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【驚嘆】人類はいかにして言語を獲得したか?この未解明の謎に真正面から挑む異色小説:『Ank : a mirroring ape』(佐藤究)

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人類はなぜ言語を獲得したか?

「言語獲得」に対する疑問

昔から、こんな疑問を抱いていた。「人類は言語を、一人で獲得できたのだろうか?」と。

私はずっと、「言語」はコミュニケーションのために生まれた、と思っていた。普通に考えればそうだろう。

我々が普段駆使している「言語」は、「世の中に存在しないもの」や「正確には捉えきれない概念」さえも扱える。コミュニケーション用とすれば高度すぎるということだ。しかし、言語が生まれた瞬間というのは、そこまで高度なものではなかったはずだし、簡単な伝達のために生まれたと考えるのが妥当だろう。

そしてだからこそ、不思議だった。というのも、コミュニケーションのためには、少なくとも二人以上必要だからだ。これは、「二人以上、言語を使える存在が必要」という意味だ。この考えを推し進めれば、「言語を使えるようになる突然変異が、同時に、二人以上の存在に対して起こった」となるだろう。

果たして、そんなことが起こり得るだろうか?

人類以外の動物も、言語的なものを持っているかもしれないが、しかしどう考えても人類ほどは高度ではないと思う。だから、人類が獲得したような言語は、人類しか獲得できなかった、と言っていいだろう。そんなかなり低い確率の出来事なのに、それがほぼ同じタイミングで二人以上に起こるなどということがあるだろうか?

「言語獲得」という変異が一人に起こっても、コミュニケーションが成り立たないからその能力は長続きしないだろう。一方、コミュニケーションのために言語を獲得したとすれば、同時に二人以上の存在が変異を起こさなければならない。

どちらにしても、「人類が言語を獲得した」という事象と、あまり上手く合致しないように感じられてしまう。

これが、漠然と頭の中で考えていた「言語獲得への疑問」だ。

コミュニケーションによらない「言語獲得」

本書を読んで、なるほどそんな可能性があり得たのか、と衝撃を受けた。それは私の、「コミュニケーションのために言語は生まれた」という大前提を覆すものだった。本書で提示される可能性は、恐らく著者のオリジナルだと思うが、それは「一人でも言語を獲得し得た」ことを示す、私が想像もしていなかったようなものだった。

人類がいかにして言語を獲得したかを明らかにすることは、現代科学にとって非常に重要である。なぜならその研究は、「人工知能にいかに言語を獲得させるか」に直結するからだ。

本書の仮説を大雑把に説明すると、ある種の自己言及的なループによって塩基配列が変更され、それによって言語を獲得した、となる。もしこの仮説が正しいとして、人工知能は言語を獲得できるだろうか? ある種の自己言及的なループは再現できるかもしれない。しかしそれによって、人工知能の何が変わればいいのか? 

人工知能には塩基配列がない以上、変わるのはプログラムしかないはずだ。しかし、プログラムの変更によって「喋れる」ようになるのなら、人間の手でプログラムできるのではないか、と疑問が生じる。自己言及的なループを経ずとも、人工知能は言語を獲得できることになるのではないか?

この疑問を解決するように、本書ではある仮説が描かれる。この仮説をもっともらしく見せるためにこの小説が構築されている、と言っても言い過ぎではないだろう。専門家がこの小説を読んでどう判断するのか分からない。しかし、素人である私は非常に説得力を感じたし、これが答えなのではないかとさえ思ったほどだ。「言語獲得」に関して、これほどまでに深堀りされる物語に驚かされた。

なぜ「ヒト」は「現生人類」のみなのか? という疑問

さらにこの仮説は、もう一つの謎も解決し得る。それが、なぜ「現生人類」しか残っていないのか、ということだ。

例えば、犬でも猫でもペンギンでも、同じ動物の中にいろんな種類がいる。ゴールデンレトリバーやチワワなど、同じ「犬」でもまったく違う。このような多様な種が存在するのが普通だ。

しかし「ヒト」の場合、「現生人類(ホモ・サピエンス)」しかいない。

歴史上、「ホモ・サピエンス」以外の「ヒト」が存在していたことは分かっている。犬のように、いろんな種類の「ヒト」がいたのだ。しかし現在、「ヒト」は一種類だけだ。なぜそんなことになったのか?

本書の仮説は、この点にも明快な答えを与える。言語獲得の過程で、他の種の「ヒト」は姿を消さざるを得ず、唯一「ホモ・サピエンス」のみが、その過程を生き延びて言語を獲得したのだ、と。

非常にスリリングで興味深い仮説である。

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