鯱喰う司書
不定期連載中です。おバカな内容ですので、肩の力を抜いて、頭空っぽにしてご覧ください。
君はいつでも傍にいる。 視界の隅、周辺視野のはじっこで、じっとこっちを見つめている。 私がちょっと頑張って手を伸ばせば、その気になれば簡単に触れられる所で、無垢な猫のように首をかしげている。 私は自由だから、いつでも君を選べる。 私の思考も、私の選択も、誰にも止める事などできやしない。 そうだ。 私はいつだって、君の傍にいる。 時折やって来る、眠れない夜。 静かで冷たい夜。 私が、わたし自身と否応なしに向き合わされる夜。 喉の下、心臓の上あたりがきしんで爆発しそうな夜。
私がバカだから 私が悪いから ダメなんだ 何度やっても 何度言われても ダメだから 謝って済む問題じゃない 笑って許されるはずもない 遊んでる場合じゃない ちゃんとしなきゃ ちゃんとしなきゃ ちゃんとしなきゃ 私の宝物 守りたいんだ このまま 失くしてたまるか 大丈夫だよ 怒らないで 叫ばないで どうか泣かないで 愛する人よ 世界でただひとり 大好きなあなたよ どうかほほえんで 私がバカだから 私が悪いから ダメなんだ 何度やっても 何度言われても ダメだから
朝焼よりも夕暮に 晴天よりも曇天に 粉雪よりも雨垂に 青葉よりも落葉に 笑顔よりも泣顔に 恋愛よりも失恋に 希望よりも絶望に 友情よりも裏切に 富裕よりも貧困に 獲得よりも喪失に 出会よりも別離に 団結よりも孤独に 前進よりも後退に 理想よりも現実に 楽観よりも諦観に 愛情よりも憎悪に 快楽よりも苦悩に 成功よりも失敗に 栄光よりも挫折に 幸福よりも不幸に 目を向けたい そこに 大事なものがある気がする そこに あなたがいるような気がする
あと一歩 あと一歩踏み出せたなら 何かが変わったかな いつもそうだった あと一歩の あと一段の あと一瞬の 勇気がなくて 変われなかった 君は日々 キラキラな横顔で 笑うのに 私と言えば 私はと言えば 巣から落ちたひな鳥のように もがいてる 何者にもなれず 何も持てず 何も捨てられず 留まっている 戸惑っている 幼いころ こうはなりたくないと 思っていた姿に なってしまってる 変われなかった 君は日々 キラキラな背中で かけ出すのに 私と言えば 私はと言えば 見
君は僕に 永遠に生きて欲しいと願ったね すごく嬉しかった だけど 君に先に死なれてしまうのは 僕には死ぬより悲しい事なんだ 僕は君にこそ 永遠に生きていて欲しい 愛情深い君の事だ 君はきっと、独り残されたような気分で苦しむだろう 生きてる意味に迷う日も来るだろう でも 泣かないで 責めないで 胸を張って だって 君は僕より長く生き抜いてくれた 最期まで愛し抜いてくれた だから 僕は最期まで幸せだったよ この世界にはもっともっと 生き抜く価値があるよ だってふたりが過
思い出の丘。 ふたりの大切なその場所に、二月なかばにしては珍しい、暖かな風が吹き抜ける。 「今日はバレンタインですね。今年も自信作ですよ」 千代子は上機嫌に、唄うように言った。 彼女はこの日に合わせ、毎年チョコレートを手作りする。 今年もまた例に漏れず、張り切って大作を仕上げた。 すでに日が傾きつつある。 「どうかしら。毎年腕を上げているように思うのですけど」 自賛しながら照れくさそうに差し出す両手には、きらびやかにラッピングされたプレゼント。 「ちょっと派手すぎ
比較的あたたかな 冬の日 目的地のないお散歩 知らない道をてくてく歩く すみれ色の空で 昼と夜がキスしてる 名残惜しそうなオレンジの雲 もう何時間経ったろう こういうのを 彷徨というのだっけ あちらこちらから 晩ご飯の匂い 幸せのかおり 車道に出れば 帰路ゆく車のクラクション 夕陽色のライト 頬をなでるやわらかな風に 深呼吸で応える 心の海は 凪いでいる 休憩がてら ちっちゃな公園で 缶コーヒーを飲む 大好きなBOSS 今日はなんだか いつもより甘い気がする
横顔に 口付けた 私のしるし にじんだ 世界の中 君だけを 見つめていたい 止まらない針の音 口先のたわむれと 撫でる指 背を向けた夜 沈みゆく月を抱き 燃える雲みたいにね 私まだ なりたいなんて 私の 悩んだ顔 傷んだ髪 ぜんぶ 私の 枯れた声も 澱んだ瞳も ぜんぶ…… 鏡には写らない 罪と罰 背負うのは そう 私 私でいいのに もういっそ実らない つぼみなら踏みつけて もういっそ 捨てて欲しいのに 私の 酷い祈り 塞ぐ心 ぜんぶ 私の 癒えぬ過去も
