【到達】「ヒッグス粒子の発見」はなぜ大ニュースなのか?素粒子物理学の「標準模型」を易しく説明する
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「強い力」「弱い力」を支配する「対称性」と、「ヒッグス粒子」によって解き明かされた「弱い力」の謎
本書のタイトルには「強い力」「弱い力」「ヒッグス粒子」などのキーワードが含まれているが、これらはすべて、素粒子物理学における「標準模型」と呼ばれる理論に関係している。そして本書は、基礎的な知識を持たない人にもできるだけ分かりやすく「標準模型」を伝えようとする良書だと私は思う。
しかしだからと言って、易しい本というわけではない。何故なら「標準模型」そのものが非常に難解だからだ。文系の人でも頑張れば読めると思うが、簡単ではない。
「標準模型」は日本人を含む多数の科学者による長年の奮闘によって作られてきたわけだが、その過程で「強い力」「弱い力」という、それまであまり詳しく知られていなかった謎の力についての理解も進んでいくことになる。
そしてさらに「ヒッグス粒子」が発見されたことで、「標準模型はやはり正しかった」と確定することになったのだ。後でも触れるが、「ヒッグス粒子の発見」は「標準模型の完成」という意味でも非常に重要な出来事なのである。
さてこの記事では、「標準模型」そのものの説明はしない。図などを駆使しないと説明が困難であり、また、「標準模型」の全体像を知りたければやはり本書を通読するのが一番良いと思うからだ。
この記事では、タイトルにある「強い力」「弱い力」「ヒッグス粒子」が、「標準模型」の完成にどのように関係することになったのかというざっくりとした流れを書こうと思う。それによって、本書への興味を抱いてくれれば幸いだ。
「ヒッグス粒子発見」の驚きと誤解
著者はヒッグス粒子の発見に対して、こんな感想を書いている。
先ほど書いたように、「ヒッグス粒子」が発見されたことで「標準模型」が完成した。そう考えると、「科学者が予想していた通りだった」わけで、「驚き」や「感動」という感覚が理解できないという方もいるだろう。
著者は以下のようにも書いていて、これを読めば少しは状況が理解できるかもしれない。
科学の歴史においては度々ありますが、「そんな風になっているとはとても信じられないが、こうとしか考えられない」というような予想が生まれることがある。そして「標準模型」も、まさにそのような理論だということだろう。人間の思考力によって、「自然がこうなっててくれないと辻褄が合わない」という理由で考え出された仮説が、実際にその通りであることが示されたというわけだ。
「標準模型」がどれほど異端的な理論なのかを簡単に説明することはできないが、後で触れる「弱い力」の説明だけでも、充分その特異さを理解できるのではないかと思う。そしてそんなおかしな方式を自然が採用していたことが分かったのだから、それは驚きに繋がるだろう。
さて、「ヒッグス粒子」が発見された際、報道などではよく「ヒッグス粒子によって物質の質量の起源を説明できる」と紹介されていた。私も、テレビなどでそのような紹介のされ方をするのを目にしたことがあるが、本書では、その理解はほぼ誤りだと指摘されている。
実際には、物質の質量の99%は「強い力」が生み出しており、「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」は残りの1%にしか関係していないという。確かにこう説明されると、「ヒッグス粒子が質量の起源を説明する」という紹介は誤りだと感じるだろう。テレビなどマスメディアでは、科学のネタを短い時間の中で正確に伝えることは困難だろうが、マスメディアの情報をそのまま受け取るのはマズいようである。
「ヒッグス粒子」の発見によって、「弱い力」の謎が解き明かされた
「強い力」「弱い力」については後ほど説明するが、まずは「ヒッグス粒子」の発見がどのように「標準模型」の完成に役立ったのかについてもう少し触れていこう。
まずは「ヒッグス粒子」が「標準模型」によってその存在を予測されていた最後の粒子だったということが挙げられる。つまり、「標準模型」が予測していた「ヒッグス粒子」がきちんと発見されたことで「標準模型」に必要なピースがすべて揃い、正しいことが判明したというわけだ。
では何故「ヒッグス粒子」などという粒子の存在が予測されたのかと言えば、それは「弱い力」を説明するためだ。「弱い力」というのはかなり謎めいた存在で、普通のやり方ではなかなか上手く現象として説明できなかった。そこで、「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」というものがあると仮定してみたらどうだろうか、というアイデアが生まれたのだ。
もともと「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」は、「強い力」を説明するためにその存在が仮定されたという。この記事ではその辺りのことには詳しく触れないが、やがてそれは「弱い力」を説明するための機構として流用されることになる。そして、もし「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」が存在するなら、「弱い力」が抱えている3つの難問を一気に解決できる、というモデルが作られたのだ。
しかし一方で、「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」の存在を仮定せずに「弱い力」を説明しようと試みる「テクニカラー理論」と呼ばれるアイデアも存在した。つまり、「ヒッグス粒子が存在するか否か」が確定しないと、どちらの理論が正しいのか分からないというわけである。
そして「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」が発見されたことで、「ヒッグス粒子(ヒッグス場)を使った弱い力の説明の方が正しい」と確定したということになるわけだ。
では、「ヒッグス粒子(ヒッグス場)」はどのようにして「弱い力」の謎を解明したのだろうか。詳しいことは後述するが、ここでは「自発的対称性の破れ」という単語だけ出しておこう。つまり、「『自発的対称性の破れ』という現象が起こるなら、弱い力の謎は解ける」ことが分かっており、「その自発的対称性の破れを引き起こす仕組みとしてヒッグス粒子(ヒッグス場)が想定された」というわけである。
ではまず、「強い力」「弱い力」とは何か、という説明をしていこう。
「強い力」「弱い力」の説明と「対称性」について
「強い力」「弱い力」というのは、物理学の用語としては実に奇妙に感じられるネーミングだが、どちらも正式名称である。自然界には4つの力が存在しているとされ、その内の2つが「強い力」「弱い力」なのだ。他の2つである「重力」「電磁気力」はかなり早い段階で科学者がその存在に気づいたが、「強い力」「弱い力」は粒子同士に働く力であり、素粒子物理学が発展するまではその存在すら正しく認識されていなかった。
現在では、「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」の4つの力を統一することが物理学の聖杯と考えられている。どういうことかと言うと、「現在は異なる4つの力に分離しているが、ビッグバン直後はこの4つの力は同じ1つの力だったのではないか」という仮説があり、その正しさを示すために4つの力を統一しようとしているのだ。
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