【不正義】正しく行使されない権力こそ真の”悪”である。我々はその現実にどう立ち向かうべきだろうか:映画『デトロイト』
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権力を持つ者こそが”本当の悪”になれる。その現実に、私たちはどう立ち向かうべきだろうか?
『デトロイト』は、50年以上前にアメリカで起こった実際の事件をモチーフにした映画だ。しかし、「白人が黒人を虐げる」という現実は、今もなお残っている。
決して過去の話ではない。
映画の最後に、こんな内容の字幕が表示された。
つまり、この映画での描写が正しいかどうか分からない、ということだ。真相解明がなされなかったのだから仕方ないだろう。
途中経過がどうだったとしても、悲劇的な結末が変わるわけではない。実際に起こったかどうかよりも、この映画で描かれていることは「起こり得た」し「起こり得る」のだと捉えることに意味があると思う。
権力が「正義」を蔑ろにしたら、誰も太刀打ちできない
「憲法」の存在意義について、以前の私は大いに勘違いしていた。何となく「法律よりも上位に位置するもの」程度の認識しかしていなかったのだ。その理解は決して間違いなわけではないが、本質的な理解ではない。
「憲法」とは、国民が国家を制約するものだ。学生時代にきっと習う知識なのだろうが、忘れていたか、特に重要だと思わずにいたのだろう。
「法律」は、国家が国民を制約するものだ。そして反対に「憲法」は、国民が国家を制約する。つまり「憲法」は、「国民が作り、国家に守らせるもの」というわけだ。そしてそれが「法律」よりも上位に存在する。これを「立憲主義」という。
大人になってからこの事実を知った時には驚かされた。そうか、「憲法」はむしろ我々にとっての武器のだったのか、と。
そして、確かにそうでなければならない、と映画を観て改めて感じた。
国家権力は、様々な形で国民を制約する。例えば国家は、国民から「暴力」を奪う。そしてその代わりに、警察権力が暴力に対抗したり、あるいは死刑という暴力によって犯罪者を処罰する。
立憲主義的には、「我々は国家権力に『憲法』という制約を課す。だから、我々の権利が制約されることも許容する」という理屈のはずだ。
このようにして、「権力」の横暴を抑え込むのである。
そうしなければならない理由は明白だ。「権力」があまりにも強大な力を持つからである。「憲法」が課した制約を無視して権力が行使されるなら、国民は為す術もない。
近畿財務局の職員だった赤木俊夫さんが自殺した事件の衝撃は今も残っている。先日、国が全額賠償金を支払うと決め、真相が解明されないまま裁判が終結してしまった。まさに、強大な「権力」が1人の人間をいともたやすく殺してしまった事件だ。
以前観た映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』では、東京オリンピック開催を名目に都営アパートの解体が決まり、住民が追い出される様が映し出された。権力が、その強大な力を行使して個人をなぎ倒すことは、身近にも起こりうる。
そういう状況に置かれた時、私たちはどんな風に行動できるものだろうか?
自分が置かれている役割に人格を寄せてしまう可能性
ねつ造疑惑が持ち上がっており、心理学実験としての真偽には疑問符が付くのだが、とにかく非常に有名な「スタンフォード監獄実験」をご存知だろうか。学生を「看守役」と「囚人役」に分けで演技をさせると、看守という役柄にひきずられ、「看守役」の性格がどんどん邪悪なものに変わっていく、というものだ。
この実験の真偽はともかく、「自分の役割を全うしなければならないという気持ちから、悪逆な行為をしてしまう」という状態はあり得ると思っている。
実際のデモ映像や、過去に起こった革命を元にした映画を観る度に、「軍や警察側に立つ者の気持ち」について考えてしまう。例えば、「Black Lives Matter」を合言葉にアメリカでデモが広がった際にも、当然デモを鎮圧するために警察官が派遣される。しかしその警察官の中にも、デモ隊と心を同じくする者がいたのではないかと思う。それでも彼らは、「警察官」という職務を全うしなければならない。だとすれば、自分の行為を正当化するために「デモをする側が悪い」と意識的に考え、職務遂行への抵抗感を減らそうとする者もいるのではないかと思う。
そしてこのように考えることで、「権力を持っているがゆえに、悪事を起こしてしまう」と捉えることも可能になる。何を「正義」と考えるかは人それぞれだが、権力側に立つと決めた者は、「権力側が考える正義」に従わなければならなくなってしまう。「権力側が考える正義」が自分の信じる「正義」と異なる場合、職務を全うするために仕方なく「権力側が考える正義」を優先しなければならないと考えるだろうし、その過程において、まったく望んでいない行動を取らざるを得ないこともあるだろう。
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