方です。


3.戦術とは
戦術とは、ある出発点から目標に至るまでのプロセスにおいて、発生するであろう様々な事象に対する対応策を想定し、その事象に対して最も適切だと思われる対応をして行くという考え方です。

【戦術の例】
出発点=A
目標=Z
AからZに至るまでの間に、パターン1の事象が発生した場合にはBの対応をする。パターン2の事象が発生した場合にはCの対応をする。

パターン10の事象が発生した場合にはA+Bの対応をする。パターン11の場合にはパターン10とは逆にB+Aの対応をする。

パターン50の事象が発生した場合にはE+F+Gの対応をする。パターン100の事象が発生した場合にはW+X+Yの対応をする。

などと、事象が発生した際に最も適切な対応策(B〜Yまで)を、ときには柔軟に組み合わせて運用して行くというものの考え方です。


4.戦略と戦術

戦略と戦術について具体的に考えてみましょう。たとえば交通事故という事象の場合には…。

◎戦略的思考(目標=事故を発生させない):
交通事故が発生しないように、あらゆる事故のパターンを事前に想定しておき、可能な限りの事故防止策を講じて事故を防ぐ。その事故防止策は常に見直され、状況に応じて改善して行く。

◎戦術的思考(目標=あらゆる事故に対応する):
交通事故が発生した場合、あらゆる事故のパターンに対応できる可能な限りの対応策を事前に協議しておき、あらゆるパターンの事故に備える。その対応策は常に見直され、状況に応じて改善して行く。

このように「戦略」とは一種の「理念(哲学)」であるのに対して「戦術」とは「実務(技術)」であると言い換えることもできると思います。

戦略があってこそ戦術が活きてくるのであり、戦略なき戦術は「場当たり的対応」の連続に過ぎないと言わざるを得ません。


5.なぜ日本人は戦略を練ることが苦手なのか?
ではなぜ「日本人は戦略を練ることが苦手」だと言われるのでしょうか?

そこには地理的要因と歴史的要因が重なり合っています。

日本は島国です。地続きで国境を接する他国がありません。また、海を隔てても日本の脅威となるような国や民族はこの国の長い歴史の中でほとんどありませんでした。

ですから、日本は他国(他民族)に侵略されるという危機感が弱かったのだと言えます。

では日本と同じ島国であるイギリスはというと、イギリスはその長い歴史の中で多くの時間を対岸のフランスとの敵対的な関係に晒されてまいりました。

さらにイギリスはゲルマン系民族(インド・ヨーロッパ語族ゲルマン語派)であり主要宗教はプロテスタント派であるのに対して、フランスはラテン系民族(インド・ヨーロッパ語族ロマンス語派)であり主要宗教はカトリック派です。このようにイギリスとフランスとでは言語も価値観も異なります。

イギリスは島国といえども日本とは異なり、狭いドーバー海峡(最も狭いところで三十数キロしかない)を挟んで常にフランスと対峙し、そのフランスの背後にはヨーロッパ大陸の諸国が控えています。

ですからイギリスが抱いていた(現在も抱いている?)危機感は相当強いものがあり、その緊張ゆえに戦略的な思考力が長い時間をかけて自然とイギリス人の頭の中で育まれてきた(身に染み付いた)のだと言えます。

そしてそれは、地続きで他の国(他の民族)と国境を接しているヨーロッパ大陸の諸国も然り。中東諸国も然り。東アジアにおける中国も然りです。


6.まとめ
現代(戦後)の日本において、戦略的な思考力を身につける機会は、それほど多いとは言えません。

高校生までの勉強は常に「授業対策」「テスト対策」「受験対策」であり、単純な戦術的思考に終始しています。

高校を卒業して就職し社会に出て、そして企業という組織の中でたくさんの人に揉まれ、人の上に立つ立場になって、そこではじめて戦略的なものの考え方を身につける人が多いと思います。

または大学へ入って学問的な思考力を身につける訓練を受けて、そこではじめて戦略的なものの考え方に接することもできるのだと言えます。

私の大学の恩師は、

「歴史学をはじめとしたあらゆる学問には、1つの事象を多角的に捉え、その事象を俯瞰的視野で見つめ、その事象について客観的に検証し、その背景や展開を考察することができる戦略的な思考力が必要です。単なる知識のつまみ食いではだめなのです」

と言われていました。

戦略的思考力…。

膨大な量の情報が錯綜し、ウソやデタラメ、根拠に乏しい情報が多く飛び交う現代社会においては、情報を適切に取捨選択し、1つの事象を多角的に捉えて俯瞰的視野で見つめ、冷静かつ客観的にものを考えることができる戦略的な思考力は、ますます必要となってきていると思います。


©2024 九條正博(Masahiro Kujoh)
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