【革命】観る将必読。「将棋を観ること」の本質、より面白くなる見方、そして羽生善治の凄さが満載:『羽生善治と現代』
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将棋は何故「指せないと面白さが分からない」と思われがちなのか?将棋の新たな見方と、羽生善治の凄さが分かる1冊
本書の中心となる問いは、「将棋の対局が『ルールを理解して指せる人間が観ないと面白くない』と受け取られてしまうのは何故か?」である。最近は「観る将」という、「ルールを理解しないまま将棋を観て楽しむ人」が増えており、この問いの意味を理解できない者もいるかもしれない。しかし本書が出版された時点では、ネット配信などの将棋を気軽に観られる環境はなかったはずで、「将棋」は今ほど身近に接することが出来るエンタメではなかったのだ。どちらかと言えば「自分でも指した経験のある将棋好きが熱心に観るもの」として受け取られていたはずだし、私もそんな印象を抱いていた。
そして、そんな将棋の捉えられ方に疑問を呈するのが本書なのである。
著者はシリコンバレー在住で、『ウェブ進化論』という新書が大ベストセラーとなった。著者自身、将棋を指しはするもののそこまで強くはなく、どちらかと言えば「将棋を観ること」を趣味にしているという。
そんな著者が、「将棋を観ること」を起点に、将棋の楽しみ方や羽生善治の凄さについて語る作品というわけだ。私も、将棋のルールは分かるが全然強くない人間で、いわゆる「下手の横好き」という感じである。そんな人間でもメチャクチャ楽しめる1冊で、物凄く面白かった。
本書は、著者が過去に出版した2冊の本、『シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代』『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?――現代将棋と進化の物語』を合本し、さらに羽生善治との対談や対局のリアルタイム観戦記などを新たに収録した作品になっている。将棋に詳しくなくても、「ちょっとは興味がある」程度の関心があれば十分楽しめる作品だと思うので、是非手に取ってみてほしい。
「将棋を観ること」に対して、どうして私たちは高いハードルを感じてしまうのか?
先程も触れたが、本書の中心的なテーマに改めて触れておこう。この点については本書にも、
という形で明確に記されている。もう少し具体的に触れている箇所も引用しておこう。
将棋と言えばあくまでも「指す」もの、将棋とは二人で盤をはさんで戦うもの、というのが常識である。「趣味が将棋」といえば、ふつうは「将棋を指す」ことを意味する。そして将棋を指さない人、将棋が弱い人は、将棋を観てもきっとわからないだろう、と思われている。
最近では、「藤井聡太がおやつに何を食べるのか」「対局中の棋士がどんな仕草をしているのか」など、将棋そのものに注目するわけではない「観る将」も増えてきているので、このような感覚は薄れているのかもしれない。一方で、「理解できる」という方もいるだろう。私も、元々はそう感じる側だった。自分は将棋が弱い、だからプロの対局を観たって分かるはずがない、と当然のように考えていたのだ。
しかし、本書のこんな記述を読んで、「なるほど、将棋に対してそのような感覚は確かにおかしい」と感じさせられた。
いかがだろうか? 私はこの文章を読んで、「確かにその通りだ」と感じた。同じような捉えられ方になるものは他にも世の中に存在するかもしれないが、少なくとも「将棋」の場合は、「やらない人間が観ても面白くないはず」という感覚が当たり前のように存在しているというわけだ。
ちなみにだが、私は将棋に限らず、「リアルタイムで行われていることを鑑賞する」という行為がそもそも得意ではない。将棋、スポーツ、F1、競馬などを鑑賞する趣味がまったくないのだ。好き嫌いというよりは、得意不得意の問題だと自分では思っている。何を観ても、「結果だけ教えてくれ」というような身も蓋もない感覚になってしまうのだ。だから、スポーツ鑑賞と将棋鑑賞における私自身の実感を比べているわけではない。なんとなく感覚的に、「スポーツと将棋では確かに受け取り方が異なる」と理解できるというわけだ。
では、このような違いは一体どこから生まれるのだろうか? その点について著者は、イチローに言及した後で、こんな風にまとめている。
確かにその通りだ。「野球を観ているおじさん」のステレオタイプなイメージを思い浮かべてみれば、「なんでそこで振らないんだよ!」「そんなボールも取れないのかよ!」と野次を飛ばす姿が出てくるだろう。もちろん野球経験者もいるとは思うが、少なくとも世の中の「野球を観ているおじさん」のほとんどが、プロよりも野球が下手なはずだ。それなのに、さも自分の方が巧手であるかのような視点で試合を観ることが出来る。著者が言う、「テレビ画面を通すとあまりにもやさしく見えてしまう」という感覚は、私の中にはないが、現にそういうおじさんが存在する以上、そのような「魔法」は存在するのだろう。そしてその「魔法」こそが、膨大な「野球ファン」を生み出しているというわけだ。
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