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ゆうもあか! 第2話

登場人物
照山もみじ……私
南島アイ……バカ
中鳥かごめ……バカ
秋野ゆうひ……バカ

あらすじ
バカ


「もみもみちゃん、ちょっといいかな?」

登校拒否を決断し、世の中に絶望して教室に戻る途中、凛々しい声に呼び止められた。

「あ、えっと……」
「ふふ、同じクラスの南島アイだよ。よろしくね」

リアルにキラキラと音がしたような気がした。
スラリとした細長い手足に艶やかなショートカット、ほんのりと浅黒い肌が、健康的で爽やかな印象を見る者に与えた。

「な、なんすか……? っていうかもみもみって……」
緊張した。
怪訝そうな顔をしてしまっているかも。
老若男女問わず、彼女は学校中の注目の的だ。
クラスでも常に人に囲まれているが、その大半が女子だ。

「実は今、部員の仲間を探していてね――」
彼女が言うには、わが校には『地域貢献部』なる廃部寸前の謎の部活動があり――。
「是非もみもみちゃんに頼めないだろうか……」
今年、最低5人の入部が必須だそうだ。

「え? ち……なに?」
「ちいきこうけんぶ、だよ。」
初めて聞いた。
一体何をする部なのか……。
という疑問はさておいて、それよりも気になることがある。
「なんで私……?」

自分で言うのもなんだが私照山もみじは、誰がどう見ても見まごうことなき陰キャである。
しかも地域貢献などにはついぞ興味を抱いたことがない。
地味なメガネに昭和の女学生みたいな三つ編みおさげだし私服お下がりのジャージとかだし人見知りだし引っ込み思案だし趣味読書だし。
「読書って言ってもBLものの漫画ばっかだけどね……」
「ほう……」
「——ぎゃあああああああああ声に出てるううううううううう」

「いや、BLも素敵な文化さ。素晴らしいと思うよ、もみもみちゃん」
キラキラキラキラキラ。
――キュン……!
「って、なるかぁ! わ、忘れてくれ!」

私の事をもみもみと呼ぶ奴にまともなやつはいない。
「というわけで。もみもみちゃんはお友達が多いみたいだし、よかったら彼女たちも誘っておいてくれないか? よろしく頼むよっ」
ゆうひとうさぎの事だろう。
「あいつらは友達でも何でもない。あと何の『というわけで』だ?」
ゆうひとはただの腐れ縁だ。
うさぎに関してはこないだ知り合ったばかり。

「ハッハッハ! そうかそうか、それは素晴らしい。ではよろしく頼むよ、もみもみちゃん。ありがとう!」
――そしてようこそ!
と快活に叫びながら、階段に消えていった。
「……話聞いてる?」

めんどくさい。
絶対登校拒否する。絶対やだ。
鼻息荒く教室に戻る。
「よしっ!」
渾身のガッツポーズ。
ゆうひもうさぎも帰ったようだ。

斜陽に染まりゆく教室には、もう私しかいない。
「なんか誰もいない教室って無性に興奮するなぁ」
自作のBL小説のアイデアが次々と湧き出る。
自席に掛け、私はペンと秘密のメモ帳を取り出した。

「もみもみ、さん……?」
「忘れないように……と」
「あ、あの……もみ――」
今執筆しているのは、『まさお』と『じろう』の主従関係ものだ。
えーっと……。
「『おまえ見てっとよ、イライラすんだよ』」
「ひぅっ……!」
「『今この教室には誰もいない。さぁ、脱げ』」

意気揚々とペンを走らせる。
「い、いきなり脱げだなんて……、怖いですぅ」
「『心配すんな。誰も来やしない……』と」
「で、でも心の準備が……」
「『うるせぇ、大丈夫だ……痛かしねぇよ』」
「あうあうあうあうぅ~」

「うわぁぁぁ!」
突然背後でドサッと音がした。
振り返ると、ひとりの女子生徒が倒れていた。
「うーん、うーん……」
うなされているようだ。
顔が真っ赤で額には玉のような汗が浮いている。

「だ、誰か来ていたのか……。 聞かれてないだろうな」
この子は……たしか。
中鳥かごめ……だったっけ」
とてもかわいらしいが、大人しく口数が少ない為あまり印象に残っていない。
そしてなぜかブラウスの胸元が広くはだけている。

「なんだこいつは。露出狂か……?」
少し心配になり、かがんで顔を覗き込む。
「——おーい、中鳥さん」
「痛くしないで……心の準備……はうぅ……」
中鳥さんは吐息まじりに、よくわからないことをうわごとの様に繰り返すばかりだった。

「ひとまず保健室に連れて行ったほうがよさそうだな」
熱があるのかもしれない。
少女の額に手を触れる。
とても面倒だが、立ち会ってしまった以上放っておくわけにもいくまい。
「ま、いいか。どうせ明日からもう来ないし」

その時――。
ガラガラ! と教室の戸が勢いよく開かれた。
「も、もみもみ……? うわまぢかぁ~」
そこにはあかね色の光を受けた、ゆうひの姿があった。

「な! おまえまだ帰――はっ!」
珍しく飛び掛かってこずに、半笑いでスマホのカメラを向けているゆうひ。
その理由がわかった。
放課後。
私。
はだけた少女。
触れる手。

パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!
普段あまり使い道のない連続撮影モードを、ここぞとばかりに駆使しているゆうひ。
「ニヤァ……」

「ち、ちがうんだっ! 待て!」
「もみもみって意外と大胆なんだねぇ! ねぇ揉むの⁉ 揉むの⁉」
「揉まねぇよ! あぁ――クソッ!」
最悪だ。
この化け物を、いっそこの場で〇ってしまおうかと、本気で悩んでいる。

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