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【挑戦】社会に欠かせない「暗号」はどう発展してきたか?サイモン・シンが、古代から量子暗号まで語る:『暗号解読』
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超ベストセラー作家サイモン・シンが描く「暗号」の歴史
現代社会に「暗号」は欠かせない
「暗号」と聞くと、ミステリやスパイ映画が思い浮かぶかもしれない。確かにそういう、どちらかと言えば日常的ではない話題と結びつきやすいだろう。しかし「暗号」というのは実は、我々の生活に欠かせないものだ。
インターネットやアプリなどでパスワードを、銀行で暗証番号を入力したりするだろうが、これらはすべて「暗号技術」によって支えられている。また、クレジットカードの安全性などにも使われているのである。「RSA暗号」や「楕円曲線暗号」など、現代社会を支える暗号技術が存在しなければ、今のような文明は成り立たないはずだ。
そしてこの「暗号」は、次第に数学との関係が深くなっていく。先程挙げた暗号技術にしても、「RSA暗号」には「因数分解」が、「楕円曲線暗号」にはその名の通り「楕円曲線」が関係しており、それらはまさに数学そのものだ。「因数分解」など、誰もが学校で習うもので、「こんな計算にどんな意味があるんだ」と感じた方も多いだろうが、実は暗号技術として活躍しているのである。
またし、「暗号」の歴史は「封印・沈黙」の歴史でもある。というのは、暗号技術というのは、その本質が知られないことが重要だからだ。「RSA暗号」や「楕円曲線暗号」は、その数学的な仕組みの部分が明らかになっても問題のない暗号なのだが、古代から近現代に至る人類の歴史においては、「相手の暗号をどのように破ったのか」や「相手の暗号を破ったという事実」が相手に伝わらないことが重要だった。
だからこそ、「暗号」の歴史というのは埋もれてしまいがちだ。
暗号解読の歴史で最も有名なのは、恐らくドイツ軍の暗号機「エニグマ」の解読だろう。エニグマを解読したアラン・チューリングは、「コンピュータの父」とも呼ばれる天才数学者である。
しかし彼が「エニグマ」を解読したことは国家機密として長らく封印されていたため、アラン・チューリングの功績として知られるのには時間が掛かった。彼が「エニグマ」を解読したことで1400万人以上の人命が救われたとされているのだが、アラン・チューリング自身は「同性愛者」という偏見に耐えきれずに自殺するという悲惨な最期を遂げてしまう。「エニグマ」解読の功績が明らかにされたのは、彼の死後のことである。
彼の活躍をモチーフにした『イミテーション・ゲーム』という映画があるので、是非観てほしい。
そして本書では、そんな秘匿されがちな暗号解読の歴史を、『フェルマーの最終定理』などの著作で知られるサイモン・シンが丁寧に掘りおこす。
サイモン・シンは常に、取り上げるテーマに関わった人間のドラマを描き出すが、本書でもそのスタンスは同じだ。特に「暗号」に関しては、埋もれてしまう事実が多いだけに、様々な「知られざるエピソード」が盛り込まれていく。物語としても面白く読めるだろう。
古代からの「暗号解読」の基本
現在では「数学」の領域となっている「暗号」だが、かつて暗号解読というのは「言語学者」の仕事だった。そして、彼らが解読の際に使うのが「頻度分析」と呼ばれるテクニックである。
数学を利用した高度な暗号技術が生み出される前は、「暗号」というのは基本的に、「ある文字を別の文字に変換する」という手法で行われていた。「おはようございます」という文章に対して、なんらかのルールに基づいて「お」「は」「よ」「う」「ご」「ざ」「い」「ま」「す」というそれぞれの文字を別の文字に置き換えることで、パッと見ただけでは解読できないようにする、というものだ。
しかしこのような暗号方式には、決定的な弱点がある。そして、その弱点を突くのが「頻度分析」である。
例えば英文に最も多く登場するアルファベットは「e」だと知られている。つまり、英文をどんな風に変換しようが、文中で最も多く出てくる文字は「e」ではないかと推定できる、ということだ。
このように、言語学的な知見を駆使して暗号解読は行われていた。
このやり方は、暗号だけに使われたわけではない。例えば、古代文明の言語の解読も同じ手法で行われる。古代文字というのは、規則性があるのに読めないという意味で暗号と似た存在であり、本書でも取り上げられている。
有名な「ロゼッタストーン」のように、とっかかりとなるヒントがあったお陰で解き明かされた古代文字もあれば、まったくのノーヒントから解読に至ったものもある。もちろん、未だに読めない古代文字も存在している。人類は、いずれそのような古代文字をすべて解読することができるだろうか?
言語学者から数学者の仕事に
そして話は現代に至る。数学の知見を駆使することによって、暗号解読が言語学者の仕事ではなくなったのである。
現代の暗号理論にとって最も重要な概念は、「公開鍵」である。これは、既存の暗号手法すべてにつきまとうある問題を解決するために発想されたものだ。
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