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【異常】韓国衝撃の実話を映画化。『空気殺人』が描く、加湿器の恐怖と解決に至るまでの超ウルトラC
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韓国で実際に起こったあまりにも衝撃的過ぎる「企業の過失事件」をベースに、加湿器が”凶器”となる恐怖を描く映画『空気殺人』
とんでもない作品だった。正直、そこまで期待していなかったこともあり、余計衝撃的だったと言える。
なにせ、この映画で描かれる”事件”が「実話を基にしている」というのだから。それはあまりにも信じがたい現実である。
「実話」だとはとてもじゃないが信じられない凄まじい事件と、解決に至るまでの超ウルトラC
この映画の元となっている、2011年に韓国で実際に起こった事件は、あまりにも衝撃的だ。「加湿器を殺菌するための薬剤」によって、膨大な数の被害が出たのである。
映画の最後に、どこかの研究機関が「推定」した被害者数が表示された。何故「推定」なのかについては、あくまで私の予想だが、「『加湿器殺菌剤』が原因であるとはっきりとは断定出来ない事例」が多数存在したからだと思う。ともかく、映画で表示されたのは、「健康被害を受けた者:95万人 亡くなった者:2万人」という数字だった。
映画では、この凄まじい事件と対比させる形で、日本の悪名高き公害病「水俣病」の名前も出てくる。映画鑑賞後、自分なりに調べたところ、「『水俣病患者』だと国から認定を受けた人」はやはり非常に少ないのだが、「一時金の受け取りや医療費等の救済を受けた人」は約7万人に上るそうだ。「治療を受けるほどではない軽度の健康被害を受けた人」がその10倍程度はいると考えても70万人。そうなると、2011年に起こった「加湿器殺菌剤」による被害は、水俣病に匹敵するかそれ以上のものと言っていいかもしれない。
この事件、「加湿器殺菌剤を製造・販売した会社」に責任があると認められ、会社の元社長らは実刑判決を受けている。この殺菌剤は1994年から販売されていたのだが、映画で描かれているような長い奮闘の末、2011年にその危険性が判明し、後に販売禁止となった。映画のラストは、「事件発生から10年後の公聴会」の場面で終わる。ここで言う「事件発生」は2011年を指していると思うので、公聴会が開かれたのは2021年だろう。そしてこの公聴会の場面からは、「この殺菌剤が、そして製造・販売した会社がいかに危険であるか」が韓国国内で周知の事実になっていることが伝わってくる。映画ではとにかく、「加湿器殺菌剤が原因で体調に異変を来たした」という事実を証明することに非常に苦労する様子が描かれるわけだが、彼らのその努力は報われたというわけだ。
そして何と言っても、映画の中で描かれる「被害者側が勝利に至るまでの展開」がちょっと凄まじい。この記事ではその詳細には触れないが、とにかく「絶体絶命の地点から、あり得ない大逆転がもたらされる」のである。凄まじいウルトラCによって、誰もが諦めかけたところから一発逆転を実現する、とんでもない物語というわけだ。
もちろん、実話を基にした物語であっても、すべてが実際の通りに描かれているとは限らないだろう。しかし、2011年というかなり最近起こった事件を題材にする場合、「まったく存在しない事実を組み込んだフィクション」はなかなか作りにくいのではないかとも思う。なにせ、この殺菌剤による健康被害は、今もまだ多くの人々を苦しめているのだ。いくらエンタメ作品といえども、少なくともこの作品においては、大胆な改変はしにくかったはずだと思う。だから、映画で描かれている通りではないかもしれないが、それに近い出来事が起こったのではないかと私は考えている。
そしてそうだとすれば、やはり驚きだろう。ありとあらゆる意味で「不利」でしかない状況を被害者側がひっくり返し、「全面勝利」と言っていいほどの着地を実現しているのだ。いち観客の立場から言えば、「とにかく痛快な物語」という感じだった。
映画の中で「水俣病」の話が出たのは、「このような訴訟は時間が掛かるが、皆さん頑張りましょう」と原告となった人たちに伝える場面でのことだった。水俣病は1932年から始まったが、被害者たちは50年以上も闘ってようやく工場と政府から謝罪を得られたのである。だから加湿器殺菌剤事件の被害者たちも、長期戦を覚悟していた。また、私は以前『ダーク・ウォーターズ』という、超巨大企業デュポン社による環境汚染、健康被害を認めさせるために闘った1人の弁護士を描いた映画を観たことがある。やはりその事件も長期戦だった。どれだけ数を集めたところで、やはり個人は個人であり、大企業と闘うのは相当に難しいのだ。
しかし加湿器殺菌剤事件においては、作中で描かれるあるウルトラCによって一気に状況が好転した。もちろんここには、努力したからといってどうにもならない、偶発的な要素もかなり含まれている。だから、「どんな訴訟においても有効」などとは決して言えない。ただ、「大企業と比べたら圧倒的に非力である個人にも、闘える余地がある」のだと、僅かながら希望を抱かせる展開だとも感じた。
ある人物が作中で、「最初から勝つ方法は1つしかなかった」と口にする場面がある。確かに、その人物の言う通りだろうと思う。しかし物語の終盤に、観客が恐らく全員「えっ!?」と驚かされるだろう展開が待っている。普通に考えればそこで「ジ・エンド」だったはずだ。しかし結果としては、その行動こそが「逆転のための最善手」だったのであり、そこから怒涛のように物語が展開していくのである。
悲惨な事件を扱った作品に対する感想としては不適切かもしれないが、いち観客としてはとにかく「痛快」だった。ドキュメンタリーであれノンフィクションであれ、ただ「事実」だけを伝えてもなかなか人々には届かない。映画『空気殺人』は、現実に起こった胸糞悪い事件を扱いながら、フィクションとしての面白さを徹底して追求することで、結果としてその物語に含まれる「事実」が伝わりやすい作品に仕上がったように思う。
「良心」の存在しないろくでなし、そして「原因追求」の困難さ
私はこれまで、国や企業による不正を扱った映画や本に結構触れてきているのだが、その度に感じるのは、「全員『良心』をどこかに置き忘れてきたのか?」ということだ。
もちろん、「知らなかった」というのであれば仕方ない。ジャニー喜多川による性加害問題のように、「知らなかった」「噂レベルでは聞いたことがある」と口にする人たちに対して「絶対に知っていただろう」と感じてしまう状況もあるが、もちろんどんな状況においても、「そんな不正のことは本当に知らなかった」という人だっていると思う。「知らなかった」という事実を証明することはとても難しいが、証明できるかどうかはともかく、「知らなかったのであれば責められるべきではない」と考えているというわけだ。
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