あと17段ね と 私 なく 聞かせて、ヒストリー って 君 わらう 響く金音 鳴る心音 繋いでいて、手 離さないで 踏みだすごとに 遡り 置いていくメモリー 17つ 着いたね、やっと と 扉 あけ 汗かいちゃったな って 君 わらう 眩い太陽 眩むよ笑顔 結んでいて、手首 解けないで 踏みしめるたびに 築いていく 素敵なメモリー 17歩分 目いっぱいのメイク お洒落なヒール お気にのワンピ キラキラのネイル あとは 盗んだお酒でカンパイね 二ヒヒ なんて笑い
見上げた夜空 何度も 何度も ひとりぼっちで 数えた星々 何個も 何個も ひとりぼっちで 今からあそこに私は行くの 素敵な舟に乗り込んで たったひとりで私行くのよ 空飛ぶ舟に身をまかせ だけど今は孤独じゃない 心の中にみんながいるもの 帰りを待ってる 家があるもの よろしく Sputnik(スプートニク) 栄光の旅の 始まりよ もうすぐあそこに私は着くの 雄叫びあげる舟の中 ついにひとりで私来たのよ 暴れん坊に身をゆだね 私はもう孤独じゃない 愛のあたたかさ知
40秒にひとり。 その瞬間瞬間に、彼らは何を思っていくのだろう。 無感情のまま、表情もないだろうか。 赤ちゃんみたいに泣き叫び、暴れながら? これまでを振り返り、静寂に包まれて穏やかに? 最愛の人を想い、涙をしくしく流しながら? 怒りの炎に支配され、絶望と怨嗟に身を燃やしながら? その瞬間、彼らは、誰かや自分や、何かを恨むだろうか。 思いのほか幸せな心持ちだろうか。 それとも全くの無、だろうか。 少なくともその瞬間が、彼らにとって、何かからの「解放」である事を
今日もひとすじ 赤い線 わたしを救う わたしの祈り そんな事…なんて 言わないで 明日もひとすじ 紅い鮮 わたしを満たす わたしの赦し 大事に…なんて 言わないで 生きろなんて… 死ぬななんて… わかってるよ わかってよ 生きたいから 死にたくないから 必死なんだ たたかってるんだ これが今わたしにできる たったひとつの冴えたやりかたなんだ あぁ…… 今日もわたしは わたしで終われる
ここしばらく、とある死に向き合っていた。 喪失感の大きさを表すのに、 「失って初めてその大切さに気付く」 みたいな言い回しがあるけど、大切さやありがたさがとうに分かりきっていた場合でも、 また、だいぶ前から覚悟をしていた場合でもなお、そんな事を思わされた。 それほどまでにかけがえのない命だった。 でも。 時間が経てば今まで通り、僕ってやつはきっと食べたり飲んだり、寝たり遊んだり、笑ったり怒ったり、喜んだり泣いたりたくさんするだろう。 そのうち、その死を悼み、思い出し
「一体なぜそんなことを?」 もう何杯目だろうか。 グラスに残った薄いウイスキーを一気に飲み干した。 「……」 ころん、と元ブロックアイスが音を立てた。 「あなたのその軽率な行いのせいで……」 ブルックリンの夜。 とある場末の馴染みのバー。 そこで私はたまたまとなりに座った男性と、過去のよもやま話などをひけらかしあっていた。 せっかくのクリスマス・イヴ。 どこへ行く当てもない孤独な男ふたり行きつく話題と言えば、自虐風味の身の上話と相場が決まっている。 「……」
「心の電源を切りたい……」 彼女はそうつぶやいた。 「セカイは、受信したくない電波に満ち溢れてる」 「見たくなくても見せられる。 聞きたくなくても聞かされる」 「笑いたくなくても笑わされる。 泣きたくなくても泣かされる」 「知りたくなくても知らされる。 思いたくなくても思わされる」 「感じたくなくても感じさせられる。 触れたくなくても触れられる」 「生きたくないのに生かされて。 死にたくないのに殺される」 ――だったら。 「心なんていらない」 ――こんなも
登場人物 照山もみじ……私 南島アイ……バカ 中鳥かごめ……バカ 秋野ゆうひ……バカ あらすじ バカ 「もみもみちゃん、ちょっといいかな?」 登校拒否を決断し、世の中に絶望して教室に戻る途中、凛々しい声に呼び止められた。 「あ、えっと……」 「ふふ、同じクラスの南島アイだよ。よろしくね」 リアルにキラキラと音がしたような気がした。 スラリとした細長い手足に艶やかなショートカット、ほんのりと浅黒い肌が、健康的で爽やかな印象を見る者に与えた。 「な、なんすか……? っ