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【変】「家を建てるより、モバイルハウスを自作する方がいいのでは?」坂口恭平の疑問は「常識」を壊す:『モバイルハウス 三万円で家をつくる』

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「家」に付随する様々な「常識」に疑問を抱き、「モバイルハウス」という提案を通じて思考を促す1冊

著者は、早稲田大学建築学科に所属していた時には既に次のような疑問を抱いていました。

大学で建築を学んでいるときから、「人間は土地を所有していいのか」という根源的な疑問ばかり考えてしまっていた。
建築をやっている人間としては一番考えてはいけないことである。
そんなことをしていたら、現行の建築の仕事なんて何一つすることができない。

この時点で大分変わった人だと言えるでしょう。そう、著者の主張は基本的に、社会の大多数の人から「異端的」だと受け取られるだろうと思います。

大学を卒業した著者は、様々な活動に取り組んでいく中で、「家にまつわる疑問」にぶつかっていきます。「家賃を払うこと」や「家に莫大なお金を注ぎ込むこと」は社会では「当然のこと」のように受け取られていますが、果たして本当にそれしか手はないのだろうかと考えていくわけです。

今の住宅は、単純に頭で理解するということが困難なのである。マンションがなぜ三千万円もするのか、購入する人は何も分かっていない。ただなんとなく、家というのはそれぐらいするんだろうという思いこみで購入している。誰も、部材一つ一つの見積書なんて要求しない。完全にブラックボックスと化しているのである。
僕は建築業界のすべてを変えたいなどと思っているのではない。何千万円もする家を買いたい人、つまりお金を持っている人は買えばいい。しかし、借金をして買うのは馬鹿らしいのではないかと提案したい。

私も昔から、「借金をして家を買うのは間違っている」と考えてきたので、著者の主張には賛同する部分が多くありました。そんな著者が、「モバイルハウス」という提案を通じて、「物事の新たな見方」を提示する、そんな作品です。

制度や法律を変えるのは時間が掛かりすぎる。だからこその「モバイルハウス」という提案

著者は、「家」という存在が持つ不可思議さについて考え、やはりこれは「システム」、つまり制度や法律の問題なのではないかと考えるようになっていきます。

しかしその一方で、制度や法律を変えるのにはあまりに時間が掛かり、個人の一存ではどうにもならないこともまた事実です。

法律やルールや制度やシステムや行政や貨幣制度などを変えようと、必死に同一平面上で行動するのではなく、全く別のレイヤー(層)に自らを置き、思考の変化だけでこの現状の固まった社会を新しく見直すのである。

そんなわけで著者は「モバイルハウス」に行き着くことになります。発想は非常にシンプルで、「『家』はそもそもどのように定義されているのか?」という問いからスタートしたのです。基本的に「家」というのは「土地とくっついているかどうか」で判断されます。「不動産」と呼ばれるのも、そのような理由があるわけです。だったら、「土地とくっついていない家」、つまり「移動できる家」「車輪がついた家」であれば、法律や制度における「家」の概念からあっさりと抜け出せるのではないかと思考するに至ります。

つまり、モバイルハウスを建てるには、建築士の免許も不要で、さらに申請をする必要もなく、不動産の対象にもならないので固定資産税からも自由である。

言われて見ればその通りでしょうが、著者の思考は非常に重要だと感じました。法律や制度で定義される「家」は、免許や税金の対象になります。では、その定義から外れる「家」は? そんなものは関係なくなるというわけです。

そして著者は、「モバイルハウス」を「手作りのキャンピングカー」と称して駐車場に置かせてもらえるのではないかと、設置場所についても思考を進めます。そんな風にして、誰にでも作れる設計、誰にでも手に入れられる材料で「モバイルハウス」を作るという挑戦を始めていくのです。

本書で「モバイルハウス」という発想を知って、私は「なるほど、それも1つの手ではあるな」と感じました。私の場合、「物理的な本」の蔵書数が多く、引っ越しの際にもこの本の存在が結構ネックになるわけですが、そこさえクリアできるなら、「モバイルハウス」でも全然生活できるような気がします。今はどうしても、「ミニシアター系の映画を映画館で観る」「美術展に足を運ぶ」などの文化的生活をまだ諦めきれないので、家賃の高い都市部に住むという選択を止められませんが、自分の感覚としてそこもクリアできるのであれば、「モバイルハウス」でもまったく問題ない気がしました。将来の選択肢の1つとして脳内に留めておこうと思います。

「家」というものの概念を「都市」にまで拡張させる思考

完成させた「モバイルハウス」で実際に生活してみた著者は、「家」の概念を拡張させる思考を展開させていきます。

きっかけになった大きな出来事の1つは、東日本大震災です。未曾有の災害により、多くの人が土地や家を奪われてしまいました。そのような災害時に、著者は「モバイルハウス」の可能性を見出します。壊れても修復が容易で、いつでも移動可能。そんな「家」が増えれば、災害の多い日本での「新たな生活」が見出されるのではないかと考えるのです。

また「モバイルハウス」での生活は、「家に生活を合わせる」のではなく、「生活に家を合わせる」という著者の従来の考え方をさらに補強することにもなりました。この点については、『TOKYO 0円ハウス0円生活』の記事で詳しく触れたので読んでみてください。

これ以降は、ブログ「ルシルナ」でご覧いただけます

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