【感想】アニメ映画『パーフェクトブルー』(今敏監督)は、現実と妄想が混在する構成が少し怖い
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今敏監督作品『パーフェクトブルー』は、絶妙な設定と描写によって「『現実』と『虚構』の境界を崩す構成」がとにかく素晴らしい
なかなか面白い作品でした。いつものように、何も知らないまま観に行ったので、「アイドルの話」であることさえ観るまで知らなかったという感じです。また、今敏監督が既に亡くなっていることは分かっていましたが、いつ頃作られた映画なのかは知らなかったこともあり、絵の雰囲気はやはり古いなと感じました(25年以上前の作品なので当然ですけど)。ただ、物語自体は現代でも十分に通用すると思います。
まずは内容紹介
舞台上に、3人組アイドルグループ「CHAM」のメンバーが揃っている。舞台と言っても大きな会場ではなく、ヒーローショーも行われるような小さなステージだ。ライブは佳境を迎え、ラスト1曲。ここで、メンバーの1人である霧越未麻が、今日のライブをもって卒業することをファンに伝えた。これは決して未麻の希望ではない。テレビドラマに出演した際の評判が良かったため、事務所が彼女を女優として押し出したいと考えているのだ。
未麻自身は歌手になりたくて山口から上京してきた。そのため、自身もかつてアイドルだったマネージャーのルミは、社長に「未麻の気持ちを尊重して」と訴える。しかし社長は、「アイドルとしてはもう、露出の場が限られるから」と、事務所経営のことも考えて未麻の卒業を決めたというわけだ。
とはいえ、女優としての道が開けているのかというとそんなこともない。現在出演しているドラマ『ダブルバインド』のセリフは少ないし、次が決まっているわけでもないのだ。それでも未麻自身は、女優としてやっていこうと気持ちを切り替え、新たなスタートを切ろうとしていた。
しかし、アイドルを卒業した未麻の周囲では、不穏な出来事が続くことになる。自宅には「裏切り者」と書かれたFAXが届く。ファンレターにアドレスが書かれていたHPに行ってみると、未麻の日常を監視しているとしか思えない投稿が大量にアップされていた。また、未麻宛てに届いたファンレターを事務所の社長が開封した際に爆発するという事件も起こる。明らかに、何かがおかしい。しかし、未麻はそこはかとない不安を社長やマネージャーに訴えるものの、「今は女優の仕事に集中しなさい」と聞く耳を持ってもらえなかった。
さて、アイドルを辞め女優の道へと進んだ未麻は、その後ドラマの中でレイプシーンを演じたり、ヘアヌード写真の撮影を行ったりと、アイドル時代には考えられなかった仕事をするようになる。そしてそれと並行する形で、未麻の周囲ではさらに”ヤバい”事件が起こっている”ように見える”のだ。未麻の身に起こることは「現実」なのか「夢」なのか、はたまた「妄想」なのか……。
「現実と虚構の境界」を絶妙に曖昧にしていく見事な構成
映画でも小説でもマンガでも、「これは夢なのか現実なのか」みたいな展開の物語はたくさんあるでしょう。しかし、そのような物語をファンタジーとしてではなく成立させようとする場合、かなり無理をしなければ実現できない印象があります。今でこそ「VR・AR」みたいな技術があるし、それらを駆使すれば「現実と虚構の区別が付かない」という状況をリアルに設定できるかもしれませんが、本作が作られた頃にはそうはいかなかったはずです。
そして本作は、その辺りを非常に上手く作っていると感じました。もちろん、「アニメ映画だから可能だった」という側面はあると思います。恐らくですが、例えば小説で本作と同じことを実現しようとしたら、かなり難しいでしょう。ただ、「アニメ映画だったから」というだけではない巧妙さもあると考えています。
私が上手いなと感じたのは、本作においては「劇中劇」的な存在である『ダブルバインド』というドラマです。アイドルを辞めた未麻が、女優としてのリスタートのために出演しているドラマとして出てきます。つまり本作には、「未麻が生きている現実」「未麻の妄想」「ドラマ『ダブルバインド』の撮影シーン」の3つが入り混じることになるのです。
もし本作に「未麻が生きている現実」と「未麻の妄想」という2種類の描写しか無かったとしたら、リアルな物語として描き出すことは難しかっただろうと思います。何故なら、それがどんな描写でも、「『未麻が生きている現実』でないなら『未麻の妄想』」「『未麻の妄想』でないなら『未麻が生きている現実』」という解釈しか成り立たないからです。
しかしそこに、3つ目の選択肢である「ドラマ『ダブルバインド』の撮影シーン」が含まれることで、可能性のパターンはかなり広がります。「これは『現実』では無さそうだけど、だとしたら『妄想』と『撮影シーン』のどっちだろう?」みたいな形で、観ている者を幻惑させることが出来るのです。このように、「映し出されているのが『現実』『妄想』『撮影シーン』のどれなのか分からない」という描き方になっていることで、観客は常に振り回されることになります。
そんなわけで本作では、「現実と虚構の区別が付かない」みたいな状況が、かなりリアルな物語として成立していたと思います。さらに本作の場合、中盤までは観客を幻惑させ続けますが、終盤で一気に可能性が絞られ、「なるほど、未麻が置かれていたのはこのような状況だったのか!」とはっきり理解できるようになるわけです。この展開も、とても良くできていると感じました。
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