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【勝負】実話を基にコンピューター将棋を描く映画『AWAKE』が人間同士の対局の面白さを再認識させる

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実際に行われたコンピュータ将棋の対局をモデルにした映画『AWAKE』は、夢破れた者の挑戦と悲哀を描き出す

『AWAKE』というタイトルだけを見て何の映画なのかすぐに分かった人は、恐らく将棋ファンでしょう。私は、将棋のことは好きですが、詳しいというほどではなく、だから「AWAKE」のことは知りませんでした。

この映画のモデルとなった対局を知らないのなら、知らないまま映画を観た方がいい

映画の冒頭で表記されますが、映画『AWAKE』は実際の対局をベースに描かれます。2015年に行われた、阿久津主税棋士と「AWAKE」という将棋ソフトの勝負です。先述した通り、私はこの対局のことを知らないまま観たのですが、同じく知らないという方は、何も調べずに映画を観ることをオススメします。知った上で観ても十分に面白いと思いますが、ラストの展開を知らないままの方がずっと面白いはずです。

というわけでまずは、この映画を観る前に私が知っていた「コンピュータ将棋周辺の話」について触れておきたいと思います。

コンピュータ将棋の世界は、プロ棋士の世界とはまったく別のところで発展してきました。プログラミングが好きで将棋も好きという人たちが趣味で「将棋ソフト」を開発し、同好の士が集まってその優劣を決める大会を行っていたのです。初めこそプロ棋士の棋力にはまったく及びませんでしたが、その後急激に進化、やがて「プロ棋士に対抗できるほどの力をつけているのではないか」と言われるようになっていきます。そこで、将棋連盟とドワンゴが主催となり、プロ棋士と将棋ソフトの直接対決が行われることが決まったのです。2015年というのは、そういう時代でした。

また、そのような「大会用の将棋ソフト」が、「一般向けの将棋ソフト」として普及していきます。今では藤井聡太を始め、特に若い世代の棋士たちが、自身の将棋研究に当たり前のように将棋ソフトを取り入れているのです。将棋研究と言えば長らく「棋譜並べ」「詰将棋」でしたが、そこに「将棋ソフト」という選択肢も加わることになりました。

さて、私が知っていた知識はこの程度のことです。先に紹介した阿久津主税棋士と「AWAKE」の対局は大いに話題になったそうですが、私はその存在さえまったく知りませんでした。結果としてそのお陰で、この映画のラストの展開にはハラハラドキドキさせられたので良かったです。なので、詳しいことを調べずに映画を観ることをオススメします。この記事でも、ラストの展開には触れません。

プロ棋士になるためのあまりに高いハードルと、夢破れた者たちの悲哀

2015年に行われた対局については知らない方がいいですが、映画『AWAKE』を観る上で知っておいた方がいい情報もあります。それが、「プロ棋士になるための壮絶な道筋」です。そんなのもう知っている、という方は読み飛ばして下さい。

プロ棋士になるためのファーストステップは、棋士の養成所「奨励会」に入ることです。当然ですが、誰もが入れるわけではありません。奨励会に入るには、プロ棋士の推薦が必要になります。つまり、プロ棋士から推薦がもらえるほどの棋力を、奨励会に入会する時点で持っていなければならないというわけです。入会時期は人によって様々ですが、早ければ小学生から入る子もいます。ちなみに、映画『AWAKE』の冒頭で主人公2人が奨励会に入った年は、160名が所属していました。全国から集った精鋭揃いの160名というわけです。

その後、奨励会員同士で対局を繰り返して級位・段位を上げていき、三段に上がると恐怖の「三段リーグ」が始まります。ざっくり説明すると、半年に一度総当たり戦を行い、その上位2名が四段になれるという仕組みです。「四段への昇段=プロ棋士になること」なので、色んな例外はあるものの、基本的には「年に4人しかプロ棋士にはなれない」ということになります。

ハードルはそれだけではありません。さらに、年齢制限も設けられているのです。「満21歳の誕生日までに初段」「満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段」に上がれないと、その時点で退会となり、基本的にはプロ棋士への道は断たれてしまいます。実際には特例措置もあり、一度奨励会を退会になりながらプロ棋士になった者もいるのですが、当然、この特例措置の方が遥かに狭き門です。ざっと調べた限り、奨励会を退会後、特例によりプロ棋士になったのは、たった4人だけのようです。最近では、女流棋士の里見香奈がプロ棋士編入試験を受けたことでも話題になりました。

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