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【天才】科学者とは思えないほど面白い逸話ばかりのファインマンは、一体どんな業績を残したのか?:『ファインマンさんの流儀』

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時代を先駆けた天才・ファインマンは、科学に対してどのような貢献を成したのか?

「ファインマンの業績」をまとめた本書は、非常に珍しい一冊である

「有名な科学者を挙げろ」と言われて、科学に関心がない人でも思い浮かぶ人物といえば、アインシュタインか車椅子の物理学者・ホーキングだろう。そして、一般への知名度という点で彼らにも引けを取らないだろう科学者が、本書の主役・ファインマンである。

ファインマンについて、一般的に最も知られているだろう事実は、「チャレンジャー号爆発事故の調査」だろう。スペースシャトルの爆発事故の調査を依頼されたファインマンは、Oリングと呼ばれる小さな部品に不備があったことを突き止めた。

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』という自伝は世界的な大ベストセラーとなり、陽気でイタズラ好きで妻を愛した「人間」としてのファインマン像は広く知られている。ロスアラモスでの原発開発中に金庫破りに精を出したとか、ブラジルでボンゴという打楽器を練習し人前で披露するようになったとか、ストリップバーの片隅で研究をしていたなど、普通の科学者ではあり得ないエピソードが満載の人物であるが故に、書籍ではそれらの面白話ばかりが取り上げられる傾向にある。

私も本書を読むまで、「ファインマンという科学者が、一体どのような業績を残したのか」を網羅的に知る機会はなかった。

「くりこみ理論」でノーベル賞を受賞したとか、自身の名がついた「ファインマン・ダイアグラム」を生み出したなど、断片的な情報は知っていたが、それら全体像を理解できる一般向けの書籍はあまりないと思う。

本書の訳者も、こんな風に書いている。

そんなクラウスが「ファインマンの科学上の業績を通して、彼の人物像を映し出すような本」を書いてほしいともちかけられたのに応えて目指したのは、天才科学者ファインマンの成果、それが20世紀の物理学に及ぼした影響、21世紀の謎を解明するうえでどんな刺激になるかを、一般の読者にもなるべくわかりやすい文章で示すことだった。一般読者向けの科学書として、ファインマンの物理学をその広い範囲にわたって、ここまで詳しく説明しようとしたのは、本書が初めてではないかと思われる

これほどまでに名前が知られ、多岐にわたるエピソードで有名な科学者の「業績」が知られていないというのも不思議な話ではある。

ファインマンの業績をまとめた本はほとんどないものの、カルテク(カリフォルニア工科大学)での講義をまとめた『ファインマン物理学』本は、これまた世界的に広く知られている名著であり、物理学者になろうとするすべての人の必読本であるそうだ。

こんな逸話が知られている。

ファインマンはカルテクで、学部生向けの講義を頼まれた。講義など経験のなかったファインマンだが、1年目からその講義は大いに話題を呼んだ。なんと、学部生向けの講義を、大学院生や教授まで聞きに来るようになったのだという。

ファインマンの講義は正直なところ、学部生にはレベルが高かったようだが、しかしめっぽう面白いと評判で、噂が噂を呼んで他の教授まで聴講に訪れるようになったのである。難解な物理学の世界を、一般向けに分かりやすく説明する能力は圧倒的だったようで、これもまた、第一線で活躍した科学者には非常に珍しいと感じる。そして、その講義をまとめた本も名著と評されることになるのである。

さてそんなわけで本書は、一般的には「面白いエピソード」ばかりが描かれるファインマンの「業績」に焦点を当てる珍しい作品だ。

ファインマンが活躍した「量子力学」という分野は、この分野そのものが非常に難解であり、私には正直理解が及ばない部分も多々ある。ファインマン自身も、

量子論を理解しているというやつがいたらそいつは嘘つきだ

という有名な言葉を残しているほどだ。

さらに本書を読んで理解したのは、「ファインマンはあまりにも時代を先駆けていた」ということだ。ファインマンの業績は、現在の視点で捉えても、非常に常軌を逸した斬新な視点やアイデアを提示していると言えるのだそうだ。つまり、ファインマンと同時代の科学者にはほとんど理解できなかったに違いないほど彼は先んじていたそうだ。

このような理由から、「ファインマンの業績を説明する」という仕事は私の能力を遥かに超えるのだが、私が理解できた範囲でまとめていこうと思う。

学生時代に、アインシュタインの前で発表を行う

当然と言えば当然ではあるが、ファインマンは学生時代からずば抜けて天才だったようだ。

こんな話がある。MIT(マサチューセッツ工科大学)に入学した彼の元には、出願していないのに何故かハーバード大学から奨学金が与えられた。理由は、とある数学コンテストで優勝したからだ。物理学科所属だったにも関わらず、数学科のチームに入ってくれと頼まれて参加したところ、圧倒的な得点差で優勝してしまったのだという。

しかしその後、ファインマンはハーバード大学には行かず、プリンストン大学に進む。その理由を著者は、「そこにアインシュタインがいたからだろう」と推測している。プリンストン大学は、アインシュタインが最後に腰を落ち着けた場所である。

しかしプリンストン大学でファインマンは、思ってもいなかった人物と関わることになる。それが、ホイーラーである。「ビッグバン」の名付け親として知られ、多彩な業績を持ち、非常に豊かな想像力があった、歴史的にも非常に有名な科学者の一人である。ファインマンはこのホイーラーととても話が合ったのだ。

ファインマンがプリンストン大学に入った当時、物理学の世界では「自己エネルギー」に関する問題が知られていた(ただし、この問題は私には理解できなかったので説明しない)。この問題について考えていたファインマンは、ある常軌を逸した解決策を思いつき、ホイーラーに自説を話に行った。

するとホイーラーは即座にそのアイデアの欠陥を指摘してみせた。さらにホイーラーはそこで、ファインマンのアイデアを遥かに上回るぶっ飛んだアイデアを提示したという。それが、「粒子が時間を遡って作用する」というものだ(これももはや、何を言っているのか私には理解できない)。ファインマンはこのアイデアを独自に深め、自分なりの考えをまとめていくことになる。

このように、ホイーラーとのやり取りはファインマンにとって非常に有意義だったようだ。

そして、ただの大学院生でしかなかったファインマンはなぜか、アインシュタインやノイマン、パウリといった時代を彩るスター物理学者たちの前で自分のアイデアを発表しなければならなくなった。ファインマンがどれだけ天才で、どれだけ期待されていたのかが伝わるエピソードだろう。

さて、ホイーラーとファインマンが考えたアイデアは、結局間違っていた。この点に関して本書には、「科学」というものの捉え方を改めさせるようなこんな文章が載っている。

だとすると、これだけ熱心に取り組んだ研究に、どんな意味があったのだろう? それはこういうことだ――科学では、重要な新しいアイデアはほとんどすべて間違っているのだ

科学の歴史においては、「あまりにも斬新すぎて、発表した当時はまったく受け入れられなかった」などというエピソードは山ほど存在する。しかしそのような斬新で理解不能なアイデアにも一定数正しいものがあり、そのぶっ飛んだアイデアがブレイクスルーとなって科学が進展していくことも多い。

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