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古代の呪文「急急如律令」

九條です。

皆さま。「急急如律令(キュウキュウ  ニョ  リツリョウ)」という言葉をご存知でしょうか?

「急々如律令」と書いたり、または見出し画像のように「急」に「くちへん」をつける場合もあります。

この「急急如律令」という言葉は、もともとは古代中国(おもに後漢の頃)の公文書の末尾に添えていた言葉で、その意味は「法に従ってなるべく早く処理してください」という意味です。現代の日本語になおせば「至急決裁を!」でしょうか?

わが国では奈良時代頃から見かけるようになる文言です。当初は上記のような意味で用いられていたのかも知れませんが、その他にも早い段階から魔除けや願い事を早くかなえる呪文としても用いられるようになりました。

たとえば(これは一例にすぎませんが)、平城京左京二条二坊および左京三条二坊(現在、奈良市役所の西側にある複合商業施設「ミ・ナーラ」がある場所だといえばお分かりになるでしょうか?)では平城京の二条大路が通っていて、その路肩部分から大量の木簡が出土しました。その中のひとつには、

【原文】
(オモテ)
南山之下有不流水其中有一大蛇九頭一尾不食余物但食唐鬼朝食三千暮食
(ウラ)
八百  急々如律令

(『平城宮発掘調査出土木簡概報31』より)

【読み下し】
南山の下に流れざる水あり。その中に九頭一尾の一大蛇あり。余物を食さず。但し唐鬼を朝に三千、暮れに八百食す。急急如律令。

【意味】
南山のふもとに水が流れない川がある。その中に一匹の大蛇がいる。その大蛇は頭が九つで尾は一つ。唐鬼以外は食べない。唐鬼は朝に三千、夕方に八百食べる。急急如律令。

と書かれています。これは、この文章全体(最後の「急急如律令」より前の部分)が「呪文」となっていて「唐鬼」は当時全国的に流行していた天然痘の事を指すのではないかと推測されています。

「九頭一尾の大蛇」とは九頭龍神とも考えられ、全国に大流行している天然痘(唐鬼)を九頭龍神に食べ尽くして欲しいと願っている呪文だと考えられています。

そして最後に「急急如律令」とありますね。この「急急如律令」の意味は、上記の公文書の末尾に添える「法に従ってなるべく早く処理してください」という意味ではなくて「はやく願いが叶いますように」や「即座に効果が現れますように」という意味で用いられたと考えられています。

奈良時代から平安時代以降では、この「急急如律令」が「はやく願いが叶いますように」や「即座に効果が現れますように」などの意味で用いられる短い「呪文」となり、神官や僧侶や陰陽道や道教などで唱えられるようになりました。

そういえば映画『陰陽師』のシリーズでは(私の好きな映画のひとつなのですが)安倍晴明役の野村萬斎さんが難しい呪文を唱えて、最後に「急急如律令」とつぶやく場面がありました。

現在でも一部の神道や仏教で用いられていて、私も神社やお寺にお参りをして神様や仏様に何かお願い事をした時には、最後に「急急如律令」と小さくつぶやきます。

皆さまも、神社やお寺にお参りをされて何かのお願い事をされたあと、静かに「急急如律令」とつぶやいてみられてはいかがでしょうか?

意外と早く願いが叶うかも知れないですよ。^_^


最後に…
「願わくは、いま世に蔓延はびこる疫病がく消滅せんことを。急急如律令」


【おもな参考資料】
○大場磐雄『祭祀遺跡 ―神道考古学の基礎的研究―』角川書店 1970年
○小出義治『土師器と祭祀』雄山閣 1991年
○『平城宮発掘調査出土木簡概報31』奈良文化財研究所 1991年
○山里純一 「急々如律令考」日本東洋文化論集 1999年
○坂出祥伸「冥界の道教的神格―急急如律令 をめぐって―」東洋史研究 2003年


©2022 九條正博(Masahiro Kujoh)
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