【協働】日本の未来は福井から。地方だからこその「問題意識の共有」が、社会変革を成し遂げる強み:『福井モデル 未来は地方から始まる』(藤吉雅春)
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「人口減少社会・日本」で生きる我々が、都会・地方を問わず持つべき「危機意識」をどう共有するか?
本書は、福井県の事例を中心とした「地方改革」の話であり、そういう事柄に関心を持つ人にももちろん読んでほしい作品だ。具体的な事例を元に、「地方が抱える問題をどう解決したか」が描かれており、本書の記述が直接的に参考になる、というケースもあるはずだ
しかし本書で語られるのは、決して「地方改革」の話に留まらない。私が思う本書の最も重要なポイントは、「問題に対する『危機意識』をいかに共有するか」だからだ。
職場でも地域でも家庭でも、常に様々な問題が起こる。それらに自発的に気づき、率先して行動を起こせる個人もいると思う、やはり個人の力でどうにかなる領域は少ないはずだ。
だからこそ、その問題に対する「危機意識」を関係者間でどう共有するのかが、何よりも重要になってくると私は考えている。
そして、この点について具体的に考える上で「地方改革」は最適だろう。地方であればあるほど、日本が将来的に直面する社会課題を先取りしている。それに対する危機意識を持つ者も、都会よりは多いだろう。しかしやはり全員ではない。だからこそ「危機意識を持っている者同士をいかに繋げ、危機意識をまだ持てていない者をどう巻き込んでいくのか」という発想が重要になってくるし、その実践の場として地方は適していると感じる。
そういう意味で本書は、あらゆる組織・コミュニティにおいて参考になる話ではないかと感じる。
日本の人口は減り続けているし、これからも増えないと予測されている
日本は様々な社会課題を抱えているが、本書はその中でも「人口減少」を取り上げる。出生率が低くなっている、若者が結婚しない、結婚しても子どもを持とうとしない、少子高齢化が進んでおり若者の数が少ない、などなど、「人口が増えない/減っている」ことに絡む話は日々耳にすることがあるだろう。しかし実際に現状がどうであり、どのような予測がなされているのか知っている人は多くないと思う。
本書の31ページには、2010年に国土交通省が作成した「人口変動の予想グラフ」が載っている。まったく同じものではないが、同じく国土交通省が作成した資料があるのでリンクを貼っておく。
https://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/keikaku/lifestyle/kondankai/shiryou5.pdf
本書によれば、2000年から2050年の50年間で、人口が約3000万人減ると予想されている。この記事を書いている時点での東京の人口が約1500万人なので、50年で東京の2倍の人口が減るというわけだ。
また、2050年から2100年までの50年間については3パターンの予測が提示されているのだが、その中で最も悪い予測の場合、日本の人口は3770万人となる。これは、明治維新の頃とほぼ同じ人口だそうだ。
なかなか衝撃的な可能性ではないだろうか。こういう予想がどの程度正しく未来を描くものなのか分からないが、人口に関しては「出生率」「死亡率」などの統計データがかなり潤沢に揃っている印象があるので、大きく外れた予測にはならないのではないかと私は思っている。
また重要なのは、「ただ人口が減るだけではない」ということだ。予想しているだろうが、高齢者の割合がさらに高くなると予測されている。2050年の予測値では、人口に占める高齢者の割合は40%とされているのだ。「高齢者」というのは65歳以上の人を指すので、2050年には「5人中2人が65歳以上」ということになる。ちなみに、日本の人口のピークは2006年であり、その時点での高齢者の割合は20%だったので、約50年でその割合が2倍になる、と予測されているというわけだ。
それがすべてではないにせよ、日本が抱える問題の多くにこの「人口減少」が関係している。方では特にその影響が深刻だ。先程示した「人口における高齢者の割合」は日本全体の平均だが、当然、地方の方が高齢化率は高くなる。働く人が少なくなる一方で、医療・介護・生活のサポートを必要とするお年寄りの割合が増していくのだ。
本書では、「人口減少」に直面する地方の厳しさと、それにどう対処しようとしてきたのかの歴史がざっくりと概観されていく。政治の世界で「出生」を扱うことの難しさや、「かつての成功体験を追い求めてしまいがちな発想」が悪循環を生んでいる現状など、過去から現在に至るまでの情報が様々な形で整理されていくというわけだ。
富山県の成功例
本書は、タイトルに「福井」とつくが、富山県の事例についても多く触れられる。まずそちらの話からしていこう。
私は本書を読むまで知らなかったが、富山市は世界的に注目されている「コンパクトシティの成功例」なのだという。コンパクトシティ先進都市である「メルボルン」「バンクーバー」「パリ」「ポートランド」と並び、富山市が選出されているのだ。
本書には、まさにそのコンパクトシティ化を推し進めた市長が登場する。そして現状をどう捉え、その改善策としていかにして「コンパクトシティ」にたどり着き、それをどのように実現させていったのかを語っていく。
「コンパクトシティ」というのは、名前のイメージの通り、「郊外に居住地域が広がらないように抑え、生活圏を出来るだけコンパクトにまとめた街」のことだ。例えば、山奥に住んでいる人にも水道を行き渡らせたり、数家族しか使わない橋の維持管理にお金が掛かったりと、住民が広範囲に渡って分散していると、それだけ行政サービスのためのお金が掛かる。だからこそ、住民をなるべく中心部などに固めることで、支出を抑えながら行政サービスを充実させるような発想が必要になっているのだ。
人口減少社会においては、検討すべき有力な対策の1つと言っていいだろう。
とはいえ、住み慣れた地域を離れてもらうのはそう容易なことではない。そこで市長は施策の1つとして、「お得感」を抱かせて行動変容を促そうとした。
その事例として紹介されているのが、「孫と一緒に来れば無料」というサービスだ。市内にある動物園など市が管理する施設について、「祖父母が、孫やひ孫と一緒に来れば入園料を無料にする」という1年限定の施策を行ったのである。
この施策に関する、市長の発言が非常に面白かった。
上述のようなアイデアは、別の自治体でも検討されていたのだが、「孫がいない人には不公平な仕組みだ」という声が上がり、結局実現しなかったという。しかし市長は、「小さい子どもを連れてきて『孫だ』と言い張ればいい」と堂々と主張する。
これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます
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