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【衝撃】EUの難民問題の狂気的縮図!ポーランド・ベラルーシ国境での、国による非人道的対応:映画『人間の境界』

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ポーランド・ベラルーシ国境で起こっていた信じがたい悲劇。映画『人間の境界』で描かれる、常軌を逸した「難民への対応」

凄まじい話だった。実話を元にしているとはとても信じがたい話である。というわけで、その「凄まじさ」を説明するためにまず、公式HPに書かれている「映画上映に際してのポーランド政府からの妨害」について触れておきたいと思う。

本作『人間の境界』は、「ポーランドが行っていたあまりにも酷すぎる行為」を暴き出した作品だ。そしてそれ故だろう、本作の上映にポーランド政府は激しく反応した。なんと、上映を予定している劇場に、「『この映画は事実と異なる』という政府制作のPR動画を上映前に流すように」と通達を出したのだそうだ。しかし、ほとんどの独立系映画館がその通達を無視、さらに国内外問わず多くの映画人が本作監督を支持した。こうして、映画界がポーランド政府と対立するという異例の状況になっているのだという。

正直なところ、「政府が異例の過剰反応を示した」という事実こそが、「描かれている内容が真実である」という傍証になっていると言えるわけで、私には明らかな愚策に思える。政府が無視していれば、もしかしたらさほど話題にもならなかったかもしれないし、こうして日本に住む私が本作を観る機会だってなかったかもしれない。権力を持つ人間というのは本当に、一般市民の感覚が全然理解できないのだなぁと改めて実感させられた。

というわけで、「本作で描かれていることは概ね事実」だと私は考えている。しかし、決して擁護するつもりはないのだが、ポーランド政府だけが一方的に悪いわけではないように思う。というかむしろ、より本質的な問題はポーランドの隣国ベラルーシにあると認識すべきだろう。

まずはその辺りの事情について、本作での描かれ方を基に触れていこうと思う。

ポーランド・ベラルーシ国境では一体何が起こっていたのか?

本作で中心的に扱われるのは「中東からEUを目指す難民」の存在である。中東からの難民は、まずはEU入りを目指そうとするのだが、その玄関口となるのがポーランドなのだ。難民たちは、「ポーランドに入ってしまえさえすればなんとかなる」と考え、どうにかしてベラルーシからポーランドの国境を越えようとする。

しかし驚くべきことに、ポーランドの国境警備隊は、ベラルーシとの国境を抜けてきた難民を”違法に”ベラルーシへと送り返していたのだ。国境警備隊は難民を見つけると、無理やりトラックに載せ、ベラルーシ側に戻すのである。

ちなみに、「難民をベラルーシへと送り返す行為」を”違法”と表現していたのは、ポーランドの人道支援団体のメンバーだったはずだ。私はこの辺りの知識に明るくないが、恐らく、EU加盟国には「難民の受け入れ」が法律か何かで義務付けられており、それに反しているから”違法”ということなのだと思う。しかし、こちらも私の推測だが、国境警備隊は恐らく政府の指示の下に動いている。国の意向を受けて、難民を”違法に”ベラルーシ側へと送り返しているというわけだ。

さて、この事実だけを捉えれば、「ポーランドは定められた役割を果たしていない」と映るし、ポーランドが悪く見えるだろう。しかし、あくまでも本作で描かれている事実を基にした判断に過ぎないが、私はそう単純ではないと感じた。

本作中には、国境警備隊のミーティングの様子を映す場面がある。そしてその中で、「ベラルーシ国境を抜けてポーランドへとやってくる難民」のことを、「ルカシェンコの生きた銃弾」と表現していたのだ。ルカシェンコというのは、ベラルーシの大統領である。

「ルカシェンコの生きた銃弾」について詳しくは説明されないのだが、大体は理解できる。つまりこういうことだろう。ベラルーシはソ連崩壊に伴い独立した国であり、EU諸国とは対立関係にある。そしてそんなベラルーシがEU加盟国に打撃を与えるために、難民をポーランドに”送り込んでいる”というわけだ。EU加盟国が難民受け入れを標榜していることを理解した上で、「そんな難民を大量に送り込めば国の機能に問題が生じるだろう」という意図なのだと思う。まさに「銃弾」というわけだ。

もちろん公式にベラルーシがそのように主張しているはずもなく、これはポーランド(あるいはEU)の捉え方なのだと思うが、少なくとも本作においては、上述のような状況を補足する場面が描かれていた。映画は、空港からベラルーシ・ポーランド国境へとやってきたある一家が国境を越える場面から始まる。私は初め本作の設定を理解していなかったため、国境に置かれた鉄条網の前にいた制服姿の男たちが誰なのか分からなかったのだが、状況を考えると、彼らはベラルーシの国境警備隊なのだと思う。そして、彼らが鉄条網を持ち上げて難民が国境を抜けやすいように手助けする場面が描かれるのだ。

また公式HPにも、「ベラルーシ国境警備隊が意図的に開けた抜け道を通っての非合法な越境」という表現が使われている。もちろん、ベラルーシがどんな意図で「難民の越境の手助け」を行っているのかについては憶測でしかないだろう。しかしいずれにせよ、「本来であれば国境間の人の移動を制約すべき国境警備隊が、難民を積極的にポーランド側に送り込んでいる」というのは事実であるようだ。

そして実は、さらに驚くべき状況が映し出されていた。先述の通り、ポーランドの国境警備隊は、難民を見つけ次第ベラルーシ側に送り返している。そして実は、ベラルーシの国境警備隊も同じこと、つまり、難民を見つけ次第ポーランド側に送り返しているのだ。両国の国境付近では、このようなやり取りがずっと行われているのである。作中に登場する難民は次のように嘆いていた。

もう5~6回もサッカーボールみたいに行ったり来たりだ。

両国の国境警備隊が、難民を押し付け合っているという状況なのである。そしてこれはなかなかに難しい問題だ。

ベラルーシがポーランドに(あるいはEUに)打撃を与えようとしているのかはともかく、ポーランド側はそのように捉えているし、そうした観点からすれば、「『ベラルーシに押し付けられた難民』なんか受け入れてられるか」みたいな感覚になってしまうのも仕方ないかもしれない。もちろん人道的に許容できる話ではないのだが、少なくとも私には「ポーランド政府だけが悪い」みたいな捉え方は出来ないなと思う。

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